第五話・悪魔との決着
リトとの戦いで追い詰められた悪魔はカードを使い、最後の切り札・古代の魔獣を目覚めさせた。
「ハッハッハッハ !この魔獣は古の世界にて多くの人間共を蹂躙してきました !そしてその強大な力を私は自在に操ることが出来ます !私は無敵です !」
悪魔は高笑いする。
魔獣はこちらに狙いを定め、鬼のような形相でこちらに向かってきた。魔獣が走る度、地響きが鳴る。
「少し本気を出させてもらいますよ !」
リトも気合いを入れ、魔獣に向かって走り出す。
いくらリトでも、どうなるか分からない。私は不安になった。
リトと魔獣は対峙した。リトも魔獣も足を止め、お互いに睨み合った。その体格差は歴然だった。リトが小人に見える。まるで魔獣が人形遊びをしているようだ。
ゴギャァァァァァァ !
魔獣は唸り声を上げた。そして巨大な足を上げ、リト目掛けて踏み潰そうとした。
リトはそれを素早くかわすと魔獣の土手っ腹に重いパンチを喰らわせた。リトの拳はメキメキと魔獣の腹にめり込んだ。
魔獣は痛みに堪えかね、苦しそうに涎を撒き散らしながら唸り声を上げた。リトは間髪入れずに魔獣の顔に蹴りを入れた。蹴りの威力はえげつなく、歯が二三本折れた。魔獣はたまらず倒れこんだ。明らかにダメージが入っているようだった。体が大きい分動きの鈍い魔獣の攻撃は小さくて素早いリトには掠りもしなかった。
「信じられません……魔人の力がこれ程までとは……」
悪魔は防戦一方の魔獣の姿を見て震えていた。
魔獣は負けじと尻尾を振り上げ、勢いをつけてリトにぶつけようとした。刺々しい尻尾は風を切り、剣のように鋭く、巨大で人間が喰らえば大怪我じゃすまなかった。
「あ……危な…… !」
私は叫ぼうとした。しかしリトにとっては何の問題も無かったようだ。
何とリトは巨大な尻尾の一撃を片手だけで受け止めたのだ。しっかり押さえられ、どんなに力を入れても尻尾はビクとも動かない。魔獣は何が起こったのか理解出来ず、困惑していた。
「貴方がどれ程デカくとも、力の差は埋まりませんでしたね」
リトはそう言うと、巨大な尻尾をギュッとつかみ、思いっきり振り回し、ハンマー投げのごとく投げ飛ばした。30メートルある巨体は地面に叩き付けられた。その時の衝撃で足場が揺れた。
「おのれぇぇぇ、せっかく目覚めさせた古代の魔獣が手も足も出ないとは…… !」
悪魔は悔しそうに自らの指を噛んでいた。
「魔獣よ !こうなったらあの技ですよ!あれに向かって放ちなさい !」
悪魔は私を指差した。
「え ?」
魔獣はゆっくりと立ち上がり、その大きな口から炎を吐き出した。炎はリトでは無く、動けない私を狙っていた。
「え……」
「主 !」
リトはすかさず私の前に立った。だが守りの体勢に入る隙はなく、魔獣の炎をまともに受けてしまった。
「ぐわぁぁぁぁ !」
全身に浴びるように炎を受けるリト。悶え苦しみ、とても辛そうだ。
「り……リト !」
「ハッハッハッハ!馬鹿なやつめ !そんな女を庇うからですよ !いくら貴方でも、魔獣の炎を喰らえばただではすみません !」
「こ……こんなの卑怯です…… !」
私はキッと悪魔を睨んだ。
「卑怯ぉ ?私にとっては最高の褒め言葉ですよ !」
奥歯が見える程口角をつり上げ、憎らしい笑みを浮かべる悪魔。私は悪魔の卑劣さと自分自身に対する怒りで身を震わせた。もし咄嗟に動けていれば、リトの足を引っ張らずにすんだのに…… !
