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第一話



人はなぜ、美しいものに惹かれるのか。

美しさとは何なのか。

人はなぜ、美しいと感じるのか。


美しいものは時に人に幸福を運び、

時に人を破滅に導く。


触れたら身を亡ぼすが、触れずにはいられない禁断の果実がこの世には存在する…

あなたも既に、それらに出会っていて、引き返せない場所まで来ているのかもしれない…



~20××年初冬~


その日は、本格的な寒さが到来しようとしていた冬の一日だった。

渡辺麗司わたなべれいじ(17歳)はいつものように、

駅のホームで学校へ行く電車を待っていた。

朝のこの時間は、麗司以外にも通勤や通学の人々が多くいた。


麗司は秋が終わり冬がやってくるというこの時期が好きだった。

ハーと息を吐くと目の前には白い息が広がる。

受験というプレッシャーが襲い掛かってくるまで猶予のある高校2年生のこの時期は、

麗司にとって毎日が充実していた。

その日は、放課後に学友達とカラオケに行く約束をしていた。

麗司は早朝の駅のホームで、そのためのセットリストを考えながら、歌を口ずさんでいた。


麗司がふと向かいのホームに目をやると、

ちょうど麗司の正面に位置する場所に一人の女性が立っていた。


(やべっ、歌ってるとこ見られたかな。恥ずかしい。)


もう一度彼女に目をやると、じっと麗司の方を見つめていた。

その時、麗司と彼女の目線は重なり合った。


その表情に、麗司はある種の違和感と気味の悪さを覚えた。

感情の見えないその表情は、マネキンのような硬い質感と生気の無さを麗司に抱かせた。

その目は奥行きを感じさせない、平面に塗られた黒い点がただ反射しているだけのような…


(気持ち悪。ずっと俺のこと見てるじゃん。)


麗司は突如目の前に現れた違和感から目をそらした。

その時、

「間もなく、電車が参ります。

黄色い線までお下がりください。」


麗司の高校へ向かう電車のアナウンスがホームに流れた。

麗司は、早く電車が目の前にいる気味の悪い女の景色を遮断することを祈った。

女はいまだに麗司を見つめていた。

麗司は女を視界に入れないように目を伏せていた。


やがてその音と共に、電車が麗司の目の前に近づいてきた。

麗司は安堵と共に顔を上げた。


目の前には、その女が舞っていた。

電車の通過する軌道上に女はいた。

その瞬間、女は正面から電車に跳ね飛ばされた。


バンッ!!

キキキキキキキキ!!!!!!


一瞬の衝撃音と、けたたましいブレーキ音が駅のホームに鳴り響いた。



「飛び込みだ!!!!!!」

「キャー!!」


ホームには麗司と同じく電車を待つ人々の声で溢れかえった。

一方、麗司はというと向かい側のホームから自分の方に向かって飛び込んできた女の表情が

頭の中でフラッシュバックしていた。

至近距離で目視した、その表情には初めと同様無表情であったが、

その中に微笑が織り交ざった印象を抱かせた。



衝撃と恐怖で状況を理解できていない麗司の目の前に、一つの物体が横たわっていた。

麗司はしゃがみ込み、それを手に取った。

それは女の前腕部分だった。

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