第二話・異世界-ゼノワールド
私の名前は安住若葉、16歳。おばあちゃん子なごく普通の女子高生。
成績も普通で特に秀でた才能もなく、容姿もクラスで15番目くらいに可愛いかなぁレベル。何処にでもいそうで地味な私は、何てことのない平凡な人生を送っていた。
そんな私の人生は、ある日おばあちゃんの部屋で金色のランプを見つけたことで全てが一変した。
ランプを狙う謎の男に襲われ、殺されそうになった所で魔人と呼ばれるイケメンが登場し、激闘。挙げ句の果てに、私はブラックホールに飲み込まれてしまった。普通の人間がブラックホールに吸い込まれて無事ですむはずがない。私はきっと死んだんだ。天国に行けたら、おばあちゃんに会えるかなぁ……。
私は悲観的に物事を考えていた。
「はっ !」
目が覚めた。気付いたら私は草原にいた。私はすぐに自分の体をベタベタ調べた。どうやら何処にも体に異常は無かった。
「もしかして……夢……?」
ありがちだが自分の頬をつねってみた。
痛っ……!痛覚を感じるということはこれは現実なのだ。残念なことに。何もかも夢であって欲しかったが、これが現実だと決定付ける証拠品が残されていた。私の手にはしっかりランプの取っ手が握られていたのだ。
「例の……ランプ……」
これを手にした時から全てが変わってしまった。そもそも私は何処にいるのだろう。
辺り一面は草原。見慣れない動物達が戯れている。現実とは程遠いにわかには信じがたい光景だった。
「ま……まさかだとは思うけど……異世界……?」
異世界……よく小説や漫画とかで主人公が交通事故とかで死亡した後、前世の記憶を持ちながら現実とは違う世界で転生して活躍するあれだ。まさか私がそんな体験をすることになるなんて……。
所で私は死んだのか?見た目も変わってないし魔法も使えるわけではない……。
色々な事が起きすぎて頭がパンクしそうになった。
「ここは異世界、ゼノワールド。私の故郷です」
何 !?突然謎の声が聞こえた。私は驚いて飛び上がった。
「驚かないで下さい、私ですよ私。魔人です」
その声はランプの方から聞こえてきた。
この声には聞き覚えがある。間違いない、私を助けてくれた魔人さんだ。
「あ、貴方……なんですか…… ?魔人さん……」
「はい、私はここにいますよ」
まるでランプが喋ってるようでシュールだった。
「ていうか、どっから声出しているんですか……」
「これは念話です、貴方の脳に直接語りかけているんです」
こいつ、直接脳内に…!という定番のものだった。
「そうなんですか……てっきり消えたと思ってましたよ……」
「私こそ、主がご無事でホッとしました」
「いや私はホッと出来ないんだけど…!今の状況が全く読めないんですけど…… !」
焦る私を魔人は宥めた。
「ご心配無用です、私が説明しましょう」
ここから、魔人の説明が始まった。
「貴方は死んでは居ません。あの悪魔の異次元転移魔法によって、こちらの世界に転移させられたのです」
異世界転生というよりは異世界転移だった。
「じゃあ私は生きてるってことですか ?」
「ええ」
それを聞いて少し胸を撫で下ろした。いやまだ安心出来ないけど。
「ってことは、帰る手段はあるんですよね?お母さんが心配してると思うし……」
魔人は眉をひそめた。
「それは……分かりません……あの水晶は希少な物でして…そう易々と入手出来るとは思えません……ましてあれだけの巨大ブラックホールは、上位種クラスの者でしか作れません」
「そうですか……」
私は一気に憂鬱になった。帰る手段も無い中で普通の女子高生が未知の世界に放り出されたのだ。冷静で居られる方がおかしい。
「あ……主、大丈夫ですよ。私がいる限り、貴方の無事は保証します」
魔人の励ましを聞いて、一番聞きたかったことを思い出した。
「そもそも貴方は私の何ですか !どうして私を主って呼ぶんですか !どうして守ってくれるんですか、そのアラビアン風の格好は何なんですか、出たと思ったらすぐ消えるのは何でですか !何でランプがおばあちゃんの部屋から出てきたんですか !」
「わわわ……落ち着いてください主、順を追って説明しますから」
魔人も怒濤の質問責めにたじたじになっていた。
「あ、ごめん……」
ちょっと興奮しすぎたな…魔人は咳払いをした。
「私は炎の魔人、イフリートです。長い時間の中ですっぽり記憶が飛んでいるので割愛させて頂きますが数千年前に色々ヤンチャしてたらこの魔法のランプに封印されました」
結構雑な説明だった。ヤンチャって……多分そんな可愛いものじゃないと思う…
「そして私を封印したランプは巡り巡って貴方のいた世界に流れ着いたというわけです」
魔人の記憶が曖昧な為、ランプがどうやって私のいた世界に流れ着いたのかまでは判明出来なかった。そこが一番気になるというのに……。
「まあランプのルーツについては置いといて……じゃあ貴方がランプから出てこられた理由って何ですか ?」
