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【農業国家アドモン編】第2話「種族と魔法」

 

「まずアドモンは国名のことを指します。今まで私たちがいたのはフロンティアと呼ばれる、イルソーレで最も小さな国です」


 メリノは大きな地図を広げ、フロンティアの国土を指してそう言った。

 イルソーレの世界地図が描かれている少しばかり古ぼけた紙質の地図の、左上にある小さな国。それが先日はリュウ達がいたフロンティアである。


「フロンティアは別名半人国と言われていて……半人種が住む国です」


「悪い。俺は、その半人種ってのも良く分からないんだ」


「あ、すみません――半人種っていうのは、人とそれ以外の種族のハーフのことを指します」


 ――歴史は長く、半人種は原書の異人種が自身の種族反映のために起こした実験による結果だと伝えられている。


 イルソーレの人間が異彩と呼ばれる力を持ち、支配者として君臨している――しかしその寿命は果てしなく短く、身体的強度は基本的に並みと言われている。


「私も詳しくは知らないんですが……すごく昔に、異人種の祖先が異人種と他種族のハイブリットを作ろうとして失敗したんです」


「失敗?」


「はい。半人種は、異人種と違って大抵は異彩を持たないとされてます。だから半人種は異彩も持たず、身体能力も他種族に劣る……もちろん例外もいますが」


「だから異人種の手駒になってるってわけか」


 つい先日、戦った異人種の集団がまさにそれを顕著に出ていたものだ。レイアを筆頭に、異彩の恐怖で整った集団……故に忠誠はなく、主を放って逃げる結果に至った。


 リュウはともかく、この世界が異人種を中心になっていることを再認識した。


「フロンティアはイルソーレ最北西に位置する国で、私たちがいま向かっているアドモンは、フロンティアから南西へ進んだ隣国です」


 メリノはアドモンを指さす。地図上ではフロンティアの三倍近い国土があった。


「イルソーレは大陸が大きく西部と東部でわかれています。西部がいま、私たちのいる大陸で、異人種が居住するために支配している国から遠く離れてます」


「……理解した。それで、アドモンはどんな国だ? 人間に支配されているのか?」


「いえ――アドモンは世界でも有数の、異人種の支配から逃れている数少ない国家です」


 国家、という言葉にリュウは疑問を抱く。

 フロンティアは半人国で、アドモンは国家。その違いが分からないでいると、メリノはすぐに話し続けた。


「アドモンは小人族と呼ばれる温厚な種族が、農業や酪農によって生活をしている国です。小人族はとても勤勉で真面目で、世界の食の生命線です――だから異人種もアドモンには手を出せません。彼らは自給自足の達人です。支配するよりも、友好的な関係を築いた方が良いんです」


「……国家ってことは、この国は一定の秩序が保たれているってことか?」


「そういうことです――安定的な金銭の確保、安定した食料問題。人手で半人種を雇うことで、多くを支えるイルソーレの縁の下の力も持ちが、小人族です」


「……なるほど、安定した生活を取れる可能性はあるということか」


 生き延びる選択肢が少ないメリノたちだが、その中で生き残る行動を起こして最適解を探している点に、リュウが感心する。


 実際に小人族と話してみないことには分からないが、しかしあのままフロンティアに居続けるよりかはよっぽど建設的な選択だ。


「……アドモンって国のことはよくわかった」


「よ、よかったです……。他に何か気になることはありますか?」


「そうだな……種と族の違いはなんなんだ?」


 リュウはここまで最も疑問に思っていた質問をメリノにする。

 これまでリュウは異人種、転移種、半人種などといった『種』と、天羊族や小人族などといった『族』の違いに要領を得ずにいた。


「えっと……種っていうのは、大まかにそれぞれの生き物をカテゴリー化したものなんです。種と呼ばれるのはこの世界における影響力や、種全体の絶対的な数によって決まります」


 例えば異人種はこの世界においてその絶対数は数で数えられるほどにしかいない。出生率が悪く、他種族に比べれば一度に生まれる子供も一人か二人だ。しかしその異彩による力は大きく、『種』に分類されている。


 対極としては半人種だ。半人種はこの世界において原獣種と呼ばれる種族に次いで数が多く、世界各地に存在している。


「逆に『族』は、それぞれの『種』をさらに細かく分けた存在です。例えば私たち天羊族は、半人種みたいなんですけど、実際には獣人種に分類される『族』です。小人族は獣人種に分類される『族』で、将来的には『種』になると思います」


