第五十四話・ロウの過去、コロナの涙
子供の頃、俺と妹は人間達に捕まり、奴隷として過酷な労働を強いられた。
満足な食糧も与えられず、休みなく働かされ、逆らえば虐待され……まさに地獄の日々だった……。
「皆!俺達魔族が力を合わせて、人間達から自由を取り戻すんだ !」
俺は同じ奴隷だった魔族達と手を組み、レジスタンスを結成した。
ゴード、オーバ、ガギとはここで出会った。
多くの同じ苦しみを味わった魔族達が集い、少しずつ力をつけていった。
このまま上手く行けば、人間達の支配から解放され、自由を取り戻せる。そう信じていた。
「お兄……ちゃん……ごめんね……」
「ミオン……しっかりしろよ !頼むから…… 目を開けてくれ……!」
元々体の弱かった妹は劣悪な環境に耐えきれず、その短い生涯を閉じた……。
俺は、たった一人の大切な妹を守れなかった……。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ !」
俺は人間に憎しみを抱いた。この二本の角で人間達の心臓を突き刺してやりたい……そう思った。
レジスタンスは人間達相手に反撃の狼煙を上げた。
だが、俺達は敗れた。人間の姑息な知恵と冷酷な力の前に後一歩及ばなかった。
首謀者である俺は地下に閉じ込められ、毎日拷問を受け続けた。
力無き者は強者に従うしか無いのだ。
例えどれ程理不尽であろうとも……。
「俺は……必ず……自由を…… !」
心身共にボロボロの俺の心を支えたのは、人間への憎しみと、自由への渇望……負の感情だけだった……。
「力が欲しいか…… 」
「誰だ……お前は……」
とうとう幻聴まで聴こえてきたか……。
だがそれは幻聴などでは無かった。
「力を求める者よ……。お前にはこれを手にする資格がある……。さあ、受け取れ……」
謎の声はそう告げると満身創痍の俺の目の前に一本の斧が出現した。
謎の声に導かれ、俺は迷わず斧を手にした。
「牛魔斧……。お前の感情を吸収する度に魔力が無限に増幅する神器だ。さぁ、この斧を振るい、己の欲望を満たすのだ……」
この斧を手にした時から俺は変わった。
俺を縛り付けるもの全てを切り裂いた。
俺達を奴隷にした人間共を蹂躙し、逆に支配して勢力を拡大した。
圧倒的な強さの前に恐れをなし、多くの者達が俺に従った。
力さえあれば何もかも手に入れられる。
愛も正義も優しさも必要ない……。
いつしか自由を取り戻す為戦っていた心優しい少年は、深い憎しみを抱く冷酷な闇の住人へと変わっていった。
超魔獣となったロウは敗れ、長かった闇ギルドとの戦いは遂に終わった。
「リトー !」
私達はリトの元へ駆け寄った。
「主、やっと終わりました」
リトはコダイの頭から降りると笑顔で告げた。
「ワカバー !」
私の所にエルサ、ミライ、マルクが駆け寄った。マルクは気絶したヴェルザードを背負っていた。
エルサはすぐさま私に抱きついた。
「ちょっ、エルサさん !?」
エルサの腕は震えていた。
「良かった……君が無事で居てくれて……私のせいで君を危険な目に……本当にすまなかった……」
「いいですよ、エルサさん」
私はエルサの頭を撫でた。
「そうだ、ロウは !」
私はロウの方を見た。
そこには全身が焼け爛れ、片眼を失い、胸に穴が開き、角も折られ、変わり果てた男の姿があった。
男は仰向けになって倒れていた。まだ息はあるようだが……。
「彼はミーデによって無理矢理魔獣化させられました。もう……助からないでしょう……」
リトはロウを見つめながら悲しげに告げた。
「ロウ……ロウ……」
コロナはロウに近づき、そっとしゃがんだ。
「コロ……ナ……」
ロウはコロナの顔を見ると蚊の泣くような声で呻いた。
「…………」
コロナはフードで頭を覆った。何かを言おうとしていたが言葉に詰まっている様子だった。
「……どうして……」
コロナは小さな声でロウに語りかけた。
「……どうして……私を助けたの…… ?」
ロウは虚ろな目で雲を見つめていた。
「言ったはずだ……お前の……魔女としての……潜在能力が……高かったから……だと……」
コロナは歯を食い縛り、
「本当のこと言ってよ !!!」
感情を露にして叫んだ。クロスは何も言えずただ黙っていた。
「……昔死んだ……妹に……似ていたからだ……」
ロウは観念し、小さな声で本当のことを話した。
「ミオン……純粋で……優しくて……良い子……だった……守りたかった……」
ロウは弱々しく腕を天に向かって伸ばした。コロナはそれをそっと掴んだ。
「俺は……あの日……斧を手にしてから……多くの命を……奪ってきた……多くの……人達を……傷つけて……きた……斧は俺の感情を喰らって強くなった……だが……斧を使う度に俺の心から感情が消えた……」
ロウはか細い声で続けて話した。
「何故……だろうな……優しさなんて……とっくに捨てたはずなのに……行き倒れていたお前を……助けてしまった……自分でも……よくわからない……」
ロウは自嘲しながら微かに笑みを浮かべた。
「ロウ……私……ロウのおかげで救われた……ロウが居なかったら、私は……生きていなかった……」
コロナの声は震えていた。
「ありがとう……ロウ」
コロナは目に大粒の涙を浮かべた。
「コロナ……」
ロウはボロボロの大きな手でコロナの頭を優しくて撫でた。
「コロナ……元気に……強く……生きろよ……」
ロウはコロナを見つめ、優しく微笑んだ。
そして手に力が入らなくなり、地面に落ちた。
やがてロウは動かなくなった。
「ロウ……うっ……」
コロナは堪えていたものが一気に込み上げた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ !!!」
コロナは人目もはばからず、大声で泣き叫んだ。
私はコロナの背中にそっと寄り添った。
To Be Continued




