第四十五話・三人の意地
「はぁぁぁっ!!!」
マルクとゴード、一進一退の攻防戦が続いた。
「何が半魚人のリーダーだ!てめえみたいなのはなぁ!井の中の蛙、大海を知らずって言うんだよぉ!」
ゴードは攻撃の手を緩めない。
「内輪でイキッてるのはてめえの方だ!」
マルクは力むとスピードを上げ、ゴードを圧倒した。
「何ィ!?」
ゴードは一瞬怯み、距離を取った。
「俺の実力は村一番だと思っていた。だが俺より強いやつはゴロゴロいた。それを思い知ったからこそ、もっと強くなりたいと思ったんだ。」
マルクは深く深呼吸をすると腰を低く構えた。
「さ、一気に決めるぜ」
「お前との戦い、楽しめたぜ。だがこれで終わりだ」
ゴードもマルクの雰囲気を感じとり、腰を落とした。
緊迫した空気が流れる。
「「ウオオォォォォォォォ!!!」」
マルクとゴードは互いに向かって剣を振り上げ、走り出した。
カキンッ!
マルクのヒレとゴードの双剣が交差した。
二人は静止したまま動かない。
「成る程……大事なのは向上心か……俺は……ロウの隣に居るだけで……満足しちまってたぜ……」
ゴードは自嘲すると静かに倒れ伏した。
勝者はマルクだ。
「俺はもっと強くなる……こんな所で負けるわけにはいかねえんだよ……!」
マルクは腹に負った傷を押さえながら膝をついた。傷口から痛々しく血が滴り落ちた。
「ちょっと、休憩が必要かもな……」
エルサはなおもオーバのベアハッグに苦しめられていた。
「ぐわぁぁぁっ!!!」
「どうしたんだ!?さっきまでの威勢は!」
オーバの締め上げる力は更に強くなる。
「女!あの小娘を助けたいと言っていたな、お前には無理だ!ロウにも負け、俺にすら勝てないようじゃ、お前はヒーローにはなれん!」
エルサの抵抗が弱くなっていった。
「そろそろ終わりだな、観念して俺の女になるがいい!」
オーバはとどめを刺そうと最後に力を強めようとした。
「これが君の限界か」
エルサは落ち着いた声で呟いた。
「何?」
「君の力がどれ程のものか確かめてみたが、ここまでが限界のようだな。」
さっきまで苦しんでたのが嘘のようにエルサは平然としていた。
「馬鹿な……。俺に締め上げられて、無事だった者は居ないはず……!」
オーバは激しく狼狽していた。
「いい加減離せ!はあっ!」
エルサは目一杯力を込め、オーバのベアハッグから脱出した。
「私は君には負けないし、君達のリーダーにリベンジを果たす!」
エルサは剣をオーバの腹に突き立てた。
「ま……待て……!」
「ゲスが……地の果てまでぶっ飛ぶが良い!!!」
エルサは剣先に魔力を込めた。
「神月颶風!!!」
エルサの剣から巨大なハリケーンが放たれた。
オーバの巨体があっさりと地を離れ宙に浮き、勢いよく空高く飛んでいった。
「ぎゃああああああ!!!」
オーバは遠くまで飛ばされ、やがて流星のように頭から地上へ落ちていった。
「ごふっ!?」
物凄い衝撃と共にオーバの頭は地面に突き刺さった。
オーバは地面に埋まりながら間抜けな格好でピクピク痙攣していた。
「猪頭野郎が……」
エルサは静かに剣を鞘に納めた。
俺は自らの血液を鋭い剣に変えた。
ガギの持つ棍棒に対抗するためだ。
「お前は他のやつらより高い魔力を持ってるからな、本気でやらねえと死ぬ!」
俺は深紅の邪剣を振り上げながらガギを斬りつけた。
ガギは棍棒で俺の攻撃を防ぐ。
「お前……武器……使いなれてない……不利……」
ガギは棍棒を豪快に振るった。棍棒は俺の腹に直撃した。
「ぐほぁ!」
俺はモロに喰らい、顔を歪めながら吐血した。
だが俺は歯を食い縛り痛みを堪え、ガギの脇腹に一撃を叩き込んだ。
「グゥっ……!」
ガギは苦しそうに呻いた。
「どうだ、血で出来た剣の味は……うっ」
俺は目眩がして立ち眩んだ。
今の俺は血が足りない状態、長引くのは危険だ。
「うぉぉぉぉ!!!」
俺はガギの懐に飛び込み、何度も斬りつけた。
ガギの身体から血飛沫が舞った。
「調子に……乗るな……!」
ガギは腕に力を込めると棍棒を大きく振り、俺の全身に打撃を加え続けた。
「くぅっ!」
全身の骨が砕けるような重い痛みだ。
俺は吹っ飛ばされ、地面に突っ伏した。
「はぁ……はぁ……」
俺は息を切らしながら立ち上がろうとした。
ガギさんはその暇すら与えず頭上を棍棒で叩きつける。
「うわぁぁぁぁ!!!」
俺は再び地面に転がった。
普通の人間ならとっくに死んでるな。
「お前……俺に……勝てない……。」
ガギは倒れ伏した俺を見下ろしながら冷たく言い放った。
ゴードやオーバのような小物と違い、明らかに強い。更にこいつを上回るボスも控えてると言うのに……。
俺は握り続けた血の剣を見つめた。剣は僅かだが欠け始めていた。
「こいつも俺も……そろそろ限界が近いな……。」
俺はゆっくりと血を流しながら立ち上がった。
「俺は、ワカバを助けなきゃならねぇ……こんな所で這いつくばってる場合じゃねえんだよ……。」
俺は震えながらも矛先をガギに向けた。
「しつこいの……嫌いだ……。」
ガギは棍棒を大きく振りかぶった。
「次こそ……叩きおる……」
俺はガギに向かって駆け出した。
「ウォォォォォォォ!!!」
吸血鬼は己の魔力を純粋な怪力に変換する。
俺は自分の魔力の殆どを血の剣に注ぎ込んだ。
「無駄だ……死ね……!」
ガギは棍棒を俺に向けて振り下ろした。
「でやっ!」
俺は血の剣で逆に棍棒を綺麗に切り落とした。
「何……!?」
ガギは目を見開いて驚いた。
「ウオラァァ!!!」
俺は血の剣でガギの急所を一撃で斬り伏せた。
血の剣は限界を迎え、粉々に砕け散った。
「はぁ……はぁ……」
ガギの背中から大量の血が吹き出した。
「ぐおおおおおお!!!」
ガギは大声で絶叫をすると膝をつき、ゆっくりと倒れた。倒れた衝撃で地響きが鳴った。
「はぁ……はぁ……。」
遂に3人の幹部は倒れた。
俺は満身創痍になりながら懐をまさぐった。
すると綺麗なトマトが出てきた。
俺は大きく口を開け、豪快にトマトにかぶりついた。
「やっぱトマトはうめえな……」
俺はそう満足気に呟くと大の字になって倒れ、空を見上げた。
To Be Continued




