第九十一話・故郷の仇
十数年前、古の大戦により衰退した魔王軍は力を取り戻すため、手当たり次第に多種族の村や里に声をかけ、手駒を集めていた。
だがとある村のエルフ族はそれを拒んだ。
邪悪な思想を持つ者達の下につく気はないと。
魔王軍を愚弄したことに怒りを覚えた魔王は魔導師デビッドに村を焼き払うよう命じた。
魔王軍に逆らえばどうなるかを見せしめるためだ。
デビッドは上位クラスである鎧の魔獣を操り、エルフの村を襲った。
巨大な魔獣の力の前になすすべなく、多くのエルフ達が炎に焼かれ、犠牲になっていった。
まだ幼かったエルサは妹であるルーシーと共に逃げようとしたが、はぐれてしまい、妹は行方不明となった。
その後、エルサは独りさ迷っている所をオーガのブラゴに拾われた。
エルサは己の弱さを呪い、強さを求め、ブラゴの元で修行した。村を襲った鎧の魔獣をこの手で葬る為に……。
「お前の故郷を奪ったのは、この私だ」
デビッドは残酷な真実をエルサに突きつけた。
「魔王様の命令でな、仕方がなかったのだ。お前達エルフ族が我々に従っておれば、こんなことにならずに済んだものを……」
エルサは拳を強く握り、震わせていた。
「貴様…… !絶対に許さんぞ…… !」
エルサはかつてない程の怒りを覚えた。
彼女の眼前には故郷を奪った元凶が映っていたからだ。
「私が憎いか……だがその前にあの魔獣を止めるべきではないのか ?このままではお前の故郷が再び火の海に包まれるぞ ?」
意地悪く挑発するデビッド。
確かにこのまま放っておけば魔獣によってオーガの里を滅ぼされてしまうだろう……。
エルサは怒りを必死でおさえると遠くにいる魔獣に目を向けた。
「グレン……神器をしっかり守ってるんだぞ……」
「う、うん……」
エルサは疾風のように加速し、魔獣の方へ一直線に向かっていった。
「やれやれ……私は少し休憩するとしよう」
デビッドはそう呟くと更に空高く飛んだ。
グレンは身構えながら上を見上げた。
「あのジジイ……完全に遊んでやがる……」
オーガ達にとっては命がけの戦いでもデビッドにとっては暇潰しのゲームにしか過ぎなかった。
「頼んだぜ……皆……」
グレンは心の中で強く祈った。
「何だったんだ……今の地響きは……」
捕らえたレヴィ達を見張ってた俺は里に起こった異変に気付いた。
「これってもしかして……」
「デビッド様の仕業に決まっていますわ !」
「派手に暴れてるらしいゾ……」
三人は何やらただならぬ様子でひそひそ話をしていた。
「おい、お前ら何か知ってるな ?」
俺は三人に向けて鋭利なヒレを近付けた。
「ひぃ~ !」
三人は震え上がり、あっさり白状した。
「今の地響きはデビッド様の召喚した~……」
「何だと…… !?」
俺は事情を知り、戦慄した。
「デビッド様の使役する魔獣はそんじょそこらの魔獣とは桁が違いますわ !」
「この村のオーク達が束になろうとも、お前達余所者が加勢しようとも、絶対に倒せませんよ」
レヴィ達は得意気になって語った。
ヴェルザードにこいつらを見張っていろと言われたが、それ所じゃねえな……。
「お前ら、絶対にここから動くんじゃねえぞ」
俺はそう言うと魔獣が暴れている所を目指し、走り出した。
「……チャンスですわよ」
レヴィは見張りが居なくなったのを確認すると何もない空間からナイフを召喚し、念力で操ると三人を縛っていた縄を切り裂いた。
「あ、ありがとうございます」
「やっと自由の身だゾ~」
三人は軽く腕を伸ばした。
「さて、この混乱に乗じて……帰りますわよ !」
ライナーとサイゴは思わずずっこけた。
「いやいやいや、何言ってるんですか !今こそ神器を手に入れる絶好のチャンスじゃないですか !」
「おだまらっしゃい !あんな最凶の魔獣が暴れてる中里に留まっていたらこっちが巻き添えを食らいますわよ !」
レヴィは必死になってライナーを黙らせた。
「もう捕まるのはゴメンですわ、それに、今回はダメでも生きていればまた次がありますわ」
「リーダー……良いこと言ってるゾ……」
ライナー、サイゴはレヴィの決断に渋々納得した。
「さ !さっさと魔界に帰りますわよ !」
「今回は収穫0でしたね……」
「骨折り損のくたびれ儲けだゾ……」
「あら、儲けなら有りましたわよ !オーガ族や吸血鬼、半魚人と戦えたという経験が !」
三人は仲良く雑談をしていた。
こうして、悪魔三銃士は撤退を選び、足早に里を離れた。
To Be Continued




