第三十八話・魔人vs闇ギルド
稽古の帰りに私は魔族に襲われた少女を見かけた。
放っておけなかった私はたった1人で魔族の集団を撃破した。
だがそれこそ罠だった。少女は襲われているふりをしていたのだ。
彼女の繰り出した水の渦が私を拘束する。
更に狙い済ましていたかのように個性の強そうな魔族の三人が現れた。
「魔人の使い手がどんなもんかと警戒していたが、なんてこたぁねえ! ただのお人好しの小娘だぜ !」
「だがあの男の話では無力な存在だと聞いていたが、我等の手下を倒すとは中々やるな」
「遊び……足りない……」
黄緑色の肌の細身な男、大柄で猪の頭を持つ男、二本の角を生やした筋骨隆々で厳つい男。
三人ともただ者ではない感じがした。
さっき倒した魔族達の上位互換と言った所か……。
「ホブゴブリン、ハイオーク、オーガのようですね、中位魔族クラスでしょうか……」
リトはランプの中で分析してくれた。
「そう、俺はホブゴブリンのゴードだぜ」
「俺はハイオークのオーバ !」
「俺……種族……オーガ……名前……ガギ……」
「「泣く子も黙る最強闇ギルド・「憎悪の角」だぜ !!!」」
エルサが言っていた、最近噂の闇ギルド……!
三人は幹部のようだ。でも幹部クラスが私一人を狙うなんて、やっぱりリトの召喚士だからなのかな……。
それにこの女の子は……!
「お前を罠にはめたそこのガキは新入りでなぁ! 魔女のコロナって言うんだぜ、小さいからって油断したろ」
ゴードはコロナと呼ばれる女の子を指差し、ゲラゲラ不快な笑い声を上げた。
私がコロナの顔を見つめると彼女は申し訳なさそうにそっぽを向いた。
「わ、私に……何の用ですか……! 奴隷にでもするつもりですか…… !」
「奴隷……? あぁ、確かに我らは人間を奴隷にするのが仕事だが、お前はそうではない。お前の価値は別にある」
オーバは私の懐を指差した。
「お前は数少ない召喚士にして伝説の魔人を従える者。我々が欲しがるのも当然。大人しく来てもらうぞ」
ジリジリと近付いてくる幹部達。
怖い……!
私は逃げようと渦の中で必死にもがいたが力が入らなかった。
「無駄だ。コロナの魔法はそう簡単には解けない」
私の肩に一羽のカラスが止まっていた。カラスは少年のような声を出し、耳元で私に語りかけた。
「コロナは四つの属性魔法を使うことが出来る。今お前を縛ってるのは水属性の技・水流の渦だ」
謎のカラスはコロナの魔法について丁寧に説明した。
この喋るカラスは何者なんだ ?
「どうした、打つ手なしか ?」
更に距離を詰める幹部達。
「やれやれ……よってたかって一人を相手に随分と情けない。これがあなた達闇ギルドのやり方ですか」
ランプの中から呆れた様子のリトの声が聞こえた。
「主、ここは私に任せてください。こんな雑魚共など1分で片付けて見せますよ」
「わ……分かりました! 召喚、魔人 !」
私は魔人の、リトの名を叫んだ。
するとランプの注ぎ口から白い煙がモクモクと膨れ上がり、リトが降臨した。
「さて、一人残らず灰にして差し上げましょうか」
リトはニヤリと笑うと戦闘体勢に入った。
「出やがったなあ、魔人 !」
「いくら貴様でも、一人で我ら幹部を相手に出来るかな !?」
「面白い……! 魔人……倒す……!」
三人は戦闘体勢に入り、それぞれ武器を構えた。ゴードは双剣。オーバは自分の体の何倍もある大剣。ガギはゴツゴツとトゲのついた巨大な棍棒……。
全員本気の目をしている。
「さぁ、何処からでもかかってきなさい」
リトはクイクイと指で挑発した。
「でやぁぁぁぁぁぁ !!!!」
ゴードが先陣を切り、リトに急接近するや否や素早く双剣を振りかざし、切り裂こうとした。
ゴードはスピードが売りなのか目にも止まらぬ連撃をリトに浴びせる。
「スピードは中々のものですが私には止まって見えますねぇ !」
リトは涼しい顔で全ていなすとゴードの額に凸ピンを喰らわせた。
「ぐわっ !!!」
ゴードは地面を抉るように勢い良く吹っ飛ばされ、岩盤に叩きつけられた。
「指一本でこれほどとはやるな !」
「もっと……楽しませろ…… !」
今度はオーバとガギが二人がかりで攻めてきた。体格差でリトを圧倒し、挟み撃ちにするつもりだ。
リトは余裕で二人の怒濤の攻撃を避け続ける。
「お前……慢心……し過ぎ……だ…… !」
「しまった !」
ガギは背後からリトを羽交い締めにした。
流石のリトもガギの怪力からは逃れられない。
「無駄……俺……力……簡単に……ほどけない……」
「離しなさい、このデカブツがぁ !」
リトは必死に抵抗するがガッチリ押さえられてしまった。
その様子はまるで蜘蛛の巣に捕らえられた獲物だった。
もがけばもがく程ガギの力は強まり、逃げるのは困難になる。
「今だ……オーバ……やれ…… !」
「でかしたぞガギ! 真っ二つにしてやるわい !」