「ふぅ~気持ち良かったですね~」
炎が消えるとリトはピンピンしていた。無傷どころか、肌艶も良くなっている気がした。
リトは呑気そうにズボンの埃を払った。
「ば……馬鹿な !魔獣の炎をまともに受けて、無事なはずがない !」
信じられない光景を目にし、顎が外れるくらい口をあんぐりと開ける悪魔。
「私は炎の魔人ですよ ?私に炎は効かない所か栄養になるんです」
リトは得意気に語った。魔獣の炎を逆に吸収し、エネルギーにしたのだ。悪魔は悔しさのあまり歯軋りした。
「魔獣の炎はとても高い魔力を秘めていて栄養になりました。おかげで後4、5分延長出来そうです、感謝しますよ」
リトはにっこり笑った。
「くぅ……!魔獣よ !あの魔人を噛み殺しなさい !」
悪魔はがむしゃらに叫んだ。
魔獣は命令に従うと大きく口を開け、リトに向かって突進して来た。
「はぁぁぁぁぁ !!!」
リトは気合いを入れると、全身に炎を纏った。
「赤色放射 !」
そして、リトの周りから赤いオーラがメラメラと出始めた。そしてそれは、どんどん膨れ上がり、30メートルはある魔獣より一回りも大きくなった。
まるで魔獣が借りてきた猫のように小さく見えた。立場逆転である。魔獣は萎縮したのか、リトのオーラに怯え、動きを止めた。暫く固まった後、大きな口をゆっくり閉じ、静かに膝をついた。完全に戦意喪失したようだ。
「え…… ?」
「赤色放射は自らの魔力をオーラとして放出し、相手を威圧する技です。圧倒的な実力差を肌で感じ、戦いを放棄するという判断をしたようですね。相手の実力を推し測れるなんて……貴方より余程賢いじゃないですか」
悪魔に皮肉を言うとリトは魔獣に近付いた。魔獣はゆっくりと頭を差し出した。リトはよしよしと優しく撫でた。魔獣は何処が嬉しそうにしていた。
「ば……馬鹿な…… !魔獣がイフリートに従うなんて…… !」
リトの力が悪魔の支配を上書きしたのだった。
「そもそも何故魔獣を殺さなかったんですか !?貴方の力なら、それも簡単だったはずです !」
「決まってるじゃないですか。この子まだ幼体なんですよ?可哀想じゃないですか」
いや、結構いたぶってましたよね……歯だって折ったし……って幼体 !?あんなに大きいのに ?
「主、魔獣はもっと山のように巨大な姿をしてるんですよ。この子もいずれ成長したら、とんでもないことになりますよ」
リトはからかうように言った。
「こ……怖いこと言わないでくださいよ……」
私は思わず身震いした。
「さ、悪魔さん。次は貴方の番ですよ」
リトは悪魔に向かって人差し指を差した。
「くっ……」
悪魔は身構える。
「主にした仕打ちの10倍は返して上げましょうか?」
リトは人差し指に魔力を集中させる。
「こ……今回はこれくらいにしておきましょう……しかし、これで勝ったと思わないで下さい !私は悪魔・ミーデ !次こそは必ず貴方からランプを奪って差し上げますからねぇ !」
悪魔は捨て台詞を吐くと黒い翼を生やし、空高く一目散に飛び去ってしまった。
何はともあれ、私達の勝利だ。
「やれやれ、逃げ足だけは早い小物でしたね、さあ魔獣 !とっとと元いた地底に帰りなさい !」
リトは魔獣に指示した。魔獣は素直にその言葉に従い、地面を掘り、中へ潜っていった。魔獣が完全に居なくなるのを見届けるとリトは私の方を見た。
「主……大丈夫ですか……?」
リトは私を心配し、両肩を優しく掴んだ。
「ありがとう……リトのおか……げで……」
安心したのか、一気に気が抜け、私は気を失ってしまった。
「主……?主 !」
リトは倒れた私を抱き抱えた。
「ここにきて限界が来たようですね……よく頑張りました主…… !すぐに林を抜けなければ……私も実体化は長く持ちませんし……ん !?」
リトは何かを感じ取った。
「この魔力…邪悪なものではないですね……もしかして人間が近くに…… ?私が消える前にすぐに行かなければ !」
リトは私を抱き抱えながら、魔力のある方向へ物凄いスピードで向かって行った。
To Be Continued