第七十九話・竜族との和解
竜族達との戦いが終わって一週間が過ぎた。
俺達は全員無事に帰ってこれた。
リリィは心の底から泣いて飛びついてきた。
リリィにはだいぶ心配かけちまったな……。
俺や他の奴等の怪我もだいぶ良くなっていた。
でもあの日以来、ランプからリトの声は聞こえなくなっていた。
ワカバは怪我が治ったが、家に籠りがちになっていた。
ショックが強すぎて気持ちが追いついていないんだろう……。
「ちょっと散歩行ってくる」
「行ってらっしゃいませ、ご主人様」
俺は気晴らしに外の空気を吸おうと玄関の扉を開けようとした。
「待てよ、俺も連れてけ」
マルクが俺を呼び止めた。
「別にいいけど、特に行くあてもないぜ ?」
「良いんだよ、ここ最近ろくに体動かせてねえからな」
まあ良いか……たまには……。
「所でワカバは……」
「ワカバちゃんは……まだ……」
リリィは寂しそうに答えた。
「そうか……」
無理もない……リトのあんな姿を見ちまったんだから……。
「とにかく行くぜ」
俺とマルクは町へ出掛けた。
「それにしても、この前の戦いが嘘のようだな」
青く澄んだ空、響き渡る商売人の声、行き交う通行人……仲睦まじい親子……
俺は平和な町を見回しながら呟いた。
「俺達が体を張って守ったからだよ」
マルクは俺の肩を叩いた。
確かに……俺達が頑張らなければ、この町の人々が血を流し、泣き叫ぶことになっていたはずだ……。
「小腹が空いたな、トマトでも買いにいこうかな」
「俺は魚でも食うとするか」
俺とマルクは笑い合った。
すると、偶然とある集団に出くわした。
「お前達は……」
爬虫の騎士団……。
戦いに敗れ、捕虜になった竜族達によって結成された新たなギルドだ。
ラゴン、メリッサ、ザルド、ララ、そしてヒュウの姿が見えた。
「ヒュウ、お前も釈放されたのか……」
「まあな、今までこの町でひっそりスパイをやっていた俺が、この町のためにギルドに入ることになるとはな」
ヒュウは照れ臭そうに笑っていた。
「ま、この町で生きることが俺達に与えられた罰だからな」
「そうか……所でお前ら、何でここに ?」
マルクが尋ねると、ラゴンは袋から球体を取り出した。
「魔獣の核だ。依頼を受けてな、俺達は魔獣を倒した帰りなんだ」
「そうなんだ……お疲れ」
俺は素っ気なく答え、通りすぎようとした。
「待ってくれ」
ラゴンが呼び止めた。
「……その……俺はお前達に散々ひでえことをした……今更許してほしいとは思っちゃいねえ……でも俺達は……」
ラゴンは深く頭を下げた。
「それ以上言うな」
俺はラゴンの言葉を遮った。
「昨日の敵は今日の友って言うだろ、少なくとも俺はいつまでも根に持つタイプじゃねえ、これからも仲良くしようぜ」
俺は笑顔で手を差し出した。
いつまでも引き摺ってちゃ、寝覚めが悪いからな。
「吸血鬼……」
「俺はヴェルザードだ、その名で呼んでくれ」
「ああ、ヴェルザード」
俺とラゴンは強く握手を交わした。
「頼もしい仲間が出来たみてえだな」
「ああ、じゃあ行くぜ」
俺達はラゴン達と別れた。
戦いの果てに、絆が芽生えた。
これで良かったんだ。
私は……あれからずっと自室に閉じ籠っていた。
ランプにいくら話しかけても、リトは答えてくれなかった……。
それがすごく寂しかった。
私はリトのこと……何も知らない……。
リトの過去も、リトがどうやって生きてきたのかも……。
「あの~入っても良いですか ?」
リリィがドアをノックした。
「え、は、はい……」
リリィは食事を持って入ってきた。
どうやらスープのようだ。
「どんな時でも食べるのは大事ですよ ?でも無理して全部食べなくて良いですからね ?」
リリィは笑顔でスープを置いた。
「ありがとうございます……」
私はリリィに微笑みかけた。
「あの……ご主人様から聞きました……リトさんのこと……」
「…………」
リリィは椅子に座るとお盆を膝の上に置いた。
「私……まだ頭の整理がついてなくて……よく分からないんです……」
「ワカバちゃん……」
私は下を向いた。
「どれが本当のリトなのか……リトは本当は恐ろしい魔人なのか……リトはあの日から全然話してくれない……私……もうどうしたら良いのか……」
リリィは私をそっと抱き締めた。
「大丈夫ですよ……ワカバちゃんは優しい子です……いつかリトさんも戻ってきてくれます……」
リリィに抱き締められて、とても温かかった。
「ありがとう……リリィ……」
リリィに励まされ、少しだけ気が楽になった。
「そ、それじゃ、食べ終わったら器を扉の前に置いてください、じゃあお大事に」
「はい」
リリィはそう言うとお盆を抱えて部屋を出て行った。
「はぁ……」
私はため息をつくとランプを手に持ち、見つめた……。
「リト……お願いだから……戻ってきて……」
私はランプに額をつけると祈るように呟いた。
リトの声が聞こえないだけでこんなにも不安に押し潰されそうになるなんて……。
いや、どんな辛い時も、リトがいたから乗り越えられたんだ……。
リトは私の中でとても大きな存在になっていた……。
「おや ?ずいぶん弱っているようですねぇ」
突然背後から聞き覚えのある声が聞こえ、ゾクッと背筋が凍った。
恐る恐る振り向くと、そこにはミーデが笑っていた。
「またお会いしましたね、ワカバさん」
To Be Continued