オーバはリトに向かって自身の身長の二倍はある大剣を大きく振りかぶった。
「なんちゃって……高熱体質 !!」
リトはピンチのふりをし、裏をかいていた。
全身に力を込めると身体中から湯気を発生させた。
リトの体温は熱湯のように高まり、急上昇していった。
「くっ…熱い…!」
ガギは太陽のように全身が熱くなったリトに触れ続けることが出来ず、反射的に思わず放してしまった。
「今です !」
奇策によって二人に隙が生まれた。
リトはこの好機を逃さず、回転蹴りをガギに浴びせ、狼狽えてるオーバの顎にアッパーをお見舞いした。
「ぐぅ !」「ぐおおお !?」
オーバとガギはダメージを喰らい、痛みに耐えながら後退りし、距離を取った。
「流石は伝説の魔人……。三人がかりでも相手にならんか…… !」
「だが早く決着をつけねぇと時間切れで消えちまうぜ~ ?」
ゴードは悪態をつきながらゆっくりと立ち上がった。
確かにゴードの言う通りだ。
リトにとって唯一の弱点は時間制限……。このまま持久戦に持ち込まれたらリトの負けだ。
「何を世迷い言を……あなた達がいくら束になろうと時間稼ぎすら叶いませんよ」
リトは鼻で笑った。
三人の幹部程度、手玉に取るのは朝飯前のようだ。
「おいコロナ! お前も戦え !」
ゴードはコロナに向かって怒鳴った。
「えっ……でも……」
コロナはハッとなり、おどおどしていた。
実戦は殆ど無いと見える。
「しっかりしろ! それでも憎悪の角の一員か !?」
ゴードは苛立った様子で彼女に向かって叫んだ。
コロナは今にも泣き出しそうになっていた。
「コロナ、ここは僕に任せてくれ」
「クロス……?」
一羽のカラスはそう言うと飛び立ち、翼で自らを覆い隠した。
そしてみるみるうちに姿を変え、小柄で可愛らしい少年の姿になった。
パッと見人間の子供と変わらない容姿だが腕には黒い羽が生えていた。
「あれってもしかして……」
「どうやら魔女の使い魔のようですね、しかし子供ではありませんか」
リリィと同じタイプのようだ。
普段はカラスと酷似しているが、戦闘になると人型になり、未熟な彼女に代わって戦う、まさに騎士のようだった。
「小さいからって舐めていると後悔することになるぞ」
クロスと呼ばれる少年は羽を広げ、空を飛んだ。
「黒羽根乱針 !!!」
クロスは上空からリトに向かって無数の羽根を飛ばした。
羽根はあられのようにリトに降り注いだ。
「指撃火炎弾 !!!」
リトは人差し指から無数の炎の弾を撃ち羽根を相殺した。
羽根は全て打ち落とされた。
「どうしました?使い魔風情ではこんなものですか ?」
「どうかな ?」
クロスはニヤリと笑った。
突然3メートルはある巨大な泡がリトを包み込んだ。
「リト !」
「くっ……何ですかこれは !」
「上ばかり気をとられ過ぎたな! 今のはコロナの水属性魔法・巨大泡の牢獄だ !」
リトが上空からの羽根攻撃を対処している隙に巨大な泡を用意していたようだ。
魔女と使い魔、息の合ったコンビネーションだ。
「お前は炎属性。水が弱点なのは分かっているぞ!そのまま窒息しろ !」
クロスは得意気になって叫んだ。
「確かに炎は水に弱い……ですが私に相性なんて概念は通用しませんよ !」
泡の中に閉じ込められながらもリトは余裕そうだった。
リトは気合いを入れると泡はあっけなく破裂した。
「そんな……!」
「魔女と言ってもまだまだひよっ子のようですねぇ、相性で勝負をするには実力が足りていませんよ ?」
リトはやはり凄い。あれだけの数を相手にものともしていない。流石は伝説の魔人だ。
「さて、もうすぐ時間になりそうですからね、一気に勝負をつけさせてもらいますよ」
リトは指先に力を込めた。
「くそぉ……! 俺達闇ギルドの幹部が揃いも揃って何てザマだ…!」
「まさか時間稼ぎすらままならんとはな…… !」
「不覚……! ここまで……か…… !」
幹部達は拳を震わせていた。
「クロス……」
「大丈夫だ、僕は君のそばにいる……」
クロスは怯えて動けないコロナの元へ駆け寄り、翼を大きく広げて彼女を覆い、抱き締めた。
「さあ、エンドマークですよ !」
リトが指から熱線を放とうとしたその時、謎の衝撃波がリトを襲った。
「何っ !?」
リトは寸でのところでジャンプし、何とかかわした。
「誰ですか! 不意討ちとは卑怯ですよ !」
「貴様が伝説の魔人か……幹部達を手玉に取るだけのことはあるな……」
衝撃波を放った男は崖の上に立っていた。
男は冷酷な目でリトを見下ろしていた。
「ロウ……!」
オーバがボソッと呟いた。
他の幹部達も男の存在に気付いた瞬間、緊張して萎縮し始めた。
そんな中、コロナだけは表情が和らぎ、安堵していた。
「今度は俺が相手をしてやろう……」
男は冷たく言い放った……。
To Be Continued