「……なるほど、世界的な影響力が大きくなれば、族から種になるってことか」


「そういうことです。ごめんなさい、私もこれくらいしか分からなくて、たぶん起源を辿ればもっと他に生物の成り立ちがあるとは思うんですが……」


「いや、十分だ。……自分で勉強したのか?」


「はい! 私、アイスみたいに強くなくて、そこまで体力もないから……それにお勉強は好きです」


 メリノは薄っすらと微笑んで、世界地図を閉じた。


「……私からも、質問してもいいですか?」


 するとメリノは、リュウの目をまっすぐ見据えてそう聞いた。


「ああ」


「――リュウさんの違法は、何ですか?」


 ……メリノは転移種のことも知っている。転移種はこの世界ではない別世界から来た人間で、この世界の異彩とは一線画す力を持つことの多い違法を持っていることも知っていた。


 リュウはレイアに真っ向から対立し、そして撃破した。


 リュウは知らないだろうが、レイアは異人種の中でも武力に秀でた異彩使いであり、本来はその熱量にただの人間が勝てるはずもない。


 ――味方の力は知らないわけにはいかない。それをリュウも感じ取れたが……彼女はリュウが力を持つことに期待しているはずだ。


 だから今からリュウが告げる言葉は残酷である。


「……俺は――違法を持ってないんだ」


「――え?」


 メリノはリュウの告白に、目を丸くした。


「期待に沿えなくて、悪い」


「い、いえ……でも」


 ――ならばなぜ、違法も持たない人間が、異人種であるレイアを倒すことが出来る。

 メリノはリュウの戦いぶりを間近で見ていた。放たれる拳は強力で、動きも人間離れしている。だからこそメリノは、リュウの違法がアイスのような身体強化のようなものだと想像していた。


 しかし実際はそれはリュウが元々持つ身体能力であり、超常の類ではない。


「……異人種が異彩とやらを持ってても、結局あいつらは人間だ。殴れば血を吐くし、剣で刺せば獣よりも簡単に死ぬ」


 硝煙と血なまぐさい世界で生きていたリュウにとっては、異彩も拳銃も変わらず脅威だ。


 故にこの世界の人々の異人種の異彩に成す術がない、などといった常識は持ち合わせていない。


「……そう、ですか――またいつでも、なんでも聞いてください」


 ――メリノは、意外にも柔らかな微笑みを浮かべて、そう言った。

 その表情の真意はリュウには分かるはずもないが……何故だか、どこか安心したような表情を浮かべていることはわかった。


 リュウは横目に彼女を見るが、すぐに前を向く。木々の間を掻い潜り前に進み続けていたが、どうやらそれも終わりだ。


 ――フロンティアとアドモンを別つ、大きな山々の山頂。その山頂から見える景色は、月の光に照らされた彼らの目的地だ。


「……これがアドモン」


「私たちも来るのは初めてです……ッ――農業国家アドモン」


 ――山の上から見えるのは、限りなく畑が広がり、民家のような建物が幾つも並ぶ栄えた景色だった。


 フロンティアとは違い整備が滞りなく済んでいる景色に、メリノは少しばかり感動を覚えた。



 ◎・・・◎



 ――山を下るのは朝に持ち越して、今晩は野営で夜を明かすこととなる。

 山の頂上には少しばかり開けた空間があり、そこで馬車を止めて野営の準備をする。


 準備をするといってもすることは少なく、薪をくべてを火を起こすだけだ。しかしその火起こしの方法は、リュウにとっては新鮮なものだ。


「――火よ」


 薪をくべたところに、メリノは手をかざす。そして小さな言霊と同時に、手の平からは小さな火の雫が薪に落ちた。


 薪に火が燃え移り、次第に辺りを炎の光が照らす。


「……なんだ、それは」


「……知らないんですか?」


「ああ、知らん」


「本当に何も知らないんですね――魔法ですよ。火の魔法です」


 メリノは当然のようにそう答えた。


 ――リュウはあまりその手のオカルトには詳しくないが、この世界にも魔法は存在するのだ。


「……便利だな」


「魔法ってそういうものなんですよ。私生活をする中で必要不可欠なものです。みんなある程度大きくなったら出来ますよ」


 メリノは人差し指に火を浮かべて、少しだけ得意げにそう言った。


「……戦いに使えないのか、魔法は」


「――使えない。魔法は世界中の人が生きやすくなるためのもの。そもそも燃費最悪」


 ぬるりと、アイスが影から現れてリュウの背中に抱き着いた。

 相変わらずの懐きぶりにリュウも少しずつ慣れてはきたが、すぐに引き剥がす――それよりも魔法だ。


「そんなに燃費悪いのか?」


「……そうです。代わりに魔力を持つ人は誰でも使えるのが魔法なんです。魔法を攻撃的に扱える人なんていません――魔力は尽きたらそれだけで動けなくなります」


「……そういうものか」


「そんな風に使えてたら、苦労しない」


「アイス、偉そうに言うことじゃないよ」


 焚火の近くで軽く談笑を交わす――馬車ではチャオビット、シャロリー、サヴォークが眠っている。あの揺れの中でよく眠れるものだとリュウは感心しているところ、リュウは地面に座った。


