第七十四話・十字架-ロザリオ-
蝙蝠のような漆黒の翼を手に入れたヴェルザードと竜族としての力を解放したラゴンは戦いのステージを空へと移した。
透き通るほど澄んだ何処までも広がる青空を二人の男が飛び回る。
「はぁっ !」「でりゃっ !」
ヴェルザードはラゴンの爪の攻撃をかわしつつ、打撃を入れた。
握った拳がラゴンの頬をめり込ませる。
ラゴンは殴られながらもニヤリと笑った。
ヴェルザードの攻撃は止まらない。
反撃の隙を与えず、目にも止まらぬスピードでラゴンを殴り続けた。
「うおおおらぁぁぁぁ !」
ヴェルザードが拳を振り上げた瞬間、ラゴンの尻尾が彼の腕を縛り上げた。
「あんま調子に乗るなよ ?」
「お互いにな……」
ヴェルザードは意に介さず、逆に馬鹿力でラゴンの尻尾を引っ張り、持ち上げた。
「おおんっ !?」
「はぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
困惑するラゴンの尻尾を掴むと空中で砲丸投げのようにブンブン振り回した。
「うらぁっ !」
ヴェルザードは回転の勢いを利用し、ラゴンを放り投げた。
飛ばされたラゴンは何とか翼を広げ、バランスを保った。
「あー目が回るぜ~……流石だな吸血鬼、大した怪力だぜ」
ラゴンは目を回しながらもヴェルザードを褒め称えた。
「まあな、だがお前も強い」
「俺の強さはまだまだこんなもんじゃないぜ」
ラゴンは両腕に力を込めた。すると鋭い爪は90センチ程長く伸びた。
まるで太刀のように鋭く、白く光輝いていた。
「竜人大鎌……宝石すら粉にする程研ぎ澄まされた俺のかぎ爪……防ぎきれるかな !?」
ラゴンは伸びた爪でヴェルザードを襲った。
ヴェルザードは最初の一振りを紙一重でかわすが、頬にかすり傷がついた。
「風圧だけで……」
「かわせば良いってもんじゃねえよ !」
ラゴンは腕を振り上げ、容赦なくヴェルザードを切り刻もうとした。
爪の斬撃がヴェルザードを追い詰める……
かに見えた……。
「ほう……」
ヴェルザードは片腕でラゴンの爪の攻撃を防いだ。
ヴェルザードの片腕は獣のような毛が生え、爪も鋭く伸びていた。
「その腕……狼か…… ?」
「よく解ったな、吸血鬼の中には蝙蝠や狼に姿を変えるものがいる、俺は体の一部をそれらに変質させることが出来る、敢えて言うなら獣型って所だな」
ヴェルザードはニヤリと笑うと狼の腕を振り上げ、ラゴンの爪を弾き返した。
「うおっ !」
ラゴンは吹っ飛ばされ、距離を取った。
腕が痺れたのか、片腕をおさえていた。
「良いね良いねぇ !もっと楽しませてくれよぉ !」
「言われなくてもそのつもりだ」
両者は再びぶつかり合った。
ガキィンッ
ラゴンの爪とヴェルザードの爪がぶつかる度に、火花が飛び散る。
だがラゴンの両腕の爪に対してヴェルザードは片腕のみ。ヴェルザードは劣勢気味だった。
「俺の爪を受けきれるとは大した硬度だな!でも片腕だけじゃいつまで持つかな !」
ラゴンは怒濤の斬撃でヴェルザードに畳み掛ける。
ヴェルザードは闇霧で体を霧に変え、ラゴンの攻撃から難を逃れた。
「すっげえ !お前霧にもなれるのか !何でもありだな !」
自分の攻撃が外されたにも関わらず、ラゴンは子供のようにはしゃいだ。
「やはりこいつを使うしかないようだな……」
ヴェルザードは息を切らしながらも狼の爪で自らの片腕に切り傷をつけた。
傷口から滴る血を宙に浮かせ、凝縮し、一本の剣を形成させた。
大量の血液と魔力を大幅に消費するかわりに、何物をも切り裂く最強の剣……深紅の邪剣を作り出したのだ。
「多くの強者を破ってきたこの赤い剣……お前が二刀流なら、こっちも同じになれば良い……」
ヴェルザードは剣を構えた。血の剣と狼の爪……。今のヴェルザードに死角はない。
両者に緊張が走る……。
「「うおおおおおおお !!!」」
ヴェルザードとラゴンは再びぶつかり合った。
ラゴンは腕を大きく振り上げ、ヴェルザードの胸を狙った。
「はあっ !」
ズバアッ
ヴェルザードは血の剣で素早くラゴンの爪を切り落とした。
「なっ !」
斬られた長い爪は地面へ落ちていった。
「流石に魔力の消耗が激しいからな、一撃で決める !」
ヴェルザードは深呼吸をするとゆっくり腕を十字に組んだ。
「地獄爪の十字架 !!!」
ヴェルザードは狼の爪、血の剣を交差させ、爪を切られ戸惑うラゴンを十字に切り裂いた。
ラゴンを切り裂いた痕が赤く発光し、爆発し、絶叫した。
「ぎゃああああああ !!!」
ラゴンは爆煙に包まれた。
ヴェルザードは息を切らしていた。
だいぶ疲労が溜まっていた。
魔力を消耗した為、片腕の獣型を解いた。
「これだけの斬撃を浴びて無事なはずがねぇ……俺の勝ちだな……」
やがて煙が晴れるとラゴンの姿があった。
「ふぅ、今の攻撃は中々効いたぜ」
「なっ !」
ラゴンは咳き込みながらもピンピンしていた。
全力を叩き込んだにも関わらず、全く通用していなかったのだ。
ヴェルザードは青ざめた。
「でもこれで終わりなんだろ ?もう一捻り欲しかったなぁ」
竜の鱗は並みじゃない……。ヴェルザードの怒濤の攻撃などかすり傷にも満たなかった。
実力差は歴然。
「どうした、戦意喪失か ?俺はまだまだやる気だぜ ?」
ラゴンは物足りなそうに挑発した。
「へへっ……世の中まだまだ広いな……」
ヴェルザードは乾いた声で笑った。
「来ないならこっちから行くぜ !」
ラゴンはスピードを上げ、膝蹴りを決めた。
ヴェルザードの腹はめり込み、苦しそうにヘドを吐いた。
「ぐはあっ……」
竜の名を背負うだけあって一撃一撃が重い。
「竜人大鎌 !」
ラゴンは白く輝く爪でヴェルザードの胸を切り裂いた。
「うわぁぁぁぁぁぁ !!!」
ヴェルザードの傷口から大量の血液が噴出した。
皮膚を抉られ、痛みから悲鳴を上げた。
吸血鬼は血を失えば命が危ない。深紅の邪剣を生成したばかりだというのに……。
「取って置きを見せてやる、竜人獄炎 !」
ボオオオオオオオオ
ラゴンは大きく息を吸うと赤黒い炎を吐き散らした。
ヴェルザードは炎をまともに浴び、苦しみ喘いだ。
「ホラホラ !これで終わりか !?」
ラゴンは楽しそうにヴェルザードを煽った。
ダメージが蓄積し、魔力を失ったヴェルザードに反撃する力は残っていなかった。
やがて蝙蝠の翼も消え、ヴェルザードは炎に焼かれながら落ちていった。
「おいおい、もう少し耐えてくれよ~」
呆れながらラゴンは落ちていくヴェルザードを追いかけた。
To Be Continued