魔人はすんなり答えてくれた。
「力を失った私は自力ではランプから出られません。召喚士と契約を結び、その方の力を借り、互いの魔力を共鳴させることにより、一時的に封印を解き、実体化出来るようなんです」
「召喚士って……私のこと ?私はただの人間ですよ ?」
「いえいえ、ただの人間の力では、私を復活させることは出来ません、貴方には召喚士としての素質があるんですよ」
ランプから魔人を呼び出すから召喚士ってことか……まさかこの私に秘められた潜在能力が隠されていたとは……と心の中でふざけてみた。
「じゃあ、私を主って呼んだり、守ってくれたりするのは…… ?」
魔人は複雑そうな顔をした。
「そうですね……自分でもよく分かりませんが…一目見た時から感じたんです。この方は私の主だと、我が忠誠を捧げるに相応しいお方だと」
直感らしいが、多分誰かと勘違いしてるのだろう……こんな何の取り柄もない私だ。誰かから、ましてや魔人から忠誠を捧げられる程の身分ではないのだから。
「しかし、私を呼び出したのは紛れもない貴方自身。その時から
私と貴方の間に契約は結ばれたのです」
咄嗟のことでよく覚えてなかったが、魔人が来なかったら、私は今頃生きていなかった。偶然とは言え、そこは受け止めなくてはならない。
「後、もう一つ良いですか ?」
「何ですか ?」
「実体化には制限があるって言ってましたけど、それって具体的にはどれくらいなんですか ?」
「そうですね、魔力を使わなければ長い間居られるんですが…大体三分間くらいですかね、今の私は不完全で肉体すらも曖昧で精神体に限りなく近いと言いますか……」
色々アウトな制限時間ですね !
「しかし、実体化は言わば運動のようなものです。例えば家でゴロゴロしててブランクで体が鈍っていたとしても、運動を続ければ体力は付くというもの。つまり、実体化を繰り返せば、いずれかつての強さと魔力を取り戻せるということです !」
分かりやすい例えで有り難かったが要するに今のままでも充分化け物な人が更に強くなるということでもあった。それは恐ろしい。
「へ、へぇ……よ、よく分かりました……」
私の顔は引きつった。あの人差し指ビームですら危険なのに更に増えられたらたまったものではない。
「心配はご無用です。この力は、貴方を守る為だけに使うつもりです」
魔人は私を安心させる為に笑顔で誓った。
「魔人さん……」
チャラチャラした見た目に反して、心は騎士のようだ。
「まあ、主に危害を加える者は容赦なく灰にして差し上げますがね」
魔人は邪悪な笑みを浮かべた。前言撤回。始まりの町でラスボスを仲間にした気分だ。この魔人の手綱は私がしっかり握らないと、世界が危ない。
「主、粗方説明は致しましたが、ご理解頂けましたか ?」
「あ……まあ何となくですが……」
自分の置かれた状況、自分の居る世界、魔人の存在……全て把握できるほどのインテリでは無かったが、それでもある程度は理解した。
「でも私……この世界でやっていけるかな……」
私は不安だった。未知の世界にほぼ無一文で投げ出されて、ちゃんと生きていけるのだろうか……手元にあるのは魔人の入ったランプだけ……。
「主、どんな状況にあっても、ポジティブですよ !」
魔人は私を励ましてくれた。
「主は私を一時的ですが外の世界へ出させてくれました。主にはきっと特別な力があります、だからこの先も、必ず上手くやっていけるはずです !」
最強の力を持ち、敵には容赦ないラスボスのような男ではあるが、腰が低く、私を励ましてくれたり誉めてくれたり、とても健気で可愛らしかった。
「ありがとう、魔人さん。おかげで勇気が出ました」
「そうですか、良かった。後魔人さん魔人さんとその呼び方は違和感があります、きちんと名前で呼んで下さい」
「名前って……貴方名前あるんですか?」
「いや……昔は何か名前があった気がするんですが……」
どうやら自分の名前も忘れた様子だった。
「じゃあ私が名付けてあげます。えーっと……イフリートだから…リト……なんて」
我ながら安直だなと呆れた。しかし
「良いですね最高です !流石主、センスの塊ですよ !リト……何と甘美な響きか…… !」
思いの外気に入ってくれたらしい。
「では改めまして、この魔人リト、貴方に忠誠を捧げます。今後とも、宜しくお願い致します」
リトは私にこう告げた。私もそれに応え、ランプに向かい頭を下げた。
「此方こそ宜しくお願いします。リト」
「ではこれからどうしますか、主」
「えーっと……まずは町を目指しましょうか」
「そうですね、早速行きましょう !我々の冒険は始まったばかりですよ !」
こうして、召喚士となった女子高生と魔人イフリートの旅が始まった。
この先、何が待ち構えているのかは分からない。だけど、進むしかない。大丈夫、リトが居てくれれば、どんなことが起きても、きっと乗り越えられる。
私達は町を目指し、歩き始めた。
To Be Continued