「……リュウ、野営の警戒は、私がする」


「気にすんな。日中休んだから、お前も妹たちの面倒で疲れてるだろ」


「……む。それ、リュウも同じ」


 アイスはジト目でリュウを睨むが、彼からしたら何一つ怖くはない。むしろ可愛げさえも感じた。


「メリノ、お前は休まなくていいのか」


「わ、私はあまり疲れてないので――それにあの子たちがいないところで、話したいこともあります」


 メリノは馬車の方に目配すと、リュウとアイスも納得する。


「まずチャオビットのことです。あの子は、リュウさんに対してどう接せばいいか、分からないでいます。だから……きっと失礼な態度をとってしまうと思います」


「……当たり前だ。むしろチャオビットが正しい――お前は気を許しすぎだ」


 隙あらば気を詰めようするアイスに、リュウは軽く拳骨を頭部に入れる。


「…………スキンシップ」


「後に――いや、やめろ」


 しかしリュウも何故かアイスに甘い。というより、子供には甘い傾向にある。

 アイスはリュウのその発言にニヤリと笑い、そして素直に距離を取った。


「……チャオビットはすごく真面目な子だから、きっと時間が解決してくれます。だから、その、リュウさんも……あまり気にしないでください」


「お姉、世話焼きすぎ――リュウ、チャオはチョロいから、安心して」


「妹になんてこと言ってるの、アイス!!」


「客観的事実」


「それは――そう、かもしれない、けど……」


 メリノは否定しきれず、メリノに申し訳が付かずにいる。……ペコラ五姉弟弄られ担当、チャオビット。散々な言われようである。


 リュウはアイスとメリノの会話を内心面白げに見ている。もちろん無表情は崩さない。しかしなぜかアイスにはそれが筒抜けなのか、アイスは少し煽るような表情を浮かべて……


「意外と、リュウは表情豊か」


「え…………えぇ……」


 アイスの発言にメリノは首を傾げ、しかし一応妹の言葉は信じてリュウの顔を見るが――何一つ変わらない表情に困るのであった。


「アイス、なんで分かる」


「シンパシー」


「……そうか」


 似たもの同士には言葉など不要なのか、必要最低限の言葉の掛け合いで、リュウも納得するのであった。


 当のメリノは放置にされて困り果てた表情をしているが――心は、つい数日前とは違って安らかなものだった。


 ……そんなたわいない掛け合いをしている中、リュウはメリノとアイスを観察する。


 ――水浴びなどは出来たため、身体の汚れなどはあまり気にならないが……しかしやはり同じ服を着まわすなどは難しく、かなりボロボロになっていた。


 リュウもオシャレなどには興味はないが、しかし彼女たちの格好には少し考えるものがある。アイスは動きやすいハーフパンツと白い無地のシャツ。メリノも膝上ほどの白いワンピースのようなシャツを着ているが、やはりシンプルが故に汚れが目立つ。


 ……どこかで服を買わねばならないと思いながら、保存食の干し肉を口にした。


「――肉といえば、シャロリーとサヴォークが持って帰ってきた肉って、リュウさんがくれたものだったんですか?」


「……今更聞くことか?」


「…………それもそうですね」


「リュウ、私も欲しい」


 ――少し考えをまとめながらも、山の山頂での夜は更けていった。


 そして翌朝……


「――三人とも、風邪ひくぞ!? なんでこんなところで川の字で寝てるんだ!?」


 気付かない間に三人は眠っていたようで、火の近くで川の字で眠っていたのだった。

 それをチャオビットが発見し、死んでいるのではないかと心配したのは裏話である。


 ……ちなみに野営の見張りは従順なパワーホースの二頭がしてくれていたと、後にチャオビットが当人から聞いたという。

パワードホース一号「なんでこのひとら、野山で眠るんや、兄貴」

パワードホース二号「強者は場所を選ばへんねん、弟」

パワードホース一号「そうなんやー。じゃあしゃーないから見張っといたろかー」

パワードホース二号「ってな感じで守ってたんやで、お嬢さん」

チャオビット「!? !!? !!」



ここまでお読みいただきありがとうございます!

気が向いたらブックマーク、感想いただけたら飛んで喜びます!


また次回もよろしくお願いします!

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