第五話
麗司の手の甲には、
手の骨の間の隙間をを縫うように女の指が食い込んでいた。
手の甲から食い込んだ指は、
内部から麗司の手首に届くほどであった。
痛覚。
内部から受けた刺激が、
電気信号へと変わり脳へと届く。
それは麗司にとっては今まで経験のない新しい痛みだった。
女の色白い腕は、
本体から切り離されたトカゲの尻尾のようにびくびくと脈を打ち暴れ始めた。
麗司の左腕はそれに振り回されるように、
そして麗司も部屋中を叫びながら転げ回った。
ドクンドクン
麗司の心臓は激しく脈を打つ。
麗司は女の右腕を引き離そうと、
その腕を掴んだ。
麗司が掴んだその腕は心臓のようにドクンドクンと脈打ち、
それは一つの生命体の存在を麗司に直感させた。
同時に、
麗司はその腕を握ることにより、自らの心臓に触れている錯覚に陥った。
どくどく
どくどく
(なんだこれは、僕の血を吸っているのか?)
その白い腕は、
次第に赤みを増していった。
女の腕の白い肌の中に透けて見える血管には、
鮮やかな赤い血流がはっきりと見えた。
それは明らかに、
麗司を源流とした血液であり、
しかしもはや麗司のものではなかった。
(ダメだ、病院に行かなくては、
病院でこれを取らないと、僕はどうにかなってしまう!!)
麗司は激痛に襲われる中、
自らの右腕でスマホを探った。
女の腕と一体化した麗司の左腕は、
それを阻止するようにより激しさを増して暴れ出した。
麗司は力を振り絞り女の腕を部屋の壁に叩きつけた。
その衝撃の痛みはそのまま麗司のものとなり、
麗司に襲い掛かった。
痛みのあまり意識は遠のき、
麗司の意識は再び深い眠りの闇へと落ちていった。
意識が途切れる間で麗司の脳裏に浮かんだのは、
沙也加の顔だった。