第五十二話・超魔獣ミノタウロス
まさかの光景に一瞬目を疑った。
仲間だと思われたミーデが突然手刀でロウを貫いたのだ。
「ロウー !!!」
コロナは顔をくしゃくしゃにして泣き叫んだ。リリィが咄嗟にコロナの目を塞いだ。
「貴様も……俺を裏切るのか……」
ロウは血を吐きながら振り向きミーデを睨み付けた。
「おやぁ ?何か勘違いをしているようですねぇ、私はあなた達の仲間になった覚えはありませんよ ?あくまで協定関係にあるだけです」
ミーデは手を引っ込めた。
「あなたには失望しましたよ、あれだけ大物ぶっておいて魔人相手に手も足も出ないとは……」
ミーデはロウを嘲笑った。
突然ロウは胸を押さえ苦しみ出した。
「貴様……俺の体に……何をした…… !」
「あなたの体にこのカードを埋め込ませてもらいました」
ミーデは一枚のカードを掲げだ。
「そのカードは……」
「魔獣化のカードです。加勢しろとあなたはおっしゃいましたよね ?ですからあなたに力を与えて差し上げたのです」
ロウの体に異変が起こった。
肌が禍々しい紫色に変色し、角は更に肥大化し、顔も人間から凶悪な牛のものへと変貌を遂げた。
「うおおおっ…… !」
ロウは自らの変化に戸惑い、苦しそうに呻いた。
「喜んでください !あなたは更なる力を得ることが出きるのです !理性と命を引き換えにね……」
私を含め、全員ただ黙って見てることしか出来なかった。
「うぉぉぉぉぉ !」
ロウの変化はまだ終わらなかった。
全身の筋肉が膨張したかと思えばみるみるうちに巨大化し、50メートル程の巨人になった。
「皆さんご覧なさい !獣人ミノタウロスは魔獣になることが出来ました !超魔獣ミノタウロスの誕生です !」
ミーデは喜びのあまり声高に叫んだ。
「まさか……人を魔獣に変えるなんて……」
エルサは剣を握りながら震えた。
「そんな……ロウ…… !ロウ !」
「コロナちゃんダメです !」
ロウの変わり果てた姿を見て取り乱したコロナは駆け寄ろうとした。
リリィが必死に押さえる。
ウガァァァァァァァァァ
超魔獣と化したロウは空を見上げ、雄叫びを上げた。
「彼はもうかつてのロウさんではありません、本能の赴くまま、命果てるまで暴れ続けるでしょう」
ミーデは落ちていた斧を回収するとギルドの屋根に飛び、高みの見物を決めた。
「超魔獣ですか……中々面白い発想ですね」
ロウはゆっくりとリトを見下ろした。
理性を無くした彼は本能のまま、敵を判別したようだ。
「どんな姿になろうと、私の敵ではありませんよ」
ロウは勢いよくパンチをリトに向かって降り下ろした。
リトは素早くジャンプしてかわした。
ロウの拳が地面を抉る。
「寧ろ大きくなりすぎて動きが鈍くなってますよ !はぁっ !」
リトは人差し指から無数の火の弾丸の雨をロウの顔に浴びせた。
「どうやら効いていませんね、だったら !」
リトは大きく円を描き、炎の輪を生成した。
「炎輪の抱擁 !」
炎の輪はロウを縛り上げた。
そしてロウの全身を燃え上がらせた。
「所詮見かけ倒しでしたね。牛カルビにしてパーティーでも開きましょうか」
リトは勝利を確信した。
だがロウは燃え上がる中、力付くで自らを拘束する炎の輪を引きちぎった。
ウガァァァァァァァァァ
「な、何ですって !?」
ロウは雄叫びを上げながら驚くリトに大振りでパンチを喰らわせた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ !」
巨体から繰り出されるパンチは威力が凄まじく、リトは勢いよく吹っ飛ばされ、一撃で岩盤にめり込んでしまった。
「リト !」
「くそっ !とんだ化け物だぜ !」
ヴェルザード、エルサ、マルクが立ち上がった。
3人は一斉にロウに飛び掛かる。
「ウォラッ !」「せいやぁ !」
ヴェルザードは残り少ない魔力を消費しながら連続でパンチを浴びせた。
マルクもヒレでロウの肌を切り裂こうとする。
ブゥン !
