第九十四話・鎧を砕け
高みの見物を決めていたデビッドは闇の力を目覚めさせたリトに反応した。
「ほう……あれがミーデが言っていた、イフリートの魔人形態か……闇の力を目覚めさせたようだな」
デビッドは興味津々にリトに注目していた。
「ではお手並み拝見と行こうじゃないか、魔王様の闇を宿したイフリートの力……見せてもらうぞ」
一方、祠で待機し、神器を見守っていたグレンは、異変に気付き始めていた。
「くそぉ !どうなってんだよ…… !このままじゃ里が…… !」
グレンは己の無力さにうちひしがれていた。
今の自分では、里が危機に瀕していても、何も出来ない……。
「ん ?何だ…… 」
その時、地面に突き刺さっていた神器が白く発光を始めた。
まるで、グレンを導くかのように……。
「俺を呼んでるのか……」
グレンは何かに突き動かされたかのようにゆっくり神器に近づき、恐る恐る手を伸ばした。
鎧魔獣の尻尾に叩き付けられ、地面にめり込んで暫く気を失っていたリトは、闇の力を再び目覚めさせてしまった。
リトは邪悪なオーラを発生させ、大気を震撼させた。
「あの野郎……またあんなゴリマッチョになりやがって……」
「暴走しなきゃ良いけどな……」
この姿になると理性を失い、本能のままに暴れ、何もかも破壊し尽くしてしまう……。竜族との戦いの時のように……。
「あの姿……本当にリト……なのか…… ?」
エルサは驚きのあまり呆然としていた。
あの時はメリッサに石にされていた為、暴走したリトの姿を見るのは今回が初めてだった。
「ウオオオオオオオオオオ !!!」
リトは顎が外れるくらい口を大きく開き、獣のように雄叫びを上げた。
あまりの爆音に、この場にいる全員はたまらず耳を塞いだ。
鎧魔獣は底知れぬ邪悪なオーラに反応し、リトの方を向くと敵意を剥き出しにした。
魔獣はリトに向かってゆっくりと進行を始めた。
ババババババ
リトは人差し指を向けると指撃火炎弾を放った。
鎧魔獣は全身に火の弾丸を浴びても、止まることはなかった。
リトは不気味に口角をつり上げると加速し、魔獣に向かって突撃を開始した。
魔獣は大きな尻尾を振り、向かってくるリトを叩き落とそうとした。
だがリトは魔獣の尻尾を逆にとらえてしまった。
「ウオオオオオオオオオオ !!!」
リトは雄叫びを上げると自分の体の何十倍もある魔獣の尻尾を掴み、砲丸投げのように回転し、遠心力を載せ、勢い良く投げ飛ばした。
「あいつ……なんて怪力なんだ……」
ヴェルザードは思わず息を飲んだ。
投げ飛ばされた魔獣は地面に叩き付けられ、衝撃で地響きが鳴り、一軒の家が崩れた。
「あの野郎……少しは周りを気にして戦いやがれ…… !」
壊されていくオーガ達の家を嘆きながらマルクは悪態をついた。
リトは倒れ込んだ魔獣の背中に向かって容赦なく火の弾丸を浴びせた。
いくら頑丈な魔獣でも疲労が溜まり、ダメージが蓄積されていて、攻撃が効いているようだった。
だがリトの放つ火の弾丸は魔獣のみならず、里中に燃え広がった。
「リトやめろ !里が燃えてしまう !」
エルサは必死になって叫び、リトに訴えたが彼には届かなかった。
リトは加速し、魔獣に急接近すると、脚に炎を纏わせ、思い切り蹴り上げた。
魔獣はひっくり返り、柔らかい腹が露になった。
こうなってしまえば、戦車級の重量を誇る魔獣でも無防備な裸も同然だ。
じたばたと脚をばたつかせるも、中々起き上がれずにいた。
リトはニヤリとほくそ笑むと高くジャンプし、両足に炎のエネルギーを纏い、集中させ、一気に急降下し、魔獣の腹に飛び蹴りを喰らわせた。
「飛翔炎脚」である。
魔獣の腹はめり込み、焼け跡が生々しく刻まれた。
痛みから涎を撒き散らし、悶えてるように見えた。
リトは空中に浮くと人差し指を向けると指先に魔力を集中させた。指撃高熱線で完全に焼き払う気だ。
完全に形勢逆転した。リトの勝利だ。
と思っていたら、鎧魔獣は力を振り絞り、ひっくり返った体勢から丸くなり、回転を始めた。
リトは攻撃を中断し、防御の姿勢をとった。
しかしリトの体は透明に透け始めていた。
もうすぐ実体化が解けてしまう……。
魔獣はボールのように転がりながら高くジャンプし、リトに突撃した。
「ヌオオオオオオオオオ !!!」
リトは拳に炎のエネルギーを込め、向かって来る鎧魔獣に殴りかかった。
ドガァァァァン
鎧魔獣とリトの拳は激突し、大爆発を起こした。
全員は咄嗟に地面に伏せた。
煙が晴れると魔獣は落下し、地面に叩き付けられた。
リトのパワーが上回っていたようだ。
「はぁ……はぁ……」
だがリトは息を切らしながら煙になって消えてしまった。
「リト……」
私はランプを握り締めながら辺りを見回した。
酷い有り様だ……。
暴走したリトと魔獣の激しい戦いの余波でオーガの里は激しく損壊していた。
リトを召喚したのは私……。それを止められなかった私は重く責任を感じていた。
「おい、あれを見ろ !」
マルクが指を指しながら叫んだ。
何と魔獣はまだ生きていた。
フラフラになり、血塗れで満身創痍になりながらも、なおも魔獣は立ち上がったのだ。
そんな……もう皆……戦う力なんて残っていない……リトも消えてしまい、いよいよ万策が尽きてしまった……。
「おのれ……魔獣め…… !」
エルサは足元をふらつかせながらも何とか立ち上がり、剣を握った。
「エルサ、そんな体で無茶は止すんだ !」
そんなエルサをブラゴが制止する。
もう戦える人なんていない……。
今度こそ本当の終わりだ……。
私は膝をつき、完全に心が折れようとしていた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
一人の少年が閃光のように駆け回り、疾風の如く魔獣を切り刻んだ。
「アンタ……グレンなのかい…… ?」
ブラゴは突然現れた少年に声をかけた。
少年は振り返ると白く光る剣を握り、静に頷いた。
To Be Continued




