第四十四話・苦戦-ハードファイト-
俺達は遂に闇ギルドの3幹部と戦いを始めた。
「オラオラ !」「うぉぉぉ !」
キンキンッ !
マルクのヒレとゴードの双剣がぶつかり合い、火花が飛んだ。
怒濤の勢いで互いの体を斬り合う。
「どうした半魚人さんよぉ! 動きが鈍くなって来てるぜぇ !」
ゴードが若干押していた。彼の方がスピードが上のようだ。
マルクは全身にかすり傷を受けた。
「そりゃお前の勘違いだぜ !」
例え劣勢でもマルクは余裕の態度を崩さなかった。
一旦マルクは距離をとり、全身に力を込めながら腕を十字にクロスした。
「行くぜ! 魚人水刃 !!!」
両肘のヒレから水の刃が放たれた。
「面白い技だなぁ! だが !」
ゴードは巧みに双剣を使いこなし、水の刃を弾いた。
「無駄だぜ! 俺のツインゴブレイドはどんなものでも切り裂くのさ」
ゴードはニヤリとほくそ笑んだ。
「俺はゴブリン族のリーダーのホブゴブリンだ。伊達に軍を統率してねえんだよ」
「奇遇だなぁ、俺も村ではリーダー的な存在だったんだ」
マルクはペッと痰を吐いた。
「どっちが本当にリーダーとして相応しいか、ケリを着けようぜ
!」
マルクとゴード、両者は再びぶつかり合った。
一方、オーバとエルサも戦っていた。
エルサの剣とオーバの大剣がぶつかり、拮抗したまま動かない。
そんな密接した状態がしばらく続いた。
「ロウには遠く及ばないが、それでも中々の力だな女 !」
「随分と言ってくれるじゃないか…… !」
オーバは力を込めた状態で話を続けた。
「何故たった3人で我ら闇ギルドに戦いを挑む!?ただの自殺志願者では無さそうだな !」
「とぼけるな! ワカバを取り返すためだ! 君達こそ、何故人間を拐って奴隷にするんだ !」
オーバの力が強くなり、エルサは押され気味になった。
「我らのギルド名は憎悪の角……! 我々は人間を憎む者だ !」
「人間を憎む…… ?何故だ !」
「愚問だな! 我々は人間にされたことをそのままお返ししてるだけだぁ !」
オーバは力を奮い、強引にエルサをふっ飛ばした。
「ぐわっ !」
エルサは地面に叩きつけられ、背中を強く打った。
「くっ…… !」
余程強く打ったのか、エルサは暫く立てずにいた。
ハイオークの力は大木すらへし折る程に凄まじい。
「本来なら魔族や亜人には危害を加えないつもりだったが、こうも抵抗を続けるんじゃ仕方がない、お仕置きが必要だな」
オーバは倒れたエルサに近づき、彼女の髪をグイっと引っ張った。
「ぐっ…… !」
「お前は良い女だ、出来れば殺したくない。是非我らの下につくと言ってくれ。その方がお前のためにも我らのためにもなる」
「断る……。私には既に仲間がいるからな……」
エルサはニヤリと笑い、オーバを睨み付けながら答えた。
「そうか……ならば力ずくで従わせてやる !」
オーバは両腕でエルサを捕らえ、とてつもない力で締め上げた。ベアハッグだ。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ !!!」
エルサは険しい表情をしながら悲鳴を上げた。
並の人間なら肋骨をへし折られているだろう。
鍛え上げられたエルサですら痛みのあまり足をバタつかせる程だ。
「ほう、だいぶ鍛えられてるな、俺好みの良い身体だ。だが、いつまで耐えられるかな !?」
オーバは一層力を入れた。エルサは悲鳴を上げながら何とか逃れようともがいた。
「うおおおおおお !!!」
俺はオーガのガギに何度も打撃を加え続けた。
だが鋼のように強靭な体には傷一つつかなかった。
「こんな……もの……か……お前……の……力……」
ガギは静かに棍棒を振り下ろした。
俺は避けたつもりだったが、振り下ろされた棍棒の余波に巻き込まれ、ふっ飛ばされた。
「くそぉっ !」
俺は何とか着地をし、体勢を立て直した。
「ひたすら殴っても手応えがねえ……」
生身の体というより岩壁をひたすら相手にしているような感覚だ。
俺は腕を引っ掻き、再び血を流し、それをトマト程の球体に凝縮した。
「血の天体 !」
俺は鉛のように重い血の塊をガギにぶつけた。
だがガギは大きく棍棒を振り、血の塊を粉々に打ち砕いた。
「無駄……この……球……ガラスのように……脆い……」
ガギはズシンズシンと足音を響かせ、こちらに近づいて来た。
「参ったな……」
俺は思わず弱音が溢れた。純粋なパワーではあちらの方が上だ。
「安心……しろ……すぐに……楽に……する……お前の……仲間の……ように……」
俺は辺りを見回すと苦戦している仲間達の姿があった。
ゴードの剣さばきを前に劣勢を強いられるマルク、オーバに締め上げられ、悶絶しているエルサ……。
「お前達……俺達に……絶対……勝てない……」
連戦の疲れもあるものの、流石は闇ギルドの幹部達……。中々思い通りにならないものだ。
俺は早くも心が折れそうになった。
「諦め……ない…… !」
その時、エルサの声が聞こえた。
「私は……ワカバを……助けるんだ……こんな……所で……諦めるわけには……行かない…… !」
エルサは締め上げられ、苦痛に顔を歪めながらもその瞳は死んでいなかった。
「俺だって……! 半魚人最強の看板背負ってるんだ……!こんな所で三下相手に手こずってるわけにはいかねえ !」
マルクはゴードの怒濤の剣撃をさばくのに精一杯だったが、それでも負けじと減らず口を叩いた。
「どうやら俺の仲間はまだまだ戦えそうだ。俺が真っ先に倒れたら、吸血鬼の名が泣く !」
俺はふっと笑うとさっきよりも腕を深く切りつけた。
一気に多量の血が噴出した。
「何を……する……つもりだ…… !」
血液の多さは魔力の多さ……。俺は自らの血を宙に浮かした。今度は細長く硬い剣のような形にまで凝縮した。
「名付けるなら、深紅の邪剣ってとこだな」
俺は自らの血で出来た剣を構えた。
「良い……のか……? そんなに……血……流して……吸血鬼……血……無いと……死ぬ……」
「あぁ、確かに出血大サービスし過ぎたな、おかげで頭がクラっとするし足元もフラフラだ。だがお前一人片付けるのはわけないぜ」
俺は剣を強く握った。
「さ、続きを始めようぜ」
「後悔……しても……知らんぞ……」
闇ギルド3幹部との戦いはまだまだ終わらない。
To Be Continued




