第三十九話・強襲!ミノタウロス!
リトは襲ってきた闇ギルドの幹部達と抗戦していた。
四対一でも物ともせず、明らかにリトが優勢だった。
だが、新たに現れた男によって、戦局は大きく覆ることになった。
180はある長身で筋肉質な身体、勇ましい顔立ち、そして頭部には牛のように巨大な角を二本生やしていた。
更に男は巨大な禍々しい斧を装備していた。
「お前達をここまで翻弄するとはな……魔人……。やはりあの男の言った通りだったか……」
男はそう言うと崖から降りて勢い良く着地した。あまりの衝撃に震動で地面が揺れ、砂埃が舞い上がった。
「お前達は下がっていろ、こいつは俺がやる」
男は幹部達に指図をした。幹部達は後ろに下がった。
「まさかリーダー直々に魔人と戦うなんてな……」
「あぁ……」
幹部達の怯えっぷりを見るに、あの男は闇ギルドのリーダーのようだ。
まさか早々にボスのお出ましなんて……リトは大丈夫だろうか……。
「ほう、確かに貴方から並々ならぬ魔力を感じますね、他のやつらとはまるで別格、これは期待できそうですね」
リトは男の放つ強大な魔力を肌で感じ、警戒心を強めた。
今までは余裕の表情を浮かべていたが、明らかにリトの顔は真剣そのものだった。
「俺は上位種獣人、ミノタウロスのロウだ。お前とそこにいる娘を頂くぞ」
ロウと名乗る男は私に向かって巨大な斧を向けた。
「主には指一本触れさせませんよ! 時間に限りがありますので一気に終わらせます !」
リトはロウに向かって走り出した。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
「短期決着が望みか…奇遇だな、俺もだ !」
ロウは走ってくるリトに向かって斧を大きく振り、突風を起こした。リトは風圧を浴びてしまったが構わずロウを殴ろうと拳を振り下ろそうとした。
「くっ……何て強い風ですか! って……あれ…… ?」
リトは自分の体の変化に気づき、動きを止めた。
体が徐々に消え始めたのだ。まだ時間には早いのに…… !
「あ……主……す……すみませ……ん…… !」
何が起こったか理解できぬまま、リトは光の粒子となって完全に消え、ランプに戻ってしまった。
「そんな……一体何が起こったの…… ?」
「実体強制解除……。その名の通り召喚獣等の実体化を強制的に解除し、退場させることが出来るのだ」
ロウは始めからまともにリトと戦う気は無かった。
ロウは斧を持った腕を下ろし、静かに私に近づいていった。水の渦が私を締め付け、逃げることができない。
「い……いや…… !」
「お前は俺達にとって必要な存在だ……」
ロウは私を冷たく見下ろした。そして私に向かって手を伸ばそうとした。
私は怖くて目を瞑った。
「はあっ !」
突然エルサが現れ、ロウに斬りかかった。
ロウは反射的に斧を掲げ、エルサの剣を防いだ。
二つの刃がぶつかり合った衝撃でバチっと火花が飛び散った。
「ワカバ、すまん、君がこんなことに巻き込まれてるなんて……」
「いえ……!助かりました。」
私は安堵の表情を浮かべた。
エルサならロウにも負けないはず……。
「何だあの女 !?」
「小娘の仲間のようだな… !良い女じゃないか !」
「女……美しい…… !」
幹部達も突然のエルサの登場に驚きながらも彼女の凛とした姿に見とれていた。
「長く尖った耳……エルフ族か……鍛え上げられたその体、エルフににしては珍しい……まさか肉体派が居たとはな……」
「私は日頃鍛えてるからな……」
拮抗する二人……エルサは力を強めた。
「私は団長だ、お前達のようなやつらにワカバを渡すわけにはいかん !」
エルサは目にも止まらぬ剣撃でロウを攻めた。
だがロウはびくともしなかった。
「お前は強い……だが俺には勝てん……」
ロウの持ってる斧が邪悪な紫色のオーラを放った。
「牛魔剣・破壊斬 !」
ロウは斧を一振りした。
地割れを起こす程の衝撃波がエルサを襲う。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
エルサは剣で防ごうとしたが防ぎきれず岩盤まで吹っ飛ばされた。
「エルサさん !!!」
エルサは岩盤にめり込んで苦しそうにしていた。
そんな……!エルサさんがたった一撃でやられるなんて……。
私は表情が凍りつき、身震いした。
「邪魔者は消えた。小娘、大人しく来てもらう」
ロウは私のお腹に拳を入れた。
「かはっ !?」
私は痛みのあまり腰が抜け、膝をついた。
殴られた腹が痛くて吐きそうだ……。
意識も遠退いてゆく……。
ロウは片腕で気を失いかけた私を軽々と担ぎ上げた。
「さてお前達、アジトに戻るぞ」
ロウは幹部達に命令し、この場を去ろうとした。
「流石ロウ! 魔人もエルフも相手になりませんでしたなぁ !」
オーバは調子よくおだてていた。
「魔人は強制的に実体化を解除したから決着が着いたのだ。まともに戦えば分からんぞ」
ロウは遠くを見つめていた。
「でもロウ、あの女騎士はほっといていいのか ?」
ゴードは岩盤に叩きつけられてうずくまっているエルサを指差した。
「あいつは人間ではない。人間以外に危害を加える必要はない。それが俺達の信念だ」
「だよな、流石ロウ! かっけえぜ」
調子良くロウを持ち上げるゴード。
ロウは部下達から恐れられているが、同時にそのカリスマ性から慕われてもいた。
コロナは幹部達の会話を聞きながら後ろをついていた。
「コロナ……よくやったな」
ロウはコロナを褒めた。コロナは下を向きながら僅かに微笑んだ。
「待て……ワカバ…… !」
エルサはボロボロの状態で去っていくロウ達に向かって手を伸ばすもやがて力尽き、倒れた。
「エルサ……さん……」
視界がボヤけ、私はロウに担がれながら遂に気を失った。
これは、更なる激闘の序章に過ぎなかった。
私はこの後、壮絶な体験をすることになる。
To Be Continued




