3(穴居人からの文化的進歩)
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さて、お気付きのように、一美は異界往来全裸問題の解決はもちろんのこと、持ち帰りの術も会得している。おめでとう! 穴居人からの文化的進歩! 君を歓迎する。
教示してくれたのは金星人だった。そう名乗られたので疑う理由はなかった。たいそう綺麗なブロンド美人だったので、信じるに足りた。ガニメデ人が巨人であるように、金星人はブロンド美人と決まっている。
ブロンド美人の金星人は文字通り世界を掌中に収めており、唯一無二の存在であったが、来訪者はしょっちゅうあるようで、至って親切であった。
「こうこうこうでな」親切なブロンド美人の金星人は、身振り手振りで、「こうなのだ」
大変分かりやすかったので一美は直ぐに習得した。具体的な手法についての解説は割愛する。囚人が使うポケットのようなものである、と云うことでお察し頂きたい。抜け道は世の常である。
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「裸?」
期末試験が終わり、答案返却までの猶予期間に、さっちんがお泊まりで遊びに来た。
「今日は脱がないの?」とさっちん。
「お客様がおりますゆえ」と一美。
「ふーん?」さっちんはくりっと可愛らしく小首を傾げ、「お友達じゃん?」
「脱げと申すか!」
「窮屈に思ってたら、かわいそうだと思って。お友達として、あたしも脱いだがいい?」
なるほど、そうきたか。一美はちょっと考え、「ここは文明社会だ」散々、非文明的格好で異界を渡り歩いた小娘がのたまう。
一美とさっちんは、高校に入学したこの四月、席順で隣になったのが縁で話すようになり、なんでかウマが合い、放課後だけに飽き足らず、こうして互いの家にお泊まりをする仲にまでなったのである。
誤解され易いが、さっちんは優秀である。特に誤解しているのは一美なのだが、本人に自覚はない。灯台下暗しとはこのことだ。さっちんが好んでするデコ出しポニテはホントに眩しい。
「カズミってスタイルいいよね」
「そう云う話でなくて」
初日に名簿を見て声をかけて以来、さっちんは一美のことを「カズミ」と間違えたまま押し通している。四月の下旬くらいまでは訂正したが、既にクラス全体に普及し、担任にまでそう呼ばれるようになったので諦めた。誰もヒトミって呼んでくれない。
「おいこら触るな」一美は、ショートパンツの剝き出し太股を撫でるさっちんの手を雑に払った。
「ええやん、減るもんでもないし」
「減るんだよ」変態め。お返しとばかりにさっちんのケツを鷲掴みすると、「ひゃっ」マジでビビって、やった一美が驚いた。
「おなら出た」
しょんぼりするさっちんに罪悪感を憶え、一美は下腹に力を入れ、屁を放った。
「なんなの、もう」さっちんがお腹を抱えて笑い転げ、一美の気分もそれで晴れた。
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カマボコ板に釘を打つという、まことに奇矯な行為でも、一度や二度なら「あの家の娘は少しアレだ」とか云われたりするかも知れないが、常習となれば、「あの家の娘はかなりアレだ」と周りがどうあれ、本人はもとより、家族間でも「まぁうちの娘はアレだし」とか「俺の妹はアレだ」となるものの、「まぁアレだからね」とわりかし普通のことだと思われるようになる。や、それ間違いですよ。
一美は異界を渡り歩き、精神生命体から感応能力、つまりテレパスを修得し、ミュータントの世界で念力を修得し、進化の星で身体強化の技術を修得し、超機械文明から様々なテクノロジーを伝授をされ、灼熱極寒の地でエントロピーを操る術を修得した。
早速さっちん相手に、混ぜたミルクティーを、再び紅茶とミルクに分離させて見せた。
さっちんはすっごくびっくりして。
「なんて素敵にエコロジー!」
良く分からなかったけれども、友達が喜んでくれたので嬉しかった。窓の外の街路樹も、黄色く赤く鮮やかに、小春日和を大歓迎。