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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
大蛇の誘い編
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第六十話・失われた記憶の欠片



今から10数年前……まだ幼かった俺は行方不明になった父を探しに、一人で林の中に建てられた古い洋館を出て町へと向かった。リリィの制止を聞かずに……。




町に着いたばかりの俺はまだ何も知らなかった。

見たことのない光景に圧倒されながらも父を探そうと歩き回った。

だがそんな時、俺は悪意を持った少年達に目をつけられてしまった。

銀色の髪、赤い瞳、鋭く伸びた牙は人間の世界では異常だった。

差別心というのは幼い頃から芽生えるのだ。


「こいつ悪い魔物だ !人間を襲おうとしてるんだ !」

「俺達で退治しようぜ !」


少年達は問答無用で俺を取り囲み、一斉に木の棒で殴った。

俺は恐怖で動けず、ただ頭を押さえ、丸くなって震えることしか出来なかった。


「痛いよぉ……やめてよぉ……」


俺は怖くて泣き叫んだ。

だが寧ろ逆効果で連中を昂らせた。

泣けば泣くほど、怖がれば怖がるほど、やつらは容赦なく牙を向いた。


「この魔物反撃してこねーぞ !」

「俺達は魔物を倒せる英雄になれるんだー !」


少年達の虐めは益々激しくなった。

俺は全身に青アザが出来る程殴られ、蹴られ続けた。


「無抵抗の人間相手に大勢でいじめるなんて、自分達が雑魚だって言いふらしてるようなもんだぜ ?」


低めの子供の声が聞こえた。

俺は顔を見上げると、飄々とした雰囲気の少年が現れた。


「何だよお前 !邪魔するなよ」


俺を虐めた少年の一人が飄々とした少年の肩を掴んだ。


「気安く触んじゃねえよガキが」


飄々とした少年は肩を掴んだ少年の手に触れた。


「うわぁっ !」


突然少年は痙攣を起こし、倒れた。


「どうしたんだよ !」


少年は全身が痺れ、動かなくなった。

他のやつらはパニックを起こした。


「お前らも痺れさせてやるぜ ?」


飄々とした少年はニヤニヤしながら手で蛇の形を作り、パクパク開閉した。


「「「うわぁぁぁぁぁぁ !」」」


少年達は一目散に逃げた。


「よお、大丈夫か」


飄々とした少年は俺に手を差し出した。

俺は恐る恐る手を掴み、立ち上がった。


「人間ってのは数ばっかり多くてろくでもねえよなぁ、自分と違う生き物を平気で虐める。最低の種族だぜ」

「あ、ありがとう……助けてくれて……」


少年はニコッと笑顔を浮かべた。


「俺の名前はヒュウ。お互い人外同士、仲良くしようぜ」


それが、俺とヒュウの出会いだった……。




俺とヒュウはすぐに打ち解けた。

ヒュウは小さな小屋に身を潜めていた。


「お前、父ちゃん探してんのか ?」

「うん……ずっと帰ってこないんだ……ヒュウは ?」

「俺は人間達の調査をしてるんだ。ここで得た情報を時々故郷の竜の里に報告してる。いつか竜族が人間の世界を征服する為にね 」


ヒュウは屈託のない笑顔を見せた。


「そうなんだ、すごいね」


ヒュウは臆病な自分とは正反対だった。

勇気があり、行動力があり、何より仲間思いだった。


「ま、ここで会ったのも何かの縁、これからも宜しく頼むぜ !えっと……」

「ヴェルザード……」

「そうそう、長いからヴェルで良いよな !」


ヒュウは握手を求めた。


「ヒュウ……」


俺はヒュウと友情の握手を交わした。

初めて出来た友達だった。




あれから事あるごとに俺は外に出てヒュウと遊んだ。

ヒュウは父親探しを手伝ってくれたが手がかりは見つからなかった。

それでも独りでいるより友達と居た方が何倍も楽しかったし、安心できた。


「ったく、人間共は平和ボケしてるよなぁ、竜族が攻めてきたらあっという間に征服されちまうぜ」


ヒュウは呆れながらでメモを取っていた。


「里に報告するの ?」


俺はヒュウに聞いてみた。


「あぁ、人間達の動向、近況を里に報告してるんだよ。今の人間達なら、竜族に簡単に攻め滅ぼされちゃうかなー」

「へぇ~そんなに凄いの ?」


ヒュウはドヤ顔を決めた。


「そりゃそうだよ、大昔の大戦でも大暴れで沢山の人間や魔族を食ったんだから !」

「へ~」


俺は感心していた。


「でも一人でお仕事してて寂しくないの ?」

「それは……」


ヒュウは言葉に詰まった。


「……まあ、他に仲間なんていないし……人間とは仲良くなれないし……ヴェルくらいだよ、俺の話し相手になってくれるのは」


ヒュウは少し照れていた。


「俺もだよ、ヒュウが居てくれて助かった」


