第九十六話・己を見つめ直す時
鎧魔獣の襲撃から数週間が過ぎ、里もだいぶ落ち着きを取り戻した。
皆が一致団結したおかげで、里の復興は予定より早く終わった。
エルサの里帰りのはずが、とんだ大事件になってしまった。
私達は疲れを癒すため、ブラゴの家でゆったりとくつろいでいた。
エルサは外に出て一人修行をしていた。
「すまなかったね、ろくにおもてなしも出来なくて……」
ブラッドは申し訳なさそうに頭を下げた。
「良いんだよ、アンタらが気に病むことじゃない、俺達は無限の結束だからな」
ヴェルザードはマルクと拳を合わせた。
「所で、グレンの奴は何処だ ?」
「グレンはあれからずっと部屋に籠ってるんだよ……いくら呼び掛けても返事すらよこさないんだ……」
ブラゴは悲しそうに言った。
無理もない。神器を奪われてしまったのだ。責任を感じているんだろう……。
でも里の人達はグレンを責めはせず、寧ろ誇りに思っていた。伝説の神器に選ばれ、鎧魔獣を倒したのだから。
「たく、ちょっと励ましにいってやるか」
グレンのことを気にかけていたマルクはグレンの部屋へ向かった。
「あいつ、すっかりグレンを弟扱いだな、にしてもあのデビッドってジジイ……何のために神器を狙ってんだ ?」
確かに謎は多い。
何故デビッドはオーガの里の神器を狙っていたのか……。
何故オーガ族を滅ぼそうとしていたのか……。
そして、何故エルサの妹がデビッドの下についていたのか……。
「さあね、ま、良からぬことを企んでるのは間違いないだろうね」
ブラゴはそう断言した。
そう言えば、あのミーデも最初は私からランプを奪おうとしていたっけ……。
何か繋がりがあるのかな……。
「そうだ、そろそろ昼飯の時間だよ、誰か、悪いけどエルサを連れてきてくれないかい ?」
ブラゴに言われ、私は即座に手を上げた。
「あの、私が行きます」
「すまないね、頼んだよ」
ブラゴは笑顔で私の肩をポンと叩いた。
「よお、グレン、いつまでしょげてんだよ」
俺はグレンの部屋の扉の前に立ち、声をかけた。
「……うるさいな……ほっといてくれよ……」
グレンは力ない声で返事をした。
やれやれ、相当堪えてるようだな。
「お前は充分頑張ったよ、すげえじゃねえか、たった一人であの鎧魔獣をぶった斬るなんてよ」
俺は扉にもたれかかるとあぐらをかき始めた。
「あれは……神器の力のおかげで……俺の力じゃないし……使いこなせてないし……結局神器も取られちゃったし……結局……何も守れてないじゃないか……」
グレンの声は震えていて、今にも泣き出しそうだった。
「たく、前にも言ったろ、肩に力入りすぎだって、何もかも背負い込みすぎなんだよ、お前は」
俺は優しく励ました。
グレンはただ黙って聞いていた。
「神器とか里とかについては全然わかんねえけど、お前は神器に選ばれたんだろ ?素質があるってことじゃねえか、それに、お前にはまだまだ伸びしろがある」
「本当…… ?」
俺は首を縦に振り、頷いた。
「その悔しさをバネに、更に強くなろうぜ。神器だって、また取り返せば良い、男はなぁ !何度も何度も負けて、その度に強くなる生き物なんだよ !」
俺は熱く熱弁した。
「……ありがとう……」
グレンは小さな声で呟いた。
「兄貴は優しいな、俺、少しは元気でたかも」
「へへっ、俺も昔、落ち込んでたら兄貴が慰めてくれたからな」
グレンはこれからもっと伸びる。
いつかこの里を守れる立派な戦士になれる日が来るはずだ。
俺はグレンを応援したいと思っている。
暫くして、グレンは部屋から出てきた。
気分転換に、俺はグレンの修行に付き合うことにした。
体を動かすのは良いことだからな。
私は外でエルサの元に向かった。
あの戦いから、エルサの様子はどうにもおかしかった。心ここにあらずというか……。
リトもここ最近ずっと反応なしだ。
話しかけても返事をしてくれない。
闇の力を再び暴走させてしまったことを悔いているんだろう……。
でも自分の意思で暴走させたわけじゃない……。だから自分を責めないでほしいと思ってる。
エルサは修行で、滝行を行っていた。
皆がくつろいでいる中、エルサはストイックだ。
「エルサさん……」
丁度滝行が終わったようで、エルサは滝壺から上がってきた。
「ワカバか……何、精神を統一して、己を見つめ直していたんだ。良い修行になったぞ」
「エルサさん……お疲れ様です」
「ありがとう、ワカバ」
私はエルサに白い布を渡した。
エルサは裸体を布で拭きながら遠目で空を見つめた。
「私はまだまだ未熟だ……結局私は何も守れなかった……あの頃と何も変わりはしない……私は弱い……」
エルサは拳を強く握りしめた。
「あの……デビッドを庇ったあのダークエルフって……」
「私の妹だ」
エルサは断言した。
やはり彼女がエルサの……。
「絶対に助からないと思っていた……まさか生きていたとはな……それも仇の下について……何故ダークエルフになっていたかは不明だが……私はどう思って良いのか分からんよ……」
エルサの内心は複雑だった。
妹が生きていたのは嬉しいはずなのに、その妹はよりによってエルサの故郷を奪った張本人の味方をしていた。
彼女の真意は何なのか……。
「でも……生きてるなんて良いことじゃないですか」
「ワカバ……」
「死んだら何も変えられないけど……妹さんはどういう形であれ、生きているんです……生きてるということは、色々な可能性が広がってるってことなんですよ」
エルサは私の言葉を聞いて、表情が和らいだ。
「妹さんが間違った道を歩いているなら、正してやれば良いんです、それが出来るのは、姉であるエルサさんしかいません」
私はエルサの肩を揺さぶった。
「そうだな……私は……当たり前のことを見失っていたよ……そうだ……ルーシー……必ず君を取り戻して見せる…… !ありがとう、ワカバ……少し気持ちが楽になった……」
エルサは少し目に涙を浮かべながら微笑んだ。
「その為に、私はもっと強くならねばな…… !」
エルサは決意を新たにした。
私も彼女のように強くなりたい……。
今回の戦いでも私は役に立てなかった……。
結局リトに頼りっぱなしで、リトが傷付く結果を招いてしまった。
これ以上皆の足を引っ張りたくないのに……。
「そうだ、ワカバ……相談したいことがあるのだが……」
「エルサさん……実は私も……」
To Be Continued




