第四十九話・脱出の時
ミーデの拷問を受け続け、私は心身ともに限界だった。
「もう睨む元気すら残っていないようですねぇ」
ミーデはランプを撫でながらニタニタしていた。
「汚らわしい手で触らないでください !」
リトはミーデに対して怒っていた。
「ふん、三分間しか戦えない無力な役立たずが……」
ミーデはランプを指でコツンと小突いた。
「ワカバさん、そろそろ楽になったらどうですかぁ?意地を張った所で苦痛が長引くだけですよ?」
「あなたに……屈するくらいなら……死んだ方がマシ……です……」
私は呻きながらそう答えた。
「何ともまあムカつきますねぇ」
ミーデは手のひらから黒い影の鞭を繰り出した。
そして、
「影鞭 !」
ミーデは鞭を地面に叩きつけた。ピシッと耳に障る音がした。
「オラァンッ !」
ビシッビシッ
ミーデは影の鞭を私の体に強く叩きつけた。
ビシッ ビシッ ビシッ
「うっ!」
私は痛くて声が漏れた。
「まだまだ行きますよ !ホラホラ !」
ビシッ バシッ ビシィッ
ミーデは調子に乗り、何度も鞭でいたぶった。
「あああっ !」
私は悲鳴を上げた。骨が軋む音がし、体中に青アザが広がり、血が流れた。
「うっ……」
私はがくりとうなだれた。もう全身に力が入らない。
「おやおや、もう終わりですか、まだ寝かせませんよぉ !」
ミーデの追撃は終わらない。影の鞭が私の首に絡み付き、きつく食い込む。
「あっ…… !」
「覚えていますか ?この前もあなたの首を締めて差し上げましたよね ?」
鞭の締め付けはいやらしいほどにじわじわ強くなる。
目が上を向き、口からよだれが垂れた。
「あなたは縛られてる姿が実にお似合いです。操り人形に相応しい !さあ、心を完全に壊して差し上げますよ !」
ミーデはゲス顔で言い放った。
私は充分耐えた……。もう限界だ。皆、ごめんね……。とうとう諦めそうになったその時
「ふごおっ !?」
ミーデの背後を何者かが襲った。後頭部をフライパンのような凶器で殴ったのだ。
ミーデはあっさり気を失った。
「ワカバちゃん !助けに来ましたよ !」
薄れ行く意識の中、私の霞んだ視界に映ったのは、メイド服を来た少女、リリィだった。
「ひどい……こんな姿に……」
リリィは両手で口を覆い、涙を浮かべていた。
「この人ほんとに許せないよ~ !このこの~」
後ろにいたミライは倒れてるミーデの頭をゲシゲシ踏みつけた。
「ワカバちゃん、今解放するよ~、えい !」
ミライは自分の翼から羽根を2枚引き抜くとダーツのように私を縛ってる鎖に投げつけた。
鎖は簡単に切り落とされた。
「おっと !」
解放され、倒れかかった私をリリィがキャッチした。
「ワカバちゃん ! ……大変です、虫の息ですよ !」
「すぐに手当てしなきゃ ~」
リリィが包帯を取り出そうとするとコロナが前に出た。
「コロナは水の回復魔法が使える」
クロスが呟いた。
「本当ですか、お願いします !」
「うん……癒しの雫」
コロナは杖を私の顔の上に掲げた。
すると杖から1滴の雫が零れ落ちた。
雫は私の口の中に入った。
「んっ…… 」
私の体は見違えるほどに完全に回復した。
「ここは……って皆……」
「ワカバちゃんっ !」
リリィは私に強く抱きついた。
「リリィ……」
「ごめんなさいっ !もっと早く助けられたら…… !でも無事で良かったですっ !」
リリィは鼻をすすりながら涙を流した。
「ずるい~ !私も~ !」
ミライも翼を広げ、私とリリィごと抱き締めた。
「皆……心配かけてごめんね……」
私もあの地獄から解放され、もう一度仲間の顔が見れて安心したのか、ポロっと涙が零れた。
その様子を羨ましそうにコロナが見つめていた。
