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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
エピローグ・これからの道
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第三百九十五話・さよなら、リト



異界の門の中へ突入した私はリトに抱き抱えられ、元の世界を目指して果てしなく広がる異空間の海を泳いでいた。

何処を見渡しても様々な色が混ざり合ったヘドロのような歪んだ空間の海が辺り一面に広がっていた。

だけど私はここが初めて来たとは思えず、何処か懐かしさを感じた。

恐らく最初に穴に吸い込まれた時にリトに抱き抱えられながらここを通った事があるのだろう……当時の私は意識が無かったから覚えていないのも無理は無いんだけど……。


「主、気分はどうですか ?」


リトは私を抱き抱え、手慣れたようにスイスイと泳ぎながら私を気遣い、声をかけた。


「はい……大丈夫です」


道と呼べるものは存在せず、同じ景色が何処までも続く、無限に広がる歪んだ時空の海……普通なら迷ってしまいそうだったがリトは一切の迷い無く、確信を持って進み続けた。


「あの……聞きたい事があるんですけど……」

「何ですか? 主」


私は自信無さげにモジモジしながらリトに尋ねた。


「その……元の世界に戻ったとして……どれくらい時間が経ってるのか気になって……」


私は少なくとも異世界で一年以上過ごした。

最悪浦島太郎現象で元の世界が数百年経ってる可能性だって捨てきれない。

それが唯一の不安だった。


「ご心配無く、我々の住む世界と主の住む世界とは時間の流れが全く異なります、それほど時間は変わらないかと思います」


リトの話によるとこっちで1年過ごそうが10年過ごそうが元の世界では一時間経ってるか経ってないかくらい時間の速度が違うらしい。

それを聞いて不安が少し消え、ホッと胸を撫で下ろした。


「安心して下さい……主は必ず、元の世界へ送り届けます」

「……ありがとう……リト……」


リトの頼もしい言葉に私は安心しながら身を委ねた。




……あれからどれだけ経っただろう……。

時間の感覚が狂うくらい私達は異空間の海を渡り続けた。

ここには昼も夜も無い……。

一人だったら確実に不安に押し潰されていただろう……。


「主、見てください !」


リトは朦朧としていた私を呼び起こしながら指を差す。

うとうとしながら目を覚ますと、暗く歪んだ時空の狭間に小さく光る球体のような青い光が見えた。


「あの光の中を潜れば、主の元いた世界に帰れます」

「そう……ですか……」


ここを通ってしまえば、異世界での私の物語は本当に終わってしまう……。

覚悟は決めていたが、いざその時が来ると、どうしても緊張して震えてしまう……。

本当は喜ばしい事なのに……。


「主……貴女と出会えたことが……私にとって最高の幸せでした……ありがとうございます……」


リトはそう言いながらぎゅっと私を抱き締めた。


「貴女は私達と絆を育み、あの世界で戦い抜き、伝説の勇者として魔王を打ち倒しました……貴女の栄光は永遠に語り継がれます……絶対に忘れられはしません……」

「リト……」


私があの世界から去っても、私があの世界で生きたという証は消えない。

その言葉を聞いて、私は少し安心した。


「リト……今までありがとう……リトのお陰で……私……少しは強くなれたと思います……」


私はリトの顔を見上げ、照れながら言った。


「勿論! 貴女は最高に逞しくなられました ! 元の世界でどんな強敵が現れても絶対に負けません !」

「そんな敵は早々現れないと思います……」


目を輝かせながら熱く語るリトに対し、私は苦笑いを浮かべた。


「……それでは、いよいよお別れですね……」

「……はい……」


もう二度と会うことは無いだろう……

リトとの日々は、どれもかけがえのないものばかりだった……。

本音を言うと別れたくない……ずっと一緒にいたい……だけどリトは魔王となってあの世界を導く存在になる……私のワガママで引き留めるわけにはいかない……。


「!……」


気が付いたら私はリトに抱きつき、彼の唇にそっと口づけをしていた。

剥き出しになった果実のように、リトの唇は思ったより柔らかかった。

生まれて初めてのキス……。

不意を突かれたリトは驚きながらも瞼を閉じ、私の口づけを受け入れた。


「……主……主からの最後の贈り物……有り難く受け取りました……」


リトは少し頬を赤らめながらも嬉しそうに微笑みかけた。


「さようなら……リト……」


私は目に涙を溜めながら儚い笑顔でリトに笑いかけ、別れを告げた。

そっとリトの腕から離れ、吸い込まれるように青く発光する穴の中へと入った。

リトは私の後ろ姿をいつまでも見送っていた。




「はっ……ここは……」


目が覚めると私は見慣れた小さな公園の真ん中で倒れていた。

辺りを見回すと、少人数の子供達が無邪気に遊具で遊んでいた。

間違いない、私とリトが初めて出会った場所だ。

時間もそれほど経っているようには思えなかった。

一年以上の冒険が夢みたいに感じるくらいに……。

川のように澄んだ青空、忙しなく走る車の音……どれも皆懐かしい……。

本当に私は自分の世界に戻ってきたんだ……。

嬉しくも寂しい気持ちになりながら空を仰ぐ。


「そうだ……」


私は懐からランプを取り出した。

ランプは金色のメッキが剥がれかけ、すっかり泥に汚れ、錆びついてしまっていた。

この中にリト、フレア、コダイが入っていた……今はもう空っぽ……話しかけても当然返事は返ってこない。


「リト……私も……これから頑張るよ……」


燦々と照りつける太陽を全身に浴び、私は座り込みながらぎゅっとランプを抱き締めた。

このランプは、リトと大冒険した証……かけがえのない宝物だ……。

ずっと手放さないよう、忘れないように肌身離さず持っていようと心に誓った。


「そうだ……お祖母ちゃんの遺品の整理……まだ途中だった……」


私は立ち上がると、その足で家路へと向かった。

きっとお母さん、怒ってるだろうな……そんな事を考えながら、私はランプを片手に歩き続けた。


こうして、私の物語は終わった……。

世界を巻き込んだ壮大な物語は誰にも知られる事は無い。

だけどこれから、ありふれた日常、私の人生の物語はまだまだ続いていく。


To Be Continued

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