第五十六話・ヴェルザードの日常
新章突入です !
是非読んでください !
闇ギルド「憎悪の角」が壊滅してから数日が経過し、町に平穏が訪れた。
俺はあの時、オーガのガギ相手に苦戦し、ミノタウロスのロウに敗北した。
俺1人の力ではワカバを救うことは出来なかった。
己の力不足を痛感した俺は更に強くなるため、一から体を鍛え直すことにした。
訓練所で俺とマルクは稽古をした。
エルサ立ち会いの下、軽い模擬戦である。
「うおおおおおお !」
「でりゃああああ !」
俺は、血で生成した赤剣を、マルクは両腕の鋭利なヒレを互いにぶつけ合った。
ガキン キキン カキンッ
剣とヒレが交わる度に火花が飛び散る。
太刀筋はほぼ互角のようだった。
「そこまでだ !」
戦いは5分程続いた。
エルサの一声が響き渡る。
俺とマルクは動きを止めた。汗が滝のように流れ、二人とも息を切らした。
「今日はこの辺にしておこう、何事も無理は禁物だ」
俺とマルクはタオルで汗を拭き、水筒の水を飲んだ。
「二人とも以前よりずっとキレが良くなってるぞ、この調子でこれからも頑張れよ」
エルサは二人の肩をポンと叩いた。
俺達は稽古を終え、帰る準備をしていた。
「ふぅ~疲れたぜ~今回は俺の方が優勢だったかな ?」
マルクは得意気に語った。
「何言ってんだよ、俺の方が上だったろ」
「いーや、俺だ」
「俺だっつってんだろ !」
俺とマルクは互いを睨み、額を擦り付けあった。
「やめないかみっともない」
エルサは二人の喧嘩を止めた。流石にエルサには逆らえない。
「全く、君達は仲が良いのか悪いのか……」
エルサは苦笑いをした。
稽古が終わり、俺とマルクは家に向かった。エルサは後一時間訓練所に残るらしい。
「お前先帰ってろ、俺は野暮用がある」
「どうせトマト買って食べんだろ ?相変わらず好きだなお前」
「まあな」
俺は帰りにトマトを買いに町の市場に寄った。
マルクとは途中で別れた。
「よ、おっちゃん」
「お !ヴェル坊か !稽古の帰りかい ?」
市場で野菜を売ってる店主は気持ちの良いくらい陽気な男だった。
「あぁ、俺はもっと強くならなきゃいけないからな」
「そうか !感心するねぇ !ほんじゃ、いつものやつな ?」
おっちゃんはトマトを差し出した。
「お、いつもありがとな、おっちゃん 」
「いいってことよ !いつでも遊びに来いよ !」
俺は銀貨を渡すとトマトを受け取った。
いつも家に帰る前にこうしてトマトを買い食いしている。
「やっぱうめえな、トマトは」
俺は歩きながらトマトをしゃくった。
生でかじるトマトは瑞々しくて格別だ。
体を動かした後だから余計に体に染み込む。
俺は人間が嫌いだがワカバとあの店主だけは例外だ。
「ん ?何だ ?」
俺は町中で若い娘が男二人に絡まれてるのを見かけた。
「あ、あの……止めてください、困ります……」
「良いじゃんかよ、俺らと遊ぼうぜ~」
「そのメイド服可愛いね、似合ってるよ」
娘は男達に腕を掴まれ、涙目になっていた。
見かねた俺は男達に近づいた。
「ってリリィじゃねえか」
「ご、ご主人様 ?」
絡まれていたのはリリィだった。
「何々~お嬢さん、こいつと知り合い ?」
「随分色男だねぇ」
リリィは俺の胸に飛び込んだ。
「ご主人様、助けてください !」
「分かってるよ、ちょっと待ってな」
俺はリリィを後ろに下がらせ、ナンパ男二人に詰め寄った。
「おい、こいつは俺の仲間なんだ、勝手に手を出してんじゃねえ、さっさと消えろ」
「何だ兄ちゃん、この娘の彼氏かぁ ?」
「俺らとやる気かあぁん ?」
男達は俺に敵意を向け、顔を近付け挑発してきた。
「たく、めんどくせえなぁ !」
瞬殺だった。
男二人は一瞬にして伸びた。
やはり大したことは無かったな。
「ちきしょお……化け物め……うぐっ !」
俺は呻く男の頭を踏みつけた。
「屑共が……」
町のど真ん中で乱闘騒ぎを起こしたせいか、人が集まってきた。
「ちっ……リリィ、行くぞ」
「はい……」
俺とリリィは足早にこの場を去り、家路に向かった。
「あの、稽古の帰りなんですか ?」
リリィが聞いてきた。
「まあな」
「いつもトマトを買ってるんですか ?夕食が入らなかったらどうするんですか !」
リリィはプンプン怒った。
「うるせえな、別腹だからいいんだよ」
俺は耳をほじりながら答えた。
「……あの、さっきはありがとうございました」
リリィは小声でお礼を言った。
「別に、当然のことをしただけだ、所でお前何で絡まれてたんだ ?」
「夕食の食材を買った帰りにあの二人に声をかけられて……とても怖かったです……」
「お前は一応可愛いんだから気を付けろよ」
「やだご主人様ったら !」
バシィ !
「ごふぅ !」
リリィは照れて俺の背中を叩いた。
いてえ……。
でもやっぱり人間ってろくでもねえ生き物だな。
数はアホみたいに多いし自分より弱い人間には平気で牙を向く……。自分とは異なるものを無闇に傷つける……。あの頃と何も変わっちゃいねえな……。
「そういえば、ご主人様と二人きりなんて久しぶりですね」
「あーそういえばそうだな」
ここ暫くはワカバを助けるため、リリィと別行動だったしな。
洋館に住んでいたころはずっと二人きりだったってのに。
「ご主人様はもう慣れました ?」
「慣れたって ?ここでの生活がか ?」
リリィはこちらを見てにっこり笑みを浮かべた。
「まあ……鬱陶しいやつらも居るけど、悪くはないかな」
俺は素っ気なく答えた。
「それは良かったです、ご主人様も前と随分変わりました」
「変わった ?俺が ?」
自分では特に変わったつもりはないのだが……
「ワカバちゃん達と出会ってから、明るくなって、何事にも積極的になったというか、怠け癖が無くなったというか……」
「それ褒めてんのかよ」
俺は思わず眉を潜めた。
「やっぱり、人との繋がりは大事ですよね、繋がることで、人は変わっていく……私も、ご主人様も」
リリィは俺の顔を見て微笑んだ。
「ま、確かにそうかもな」
以前の俺なら、こうやって外を出歩くことすら想像もしてなかっただろうな……。
本当に人生何があるかわからない。
この日常を守るためにも、俺は更に強くならなきゃいけない。
「リリィ、俺はもっと強くなる。強くなって、誰かを守れるようになってみせる」
俺は夕日を見つめながら言った。
「ご主人様……」
リリィは俺の横顔を見て頬を赤らめていた。
「ヴェルザード、久し振りだな」
突然何者かの声が聞こえた。
「誰だ !」
俺とリリィは後ろを振り向いた。
「やあ、ごきげんよう」
そこにはエキセントリックな雰囲気を漂わせた黒い服に身を包んだ若い男が立っていた。
To Be Continued