私はすぐにハッとした。
「そうだ ! リト !」
ミーデが倒れた拍子にランプが転がっていた。
「主……」
ミライが羽根でランプに絡み付いていた鎖を切り裂いた。
「主……」
私はランプをぎゅっと抱き締めた。
「ごめんなさい。リト……私が弱いばっかりに……」
「謝るのは私の方です、私が不甲斐ないせいで主が酷い目に……主が苦しんでる間、ただ見てることしか出来なかった自分が憎い……!」
リトの声は震えていた。
「でも主は強いです。最後まで希望を捨てませんでした。どんなに苦しめられても、決して悪には屈しなかった……」
「リトが教えてくれたんですよ。どんな時でもポジティブにって……それに一人だったら耐えられなかった、仲間が来てくれるってずっと信じていたから……」
私はランプを見つめながら微笑んだ。
「ワカバちゃん……」「主……」
リリィはハンカチで顔を拭っていた。
「さ、早くここから出ましょう !」
「そうだね~」
リリィはコロナの方を向いた。
「コロナちゃん、あなたも一緒に来て下さい !」
「え……」
コロナは困惑していた。
「クロス……どうしよう……」
「どうするかは君が決めるんだ」
クロスはコロナを諭した。
「えっと……」
私はコロナに近寄った。
「コロナちゃん、ありがとね。おかげでこんなに元気になれたよ」
「……」
コロナは黙って私の顔を見つめた。
「コロナちゃん、一緒に行こう」
私は手を差し出した。
「……分かった」
コロナは意を決して私の手を握った。
「さ、行きましょう !」
私達は地下牢を後にした。
俺は少しの間、仰向けになっていた。
幹部達との戦いで思いの外体力を消耗した。
「よし、これで大丈夫だな」
エルサが俺とマルクに包帯を巻いた。
「お前、怪我は大丈夫なのか ?」
「私はそこまで負傷していない。それに、エルフは回復が早いんだ」
「お前が化け物なだけじゃねえか……?」
俺は軽く突っ込みを入れた。
「でもよ、少し休んだらだいぶ元気になったぜ !俺らもギルドに乗り込もうぜ !」
マルクは肩をならしながら立ち上がった。
「あぁ、それにまだボスが控えている」
エルサは警戒心を強めた。
「そんなにヤバいのか」
「私が手も足も出なかった相手だからな」
エルサは強い。少なくとも純粋な剣術だけでもあの魔人を除いてナンバーワンの実力だろ。
そのエルサがここまで言うなんてよっぽど
の化け物なんだろうな
「だがワカバに手を出されたんだ。お礼くらいはしてやらねえとな」
俺は拳を強く握った。
「頼もしいな、吸血鬼」
俺は鼻を擦った。
「よし、お前ら体力は回復したか ?そろそろ行くぜ !」
マルクが先陣切って乗り込もうとしたその時
「その必要はない」
三人に戦慄が走った。
空気がピリピリうねる。
この尋常ならざる圧倒的な魔力……まさか……!
「貴様らは許されざる罪を犯した。奴隷達を逃がし、三人の幹部を倒し、あの小娘を奪いコロナを手籠めにした……」
二本の角を生やした筋骨隆々の大男が斧を片手に近付いてきた。
「貴様らは人間では無いが、我々の邪魔をしたんだ。倒させてもらうぞ」
男は鋭く俺達を睨み付けた。
「間違いない。奴こそが闇ギルドのリーダー、ロウだ !」
エルサは身震いしていた。
確かに他の幹部とは別格のようだ。冷徹でカリスマ性に溢れている。
「どうやらボスのお出ましのようだな」
「てめえをぶっ倒して、糞みてえな闇ギルドを壊滅させてやるぜ !」
俺とマルクは武者震いしながらも啖呵を切った。
「ふん、愚か者どもが……」
ロウはゆっくりと斧を構えた。
「さあ、やろうぜ」
俺達も戦闘体勢に入った。
遂に最終決戦の幕が上がった。
To Be Continued




