第六十三話・覚悟を決めろ
俺は痺れる体を押して戦線に復帰した。
暴走するヒュウを止めるのはかつての友である俺の役目だ。
「ヴェル……このままだとお前は殺されるぞ……竜族達の侵攻によって……だから俺と来い !そうすればお前は助かるんだ……」
ヒュウは優しい口調で忠告した。
「例え誰が襲ってこようと、俺は……俺達は絶対に負けねぇ…… !今までだって乗り越えてきたんだ …… !」
俺は、鬼気迫る表情で突っぱねた。
「憎悪の角を壊滅させたことか……あんな烏合の衆と一緒にしない方が良い。竜族は太古の昔から勇者に倒されるその時まで世界を蹂躙し続けた最凶の種族だぞ !俺一人倒せないようじゃ、竜の餌になるのがオチだぁぁぁぁぁぁ !」
ヒュウは複数の首を伸ばし、俺達に襲いかかった。
「来ますよ !手短に済ませましょう !」
「分かってる !」
俺とリトとマルクの三人はヒュウに向かい、走り出した。
「やつは何度も再生能力を使い、消耗している、畳み掛けるなら今だぜ」
「私も時間がありませんからね、すぐに終わらせますよ」
「一撃で決めるしかねえようだな…… !」
俺は短剣で腕を切り裂き、流れる血を固め、現時点で最強の武器・深紅の邪剣を生成した。
「はぁぁぁぁぁ !」
リトは赤いオーラをその身に纏い、熱気を上げた。
「でやっ !」
マルクは助走を利用し、高くジャンプした。
「コロナ、僕達も援護するぞ !」
「うん !」
コロナは杖を上に掲げ、地面をコツンとつついた。クロスはしゃがむと地面に手を当てた。
「大地の光 !」
「影の手 !」
光と影が地面を這うようにヒュウに向かって行った。
影で出来た手はなめ回すようにヒュウを拘束し、オレンジの光がヒュウの足場を崩した。
「うおっ !」
バランスを崩し、よろめくヒュウ。
「喰らえ !魚人水砲 !」
マルクは口を大きく開け、勢い良く水を発射した。えげつない水圧がヒュウの体を抉る。鱗がゴリゴリと剥がれ落ちていく。
「うごぉぉぉぉ !」
流石のヒュウもこれには耐えられず、もがき苦しんだ。
「行くぜリト !」
「私に命令しないで下さい !」
リトは人差し指をピンと立て、俺は血の剣を大きく振りかぶりながら走った。
「おのれぇぇぇぇぇぇぇ !!!」
ヒュウは9つの口から光線を放った。
光線は地面を這いながら二人を狙う。
「「はっ !」」
俺とリトはジャンプをし、空中で光線を前転宙返りをしながらかわし、ヒュウの目の前まで距離を詰めた。
「指撃熱線零距離 !」
リトはヒュウの胸に人差し指をピタッと置き、0距離で熱線を胸部に撃ち抜き、
「うぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁ !!!」
ザンッ
魔力を極限まで刃先に込めた俺の斬撃がヒュウの肉体を切り裂いた。
大量の血が吹き出し、俺も返り血をシャワーのように浴びた。
「ぐぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
ヒュウは絶叫をしながら仰向けに倒れた。
「はぁ……はぁ……」
「終わったのか…… ?」
マルクは俺とリトの方へ駆け寄った。
「どうやら、流石の大蛇さんも、一度に大ダメージを喰らい、回復が追い付かなかったのでしょう。しかし彼は死んではいません。それほどまでに竜族の生命力は凄まじいのです」
リトは消えかかっていながら解説をした。
「何か初めてだよな、俺とお前が共闘するなんて」
「確かに……今までありそうでありませんでしたね、初めてにしては、息の合ったコンビネーションだったと思いますよ」
リトはニコっと微笑んだ。
「リトー !皆ー !」
戦いが終わったのを確認し、ワカバとリリィ、コロナも駆け寄ってきた。
「主 !」
ワカバはリトの顔を見つめ、
「お疲れ様です、リト」
笑顔で労いの言葉をかけた。
「くぅ~ !主の労いの言葉…… !酒のように体に染み渡ります~ !それでは、また !」