ヒュウはメモを書き終えた。


「なぁ、腹減ったよな ?」

「うん……」

「森行こうぜ !美味しいものがあるんだ 」

「行こう !」


俺は目を輝かせた。




二人は森に着いた。

ヒュウは小さな野うさぎを捕らえた。


「よし、旨そうなのゲットだ !」


俺はそう言った野生の動物を食べると言う習慣が無かったので青ざめた表情を浮かべた。


「ヴェル、火を起こしてくれよ」


俺は枯れ葉と小枝をかき集め、火を点けた。

ヒュウは野うさぎの肉をじっくりと炙った。


「こんがり焼けたぜ。うさぎの丸焼き !良い匂いだぜ~」


ヒュウは野うさぎの丸焼きの匂いを嗅ぎ、悦に入った。


「いっただっきまーす」


ヒュウは一口かじった。


「うんめぇぇぇ !お前も食ってみろよ !」


ヒュウは俺にうさぎの丸焼きを差し出した。


「えっと……うん」


俺は恐る恐る一口肉をかじった。


「旨い……」

「だろう !?」


ヒュウは嬉しそうだった。


「でも俺はこっちの方が好きだなぁ」


俺は懐からトマトを取り出した。


「何だよ ?その赤い玉は」

「トマトっていう野菜だよ」


俺は豪快にトマトをしゃくった。


「甘酸っぱくて美味しい !」


思わず頬を押さえた。


「ヒュウも食べてよ」


俺はヒュウにトマトを渡した。


「ん~酸っぱ !」


ヒュウは顔トマトを一口食べ、顔を歪ませた。


「その酸っぱさが良いんだよ」

「でも俺はうさぎの肉の方が好きだな」

「俺だってトマトの方が好きだよ !」


俺とヒュウは睨み合った。


「プッ、アハハハハハハハハ」


おかしかったのか、腹の底から笑い転げた。


「やっぱヴェルと一緒に居ると楽しいな !」

「俺も !」


二人は互いの顔を見合わせ、笑い合った。

二人の友情はこれからも続いていく……そう思っていた。


バンッ


突然の銃声音。


「え……」


玉は俺の胸を貫いた。口から静かに血が溢れた。


「ヴ……ヴェル…… ?」


俺は気を失い、倒れてしまった。


「おいヴェル !しっかりしろよ !」


ヒュウは必死に俺に呼び掛けた。


「おやぁ~ ?野うさぎか狼と思いきや、人間の子供、いや、化け物の子供か~ ?」


そこへ、銃を構えた三人の男が現れた。


「てめえら…… !」


ヒュウは物凄い形相で三人を睨んだ。


「おーこわっ !てめえらだな ?うちの息子を虐めた悪い魔族は~」

「俺達には分かるぜ、お前らは人間じゃねえ、化け物だってな」


男達はじりじりと近付いてきた。


「息子を虐めた ?虐めたのはてめえの息子の方だ !」


ヒュウは怒りの表情で叫んだ。


「黙れ !俺達は猟師やってんだ。悪さする害獣や魔族を退治する資格を持ってんだよ」

「てめえらも人間に害なす存在だろ ?子供のうちに殺しておくのがセオリーってやつだぜ」


ヒュウは怒りに震えていた。


「てめえら……ぶっ殺してやる !」




それから、どれくらい時間が経ったか分からない……。

俺はうっすらと目を開けた。


「えっと……ここは……」

「気がついたか ?良かった……死んだんじゃないかって……俺……」


目の前に泣きじゃくる少年がいた。

辺りを見回すと血まみれの男が三人転がっていた。


「ひっ…… !」


俺は怖くて目を背けた。


「大丈夫だよ、こいつらは皆殺したから。それよりもう痛いところはない ?血が止まらなかったから俺の血を分けて上げたんだ。吸血鬼(ヴァンパイア)は血を取り込むだけであっという間に回復出来るんだね !すごいや !」


目の前の少年はずっと熱心に語りかけていた。


「君……誰…… ?」


俺は少年と知り合いだったようだが、誰なのか思い出せなかった。

俺は死にかけた際の後遺症なのか、少年の血が体に合わなかったのか、少年との記憶がすっぽり抜け落ちてしまったのだ。


「ヴェル……そんな……俺だよ !○○だよ !」

「ごめん……本当に知らないんだ……」


俺は下を向いて言った。

少年の顔は今にも泣き出しそうだった。


「助けてくれてありがとう……もう帰らなきゃ……リリィが心配してる」


俺は茫然としてる少年を置いて帰ろうとした。


「ヴェル……ごめん……俺のせいで……」


少年は唇を噛み締め、涙を流した。


「いつか……記憶を取り戻したら、迎えに行くよ……そしたらさ、また一緒に遊ぼうぜ……」


少年は俺の背中を見上げながら、小声で呟いた。




それから俺は洋館に戻った。

大事な記憶が消え、人間に対する恐怖心だけが深く刻まれた俺は、とある人間の少女が訪問してくるまで、怖くて洋館から出ることは無かった。


To Be Continued

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