第四十六話・悲しみの魔女コロナ
「ハァ……ハァ……」
憎悪の角に捕らえられて何日が経ったのだろう……。
私は毎日ミーデの残忍な拷問を受けていた。
身体中はボロボロ。何度も電流を浴び、あちこちに火傷の痕が痛々しく刻まれていた。もはや呼吸をするので精一杯だ。
視界もボヤけ、虚ろな目は焦点が定まらず、あらぬ方向に向いていた。
「あの……お姉さん……」
そこへおどおどしながらコロナがやって来た。
「お……はよう……コロナちゃん……」
私は精一杯作り笑顔を浮かべた。
あの日から私とコロナは檻越しで仲良く会話する間柄になった。
コロナと一緒にいる時だけがこの地獄の環境の中で唯一の癒しだった。
「所で前から聞いてみたかったんだけど、コロナちゃんってどうしてこのギルドにいるの……?」
私は思いきってコロナに聞いてみた。
「えっと……」
コロナが答えようとすると
「やめておけ」
使い魔のカラス・クロスが止めに入った。
「お前はいずれ心を失う。知る必要はないだろう」
「大丈夫だよ……私は絶対心を失わないから……。」
きっと仲間が助けに来てくれる……。それまで絶対に諦めないと心に決めていた。
「ふん、呑気な小娘だ。」
クロスは呆れた様子だった。
「えーっとね……前はお母さんと二人で暮らしてたんだけど……村が大きい化け物に襲われて……。」
コロナはゆっくりと語った。
「化け物はすぐにいなくなったんだけど……村の人達が魔女の仕業だーって言ってお母さんを捕まえたの……」
コロナのお母さんが魔女の力で化け物を操ったと思い込み、村全体で迫害し、魔女狩りを始めたと……。
酷い話だと思った。
「お母さんは……私を遠くに逃がしてくれて……それからずーっと歩き続けて……お腹も空いて……もうダメだって思った時、……ロウさんが助けてくれたの……」
あの日、コロナは魔女狩りから逃れる為、必死にあてもなくさ迷い歩いていた。
だが小さな子供の足では限界があった。
コロナの足は止まり、力尽き、うつ伏せに倒れた。
「うぅ……お母さん……助けて……。」
コロナは泣きながら母に助けを求めた。
「諦めるなコロナ……!母に生きてと言われたんだろ……!」
クロスも空腹に耐えながらコロナを励ました。
「子供……?こんな所で何をしている。」
そこへ、虫の息で泣きじゃくるコロナの前に二本の角を生やした大男が近づいてきた。
「誰かぁ……助けて……」
コロナは大粒の涙を流しながら必死に手を伸ばした。
大男はコロナを抱き抱えた。
「その杖、お前は人間ではない、魔女だな。」
大男はコロナに問いかける。
「うん……。」
コロナは静かに頷いた。
「魔族なら助けてやろう。一緒に来い。俺の名はロウだ。」
ロウと名乗る男はコロナに向かって不器用に微笑んだ。
コロナはその笑顔を見て安堵したのか静かに眠りに着いた。
ロウはコロナを抱き抱えたまま、ギルドに戻った。
それが、コロナが闇ギルドに入った経緯である。
「ロウは私を救ってくれた……。だから私はロウの役に立ちたい……。たとえそれが……悪いことだとしても……。」
コロナは悲しげな表情を浮かべながら答えた。
こんなに幼い子供が過酷な運命を背負っているなんて……。
「命の恩人の役に立ちたいって気持ちは大事だよ……でも……人を傷つけ続ける生き方なんて……私は間違ってると思う……。」
「綺麗事を言うな!ここがコロナの唯一の居場所だ!闇の世界でなければ生きられなかったんだ!」
クロスが激昂した。
「それでも……私には……コロナちゃんが幸せそうには見えなかったな……。」
コロナは図星をつかれたのかハッとした。
「もし良かったら……私達と一緒に行かない……?コロナちゃんのこと、放っておけないんだ……。」
私は微笑みながらコロナに誘いをかけた。
「まさか助けが来るとと本気で思ってるのか?」
クロスは私を愚かだと思ってるようだった。
「リトも言ってたしね……どんな時でもポジティブにって……。」
「主……。」
ランプの中でリトはポツリ呟いた。
「ふん、鎖で繋がれながら勧誘とは、大した小娘だな」
クロスは呆れていたがコロナは少し嬉しそうにしていた。
「おやおや、ガールズトークに花を咲かせて、呑気なものですねぇ」
そこへ、ニタニタしながらミーデが現れた。
私は彼を精一杯睨み付けた。
「そんな怖い顔で睨まないでくださいよ、そうそうコロナさん。外部からの侵入者の排除の為、大勢の仲間が駆り出されてるようですよ。中の警備は手薄です。ちょっと手助けに行かれたらどうですか?特に人間の奴隷達の監視が甘くなってるかも知れませんよ」
侵入者……!ヴェルザード達のことだ。
私は僅かに希望を胸に抱いた。
「わ……わかりました。行こう、クロス……。」
コロナは素直に頷くと去っていこうとした。
「コロ……ナ……ちゃん……。」
私はか細い声でコロナを呼び止めた。
「さっきの話……考えといてね……。」
コロナは振り向くことなく黙って行ってしまった。
「一体何の話ですかぁ?私気になりますねぇ」
ミーデはニヤリと汚い笑みを浮かべた。
「さ、さぁ……あなたには関係のないこと……ですよ……。」
私はミーデの目を睨みながら悪態をついた。
「相変わらず生意気ですねぇ、まだ反抗するだけの元気がおありのようだ。」
ミーデは真顔になると牢の鍵を開けた。
そして私の髪を無理矢理掴んだ。
「いたっ……!」
「もっと強くいたぶって差し上げますね」
ミーデは私の胸に手を当てた。
「黒雷!」
ミーデの手のひらから、赤黒く光る電撃が私の全身を突き刺すように身体中を流れた。
「キャアアアアアアアアアアアアア!!!」
何これ……!?いつもの電流と威力が段違いだ……!
私は目に涙を浮かべながら声が張り裂けるほどに絶叫した。
「もっと聞かせてください!あなたの奏でるメロディを!ホッホッホッホ!!!」
じめじめとした薄暗い地下牢でミーデの薄汚い高笑いと私の絶叫が響き渡った。
To Be Continued