だがロウの防御力は格段に上がったのか、蚊に刺される程度の痛みでしかなく、あっさり手で振り払われた。
「うわぁぁぁぁぁ !」
ヴェルザードとマルクは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
ヴェルザードは先程の戦いで既に限界だったのか、気を失った。
「はぁぁぁぁ !」
スパスパスパッ
残されたエルサは羽虫のようにロウの全身を駆け巡り、剣で攻撃を続けた。
ロウは目障りに思い、エルサを捕まえようと腕を伸ばした。
「どんなに屈強な怪物にも、弱点があるはず…… !そこを突けば…… !」
だが、エルサは巨大な手に捕まってしまった。
「しまっ…… !ぐわぁぁぁぁぁ !」
「エルサさん !」
ロウの巨大な手に全身を強く握られ、エルサは悲鳴を上げた。
「大変~私が助ける~」
ミライは翼を広げ、飛び立った。
「ミライちゃん !」
ミライはロウの眼前に近づいた。
「羽根乱針~ !」
ミライはロウの眼に向かって羽根を飛ばした。
ウゴァァァァァ
羽根が鬱陶しかったのか、ロウは夢中で羽根を払い落とそうと手を振った。
やがてエルサを握っていた方の拳に力が抜け、エルサは落とされた。
急かさずミライがキャッチした。
「うっ……」
「大丈夫~ ?」
「ありがとう、助かった……」
流石のエルサも全身の骨が砕け、これ以上は戦える状態ではなかった。
「どうしよう……」
皆が束になっても敵わない……。あのリトでさえも……。どうすれば良いんだろう……。
私はただ茫然と見てることしか出来なかった。
「ロウ !お願い !目を覚まして !」
コロナがロウに向かって叫んだ。
「馬鹿 !気付かれるぞ !」
クロスの忠告は遅かった。
ロウはコロナの方に気付くとゆっくり近づいた。
私とリリィはコロナを庇い、前に出た。
「ロウ……私だよ ?コロナだよ ?お願い……もうやめて……」
コロナは涙を流しながら語りかけた。
ロウはコロナをじっと見つめ、静かに黙っていた。
「何をしてるんですか !その小娘は裏切り者ですよ !さっさと踏み潰しなさい !」
痺れを切らしたミーデが叫ぶ。
ロウは大きく長い足を振り上げた。
私達を踏み潰す準備だ。
「さぁ、一思いにやりなさい !」
ロウの足が私達に向かって降り下ろされようとした時
ピシュン
ロウの頬を何かがかすった。
「何をよそ見しているんですか……。まだ勝負はついていませんよ…… !」
岩盤からリトが這い上がって来た。
リトの体は僅かに透けていた。
「まずい…… !タイムリミットが…… !」
「ロウさん !あなたの相手は私です !まずは私との決着をつけなさい !」
リトはボロボロの状態で叫んだ。
ウゴァァァァァァァ !!!
ロウはリトに向かって脇目もふらず走り出した。
巨人が走る度に地響きが鳴り、大地が揺れた。
「指撃熱線 !」
リトは向かってくるロウ目掛けて人差し指から熱線を放った。
ピシュン
熱線はロウの片眼を貫き、焼いた。
これで動きが止まる……そう思っていたが
ロウは物ともしなかった。
「馬鹿な……片眼を焼き払われたのに…… !」
ウオガァァァァァァァ
ロウは雄叫びを上げ、高くジャンプすると
リト目掛けて踏み潰した。
衝撃で地面は抉られ、土砂が舞う。
リトの絶叫が響き渡る
ロウはそれを何度も繰り返した。
「リトぉぉぉぉぉ !」
ロウの攻撃がやむと、何度も踏み潰され、めり込んだ地面からリトの姿が見えた。
全身ボロボロで完全に消えかかっていた。
「こ……このまま消えてしまえば……またしても主を危険に晒してしまいます……」
リトは立ち上がろうとしたが、もはや動ける状態ではなかった。
ロウはリトの状態を確認すると拳を大きく振り上げ、とどめを刺そうとした。
「もうやめてぇぇぇぇぇ !」
私とコロナは泣きながら叫んだ。
その時、ロウの足下が急に盛り上がった。
ロウは不思議に思い、足下を見下ろした。
ドゴォォォン
地中から何ものかが出現した。
衝撃でロウは吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「な、何ですか……」
リトの目の前に、50メートル程はある巨大な恐竜のようなものが見えた。
二足歩行で長い尻尾と鋭い爪を持ち、立派な牙を生やしたいかにも凶暴そうなモンスター。
「ここに来て新手ですか……冗談がキツすぎますよ……」
リトはあまりにもあんまりな展開に思わず笑いが込み上げた。
ボォォォォォォ
恐竜のようなモンスターはリトに向かって炎を吐いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !」
リトはありったけの炎を全身に浴び、絶叫した。
「リトぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ !」
To Be Continued




