始まりのフロンティア編・幕間
――フロンティアの森、近辺。
異人種レイアの異彩によって森には火が放たれ一部は燃えてしまったが、森の精霊種たる森亀・フォレスタートルによる激流の水によって消火され、生態系へのダメージは防がれた。
……そんな森の近くでレイアは未だ倒れたままだ。先の戦闘によって身体全身に生命活動において致命的なまでのダメージを負っており、少なくとも自身で立ち上がることは毛頭不可能だ。
……そんな敗北者の傍には、小さな獣車が止まっていた。
「――リュウ、本当に強いなぁ。ねぇ、君もそう思うでしょう?」
意識のないレイアに語り掛ける、人とはかけ離れた容姿をしている半人種だ。
黒い鱗に覆われ、人と近しい部分は人語を話す点と、二足歩行の二点のみだ。
――行商人ジェネスは、先の戦いを遠くから見守っていた。
最初はどうなってしまうのかと多少の心配をしていたジェネスであったが、彼の心配は杞憂に終わった。
結果論だけ言えば、レイアはリュウに完全敗北し、心身ともに負けた。
違法はないとリュウは言っていたが、それは正しかった。戦いの中で違法を使用した場面は見受けられず、蹴りと殴打だけの徒手格闘だけで異人種を圧倒した。
「……リュウはペコラの仔羊と共に、アドモンへ向かった。全く、せっかく異人種を倒したのならちゃんと止めを刺せば良いのにねぇ――まぁ僕には関係のない話だけど」
ジェネスはレイアを意に介していない。まるでレイアが万全であっても何ら問題なく叩き潰せるといわんばかりに……彼に触れることなく、獣車の方へと向かった。
自身の獣車の運転席に座り、そしてその荷台を引く生物……魔獣種・ダークリザードの頬を撫でた。
本来半人種が魔獣種を従えることなんてないが……ダークリザードはジェネスによく懐いている。嬉しそうな声を漏らし、そしてジェネスはリュウ達が向かった方向からには進まず、アドモンの隣にあるグレイワズという国に向けて舵を引く。
「君はそんな簡単に終わらないことがよく分かった。また次に会えることを期待しているよ、リュウ」
そうして彼もその場から離れていった。
――更にそれから時が経ち、フロンティアに雨が降る。その雨水でようやく、レイアは目を覚ますが……彼の周りには、人がいた。
「……あららあららぁ~。ねね、こんなところで、なにしてるの~?」
「――あ、あなたは……何故、将軍の貴方が、こんなところにっ」
「う~ん? 僕はお空を散歩してただけだよ? そしたら君がこんな無様に倒れてたものだから――ね、準幹部のレイアくん」
青く長い髪に、その身体よりも二回りも大きな服を着る女性を前に、レイアは冷や汗が止まらない。
……そう、レイアは異人種の中でも準幹部と言われる割と地位は高い。だが、今、彼が顔を合わせる女は、異人種の中でもトップクラスに君臨する「将軍」を関する人間の一人だ。
「……ささ、何があったか、話してもらうよー? 包み隠さず、全部話さないとぉ~――雷が落ちて、死んじゃうかもね!! あ、それもありかな?」
「は、話しますっ!! 話しますから――天将・ソラ様!」
――異人種。彼らは全ての人が異彩と呼ばれる強力無比な異能の力を持ち、イルソーレのトップに君臨する少数精鋭の種族だ。
そんな彼らは、世界中の人々から恐れられている。
そんな異人種の中でも、一際強い集団でいる。
それこそが――十戦将軍。過去存在した人間と他種族の争い。その十の戦争をたった一人で終わらせた十人の人間たちに与えられたのが、その称号である。
彼女はその中でも上に君臨する十戦将軍第二席・天将ソラ。
異人種の中でも特に殲滅力、戦闘力に特化したトップの十人。たった一人でも他種族を根絶やしにできるほどの異彩を持つ、人類の最高峰とも言える一人だ。
それが彼女の肩書であった。
「あららあららぁ……そんなに怯えちゃって――ほんっと、可愛いねぇ」
嗜虐心の強い目が、怪しく光る。
そうして仔羊を転移種が守ったという事実は、異人種に伝わってしまう。
このことが彼らの旅路は、酷く険しいものにしてしまうことを、リュウたちは知る由もなかった。
――始まりのフロンティア編、終幕
Next……農業国家アドモン編
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