リトは気持ち悪い程悶えると恍惚の表情を浮かべながら消えていった。
「あはは……」
流石のワカバも少し引いていた。
「何はともあれ、お疲れさん !」
マルクは俺の肩を組んだ。
「ああ、お疲れ……」
俺は痺れと疲労と血液不足からもう立っているのがやっとだった。
マルクはそれに気付いたようだ。
「うぅ……」
「ご主人様 !」
リリィは警戒し、ヒュウを指差した。
ヒュウは人間の姿に戻り、仰向けになりながら呻き声を上げた。
「おい、ヴェル !」
俺はフラフラになりながらヒュウに近付き、腰を下ろし、あぐらをかいた。
「……ヒュウ……思い出したよ、お前のこと、お前と過ごした日々を……」
「ヴェル……」
ヒュウは空を見つめていた。
「すまなかったな……お前のことを忘れてて……俺は最低だ……」
俺は下を向いた。
「お前は悪くねぇさ……。悪いのはお前を守り切れなかった俺だ……寧ろあの時死ななくて心の底から安堵したぜ……」
ヒュウの口調はこれまでとは違い、穏やかなものだった。
「例え忘れられても良い……お前が生きてさえいれば……ずっとそう思ってた……町でお前を見かけた時もずっと見守るだけのつもりだった……。でもそうもいかなくなってな……竜の里はこの町を滅ぼすって決めちまってよ……」
ヒュウの目から涙が流れた。
「だから無理矢理にでもお前を連れ出したかった……俺は里の掟には逆らえねぇ……でもまたお前を失うかも知れねぇと思うと……いても立ってもいられなくてな……」
「お前の思いは分かった……ありがとな、ヒュウ」
俺はヒュウに優しく微笑んだ。
「俺は……俺達は絶対に負けねぇさ。その竜族から町を守ってやる。俺は死なねぇよ」
「……強く……なったな……ヴェル……」
そう力なく呟くと、ヒュウはゆっくりと瞼を閉じた。
「疲れただろ、ゆっくり眠れよ……」
俺は自分の顔に手を当て、濡れてるのを感じた。
俺はゆっくり立ち上がったがフラついて倒れそうになった。
「わっ !」
ワカバとリリィが二人がかりで俺を支えた。
「ヴェルもお疲れ様です。帰ったらゆっくり休んでください」
「私も体に良いもの作りますので」
両手に花とはまさにこのことだなと俺は心の中で冗談を言ってみた。
「こいつはどうするよ」
マルクは倒れているヒュウを背負った。
「えっと……逃がすとか…… ?」
コロナは恐る恐る答えた。
「とどめを刺すか ?」
クロスは羽を広げ、構えた。
「まあまあ……」
ワカバはクロスを落ち着かせた。
「取り敢えず衛兵達に引き渡しましょう」
ワカバは皆にそう提案した。
「まあそうだな、こいつからは色々聞きてえこともあるし、ヴェル、お前もな。俺らに隠してたこと、洗いざらい話してもらうぜ」
マルクは俺を見てニヤリと笑った。
「分かったよ……」
俺は小声で答えた。
ヒュウはその後、衛兵に引き渡され、危険人物として牢獄に閉じ込められた。
俺は皆に近々竜族がこの町を襲うことを打ち明けた。
「すまなかったな……黙ってて……」
「私も……すみませんでした……」
俺とリリィは頭を下げた。
「まあまあ。それよりも、その竜族という者達は厄介だな……凶暴で血の気が多く、高い生命力を持つ戦闘種族だ……そんなやつらが一斉に襲ってくるというんだな……」
エルサは腕を組んだ。
「しかもあの大蛇ですら尖兵に過ぎないようですよ」
「そんな、数人がかりでやっと倒したのに……」
全員はざわついた。
「でも、皆と一緒なら乗り越えられると思うんです」
ワカバが口を開いた。
「たく、お前は呑気なもんだぜ」
「けど、闇ギルドから生還した人間が言うと説得力が違う」
俺とマルクはワカバを見て笑みを浮かべた。
「流石主です !この魔人、全力で主をお守りしますよ !」
「頼りにしてますよ、リト」
ワカバはランプを見つめ微笑んだ。
大蛇との戦いは、更なる激闘のほんの序章に過ぎなかった。
後に、町全体を巻き込む竜族達との戦いが巻き起ころうとしていた……。
To Be Continued




