第8話 ラウリニア地区
順調です。
第8話 ラウリニア地区
少しして妙な空気に包まれていたラウリニアからざわざわと活気のあるラウリニアに変化した頃、僕は何事も無いように眠っていた。バレストリに優しく肩を叩かれ目が覚めたのだ。僕たちが見た気味の悪い光景は未だにわからないままだけどなんだか気にしてはいけないような気がした。無理矢理にでも忘れてしまおうとするけどそんなことできるはずなくて、あの光景が頭の中に張り付いてなかなか取れずにいた。
「起きてくださーい。ライルさーん?」
その横でバレストリがライルをゆっさゆっさと揺らして起こしている。趣味は寝ること、なんて言っているけど流石に寝過ぎなのではと思っている。でもいつものことだからやれやれという感じだ。
「くそっ全然起きねえ…連れてけばいいか」
昨晩まで大声で泣きそうな顔をして僕の隣でブルブルと震えていたダーマンがライルのほっぺたをバシバシと叩く。朝になったら違う人のようになるダーマンが不思議だな。あんなに怯えていたダーマンはどこに行ったのか。と思っているとダーマンがライルの腕を引っ張ってズルズルとライルを引きずり回している。なんか昨晩と立場が逆転しているような気がする。というか引きずられているのに起きないライルは死んでいるのではないかと心配になる。よく見るとライルは口をむにゃむにゃとさせて気持ちよさそうに寝ているようだ。そのまま小屋をでてソフィアさんの家へと向かう。僕とバレストリはその二人を引き気味に苦笑いで眺めていた。デュートは相変わらず子犬に夢中でただ僕たちの後ろをついて歩いているだけだった。
ここからソフィアさんの家はそう遠くない。ほぼ目の前だ。先頭を歩いていたダーマンがライルを片手にドアをノックする。するとしばらくしてドアが少し開いた。そこからソフィアさんが覗いて僕たちだと確認してからドアを全開に開いた。不自然なところなど何もない、そのはずなのにどこか胸がざわざわと騒いでいる。初めて会った時から美人だとは言えど奇妙な雰囲気を放っていたソフィアさんは僕たちを狙う獣のようだった。でもソフィアさんの頼みは解決済みだからきっとソフィアさんに会うことはないだろう。きっとどことなく不気味なラウリニアにも来ることなんてない。本当はこんな遠いところもうこりごりなんだけどね。
「白いモヤの正体はこの子だったみたいです」
そんなことを考えていると僕の隣にいたバレストリがデュートが大事に抱いてる子犬を取り上げてソフィアさんに見せた。取り上げられたデュートの顔がなんとも言えぬ顔で思わず吹き出しちゃいそうだった。ライルは相変わらず寝ているし、ダーマンはソフィアさんのことをずっと睨んでいるし、ソフィアさんにとって普通に見えているのは僕とバレストリだけだと思う。
「あら…こんなに可愛い子を幽霊だなんて。ごめんね」
ソフィアさんはニコリと優しく笑って子犬を撫でた。子犬も耳を垂らしながら気持ちよさそうに撫でられている。そんな光景を微笑ましく見ているとバレストリが飼い主を探していると切り出した。
「飼い主ですか…」
ソフィアさんは顎に手を当てて考え込んだ。その姿を睨みつけているダーマンはソフィアさんが答えるまで大人しく待っていた。
「この種の犬を飼っている人はいないと思います。ここには牧羊犬しかいないので」
牧羊犬は殆どが家畜に使われている。たしかに周りを見渡せば小さな牛舎や豚舎、鶏舎が所々にある。ここは山に囲まれていてミエリドラのように人で溢れているわけでもないし背の高い建物はなく唯一目印になるのは鉄塔くらいの正真正銘の田舎と言えるだろう。規模も小さく3日もあれば一周してしまえそうだ。これだけの規模であれば誰が犬を飼っていてなどわかっていてもおかしくはない。それに保護した犬だって大型犬だとは思うけどまだ子犬で牧羊犬には適していない。でもなぜこの犬はここにいたんだ。しかも同じ場所、同じ時間に現れるなんてどうにも怪しい。もしかしたらこの犬は誰かに飼われていたわけではないけど何者かに餌を与えられていたとしたら、犬がそれを覚えて毎晩ここに来てもおかしくはないはずだ。もしそうであればあの時も餌を待っていた…?もう少し待っていれば餌を与えている何者かに出会えたかもしれない。
「だれかこの犬に餌付けしてた奴は?」
ダーマンも僕と同じに思っていたみたいだ。まあこれはあくまでも仮定、真実なんて知るはずもない。
「いいえ。餌付けできるようなお金なんてありませんから」
「金がないのならあの量の金はなんだ」
先程までしょんぼりしていたデュートが威圧的に言葉を発した。
「あれはみんなで出したものです!」
デュートの威圧に怖がるように胸に手を当てて必死に抵抗しているようだった。餌付けできるような金がないのならみんなで金を出し合っても小説のような厚さになるものなのだろうか。でも誰もが金を持っていないわけではない、それに前から少しづつ集めていたのかもしれないし、貯金を切り崩したのかもしれない。いろんな可能性は考えられるけどソフィアさんと話をするたびに全てが疑わしく聞こえてきてしまう。
「あの…あんまり探索するのはやめよ?」
バレストリが悪くなった空気を浄化しようと恐る恐る話を片付けようとした。ここにいるみんなはきっとソフィアさんを怪しんでいるんだ。目つきがさっきまでと全然違う。
「と、とりあえずこの子はうちで引き取るということで…いいですか?」
僕もあまりの空気の悪さに息苦しさを感じて手を叩いてこの場をまとめた。この犬はうちで引き取るという方向でソフィアさんも了承してくれてこの場は収まった。
To be next scene…
ソフィアさんはとにかく怪しい女です(笑)