第九十二話・鎧の魔獣、里を襲う
オーガの戦士達は突然姿を現した鎧の魔獣を相手に、里を守るため奮戦した。
だが槍や剣などの武器は魔獣の装甲の前では小石程度でしか無く、魔獣が移動する時の風圧だけで何人ものの戦士が吹っ飛ばされた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ 」
一人のオーガの戦士がダメージを追い、吹っ飛ばされた時、ブラゴがタイミング良くキャッチした。
「せ、戦士長 !来てくれたんですね !」
「大丈夫かい、後はあたしらに任せな、頼もしい助っ人もいるからね !」
ブラゴはそう言うと自分の背丈の倍ある大剣を構えた。
私達はオーガの里で暴れる鎧の魔獣を止めるため、戦いを挑んだ。
グオオオオオオオオオ
魔獣は天高く咆哮を上げた。
竜のように凶悪な顔つき、氷柱のように鋭く尖った牙、剣山のように無数の針に覆われた甲羅……一目見ただけで分かる……とてつもない怪物だと……。
「あの魔獣の放つ魔力……超魔獣ミノタウロス以上だぜ……」
ヴェルザードはゴクッと唾を飲んだ。
超魔獣ミノタウロスは総力を上げてやっと倒した程の強敵……それ以上だなんて……。
他の皆も圧倒的な威圧感を持つ魔獣を前に緊張し、武者震いを起こした。
「この里は滅ぼさせやしないよ !」
ブラゴは先陣を切り、大きく大剣を振り上げ、勇ましく魔獣に斬りかかった。
キンッ
魔獣の頭部を狙ったが、岩のように堅く、簡単に弾かれてしまった。
「そんな…… !戦士長の攻撃が効かないなんて…… !」
他のオーガの戦士達は驚愕していた。
「このあたしが、無様なもんだねえ」
ブラゴは軽口を叩き、自嘲した。
口では笑っているが、内心はとても深刻に捉えているんだろう……。
魔獣は何事も無かったかのように進撃を再開した。
このままでは、魔獣が移動する度に里が崩壊する。
「私が止める…… !」
コロナは立ち上がると、杖を天に掲げた。
「泥の纏い !」
コロナが叫ぶと、魔獣の足を泥が蛇のように巻き付いた。
魔獣の四つ足に絡み付いた泥は固まり、動きを封じた。
魔獣は足を上げようともがくが、足元の泥が絡み付いて上手く動けずにいた。
これで被害を抑えることが出来る……。
「でかしたぜ、コロナ !俺も行くぜ !」
ヴェルザードは自らの腕を引っ掻き、流血するとその血を宙に浮かし、凝縮して丸い球体に変えた。
この球体を動けない魔獣に向けて投げ付ける気だ。
「喰らえ、血の天体 !」
鉄球のように硬く重い血の塊はコンクリートすらも粉々にする威力だ。
流石の魔獣もこれにはひとたまりもない。
はずだった。
グオオオオオオオオオ
魔獣は長く大きな尻尾を振り上げると、血の塊を撃墜した。
血の塊は粉々に砕け散った。
「あの尻尾も厄介だな……一度でも喰らえば全身の骨は砕け散るぜ……」
ヴェルザードは身震いした。
「わ、私も戦わなくちゃ……」
何が出来るかは分からないけど、じっとしてるわけには行かなかった。
「主、ここは私の出番ですね」
リトがランプの中で囁いた。
「そ、そうですね……」
私はランプをかざし、リトの名前を叫んだ。
ランプから煙が発生し、リトが実体化した。
「さて、久しぶりに大暴れしますかね」
ランプから姿を現したリトに対して、ブラゴは驚きを隠せなかった。
「へぇ~ !アンタが魔人リトかい、ずいぶんハンサムだねぇ」
「いやぁ、それほどでもありませんよ」
リトは満更でもない様子だった。
「さ、私がここに居られる時間に限りがあります、それまでにあの魔獣を焼き尽くして差し上げますよ !」
「お、頼もしいね」
リトは助走をつけると魔獣に向かって飛んでいった。
「指撃火炎弾 !」
リトは人差し指から火の弾丸を霰のように魔獣に浴びせた。
だが魔獣の装甲がそれを物ともしない。
「成る程、中々の防御力ですね……」
そう言うとリトは魔獣に接近するとその長い脚で蹴りを入れた。
だがリトのパワーを持ってしても魔獣はびくともしなかった。
「あいつの攻撃が通用しないなんて……」
魔獣はゆっくりと脚を上げ、絡み付いていた泥を振り払った。
魔獣は再び進撃を始めた。
最早リト達の攻撃など気にもとめていない様子だ。
「硬いだけのノロマが……喰らいなさい !炎輪の抱擁 !」
リトは巨大な炎の輪っかを作り出し、魔獣を包み込んだ。
並の魔獣なら炎に包まれ、あっという間に灰になってしまうだろう。
だが硬い装甲に覆われたこの鎧魔獣にとっては灼熱の炎の熱さも暖房の温もり程度にしか感じていないようだった。
「…… !この私の炎でぬくぬくと暖まっているなんて…… !舐められたものですねぇ…… !」
リトは怒りを隠せないでいた。
まるで子供扱いだ。
鎧魔獣は雄叫びを上げると背中を発光させた。
「今度は何をする気だ……」
全員この場から動かずに身構えた。
すると魔獣の背中の甲羅から無数の針が矢のように放たれ、地上に降り注いだ。
「まずい !皆避けな !」
ブラゴは降りかかる魔獣の針を大剣を振り回して弾き、身を守った。
「ワカバ !コロナ !」
ヴェルザードは私とコロナを担ぎ、降り注ぐ針の中を縦横無尽に駆け回った。
「つっ…… !」
あれだけの針の嵐の中、完璧にかわしきるのは無理があり、ヴェルザードの肩に当たってしまった。
「ヴェル !大丈夫ですか ?」
「なぁに、かすり傷だよ……」
リトは指先から放たれる火の弾丸を連続で撃ち続け、魔獣の針を相殺した。
やがて魔獣の背中は光を失い、針は止んだ。
地上が無数の針によって穴だらけになり、大惨事となった。
「おのれ……好き勝手に暴れて……許しませんよ !」
リトは赤いオーラを身に纏い、魔獣に向かって勢い良く突っ込んでいった。
「リトー !」
「あいつ……無茶な真似を……」
ヴェルザードは肩をおさえていた。
リトは炎を纏った拳を強く握り、魔獣に向かって殴りかかった。
だが魔獣の巨大な尻尾が、蝿を払い落とすようにリトを叩き潰した。
「があっ !?」
リトは勢い良く吹っ飛ばされ、地面がめり込む程の威力で叩き落とされた。
「そんな……リトが……」
もう誰にも止められない……あのリトですらも……。
「そうだ……お前、ランプの中に古代の魔獣が入ってるだろ ?そいつを召喚できねえのか ?」
ヴェルザードはふと思い出し、私に提案した。
「だ、だめです……コダイを召喚するには膨大な魔力が必要なんです……今の私には……」
「そ、そうか……」
私は肝心な時に役に立たない……。そんな自分が悔しかった。
魔獣は方向転換し、私達を無視して遠くへ行こうとした。
下手をすれば、里だけでなく、町にも被害が及ぶかもしれない。
「くそっ…… !どうすりゃ良いんだよ…… !」
私達は、魔獣が里を蹂躙し、闊歩する様を、ただ黙って見てることしか出来なかった……。
To Be Continued




