第三百八十八話・紡がれる無限の糸
私達に出来ること……それはほんの僅かでも良い……巨人同士の戦いに介入し、サタンの隙を突くこと。
両者の実力はほぼ互角……。
だが些細なきっかけによって均衡はあっさりと崩壊し、一瞬で勝負は決まる。
ヒュウに三銃士の皆、囚人達が懸命に攻撃を与えてくれたお陰で僅かだがサタンを消耗させることに成功した。
攻撃自体に殆ど意味は無かったが、無力と思われた彼等の奮闘ぶりに惑わされ、精神的に追い詰められていくのが伝わった。
今度は私達が身体を張る番だ。
「倒せなくてもいい、兎に角全力で行くぜぇぇぇぇ !!!」
マルクは巨大魚幻獣の鎧を身に纏い、勢い良くサタン目掛けて飛び出した。
「巨大魚幻獣三日月斬 !」
マルクは全速力で両腕のブレードを振るい、サタンの胸の砕かれて剥き出しになった部分を集中的に切り刻んだ。
「ぐおおおお !!!」
痛みに耐えかね、サタンは絶叫しながら巨体を仰け反らせる。
「俺達もやろうぜ !」
「うん !」
互いに頷き合うグレンとコロナは限界まで魔力をフルチャージさせ、サタンに標準を合わせた。
グレンは全身に黄金の稲妻が迸り、コロナの握る杖の先端に七色の光が集まり、宝石のように美しい輝きを放っていた。
「超鬼電磁砲 !!!」
「渦流最高光 !!!」
グレンは剣の切っ先から音速三倍の速さで
10億ボルトを超える雷撃を放った。
コロナは杖で巨大な円を描くように振り下ろし、尖端からフルパワーの七色の光線を
発射した。
二つの強大なエネルギーが交ざり合い、膨大な魔力が濁流のように押し寄せ、サタンを飲み込もうとした。
「こんなもの…… ! ぬう !」
サタンは両手を前に突き出し、押し寄せる巨大なエネルギーの波を必死に押さえつけようとする。
だが強靭なはずの腕が痺れ、逆に押し潰されそうになった。
「まずい……強欲の力よ……」
サタンはマモンの力を借り、身体能力の一部・攻撃力を限界まで強化させた。
膨大な魔力量を込めた拳による腕力で電撃を纏った七色の巨大な波を打ち砕く。
「はぁ……はぁ……」
グレンとコロナが全身全霊を込めて放った大技をごういんに打ち破ったサタン。
だが、マモンの能力で身体能力を一時的に限界まで強化した影響で身体に大きな負担がのし掛かった。
激しい息切れを起こし、両腕の感覚が無くなっていた。
「いつまで下を向いているつもりだ、上を見ろ !」
上空から聞こえる声に反応し、サタンはゆっくりと空を見上げた。
すると遥か上空にて、クロスとミライが翼を広げ、サタン目掛けて急降下していた。
二人の脚にはそれぞれエルサとルーシーが掴まっていた。
「行くよ~エルサ~」
「ルーシー、後は頼んだ !」
ミライとクロスは音速三倍で急降下しながらエルサとルーシーを放り投げた。
急降下のスピードを利用し、隕石が落ちるような凄まじい勢いと速度でエルサとルーシーは落下していく。
「「暴風の歯車 !!!」」
落下しながらエルサとルーシーは空中で高速回転し、黒と白の混ざった巨大な竜巻と一体化し、サタンに突撃していった。
「ぐおおおおおおおおおお !!!」
ギュイイイインとドリルで抉るような回転音が鳴り響き、サタンの腹部を貫通し、向こう側の景色が見える程の風穴を開けた。
瓦礫や石ころが暴風でぶっ飛び、サタンの巨体はフワッと空中に舞い上がり、大地を鳴動させながら地面に叩きつけられた。
「ごはっ !?」
口から大量の赤い血が泉のように湧き出る。
屈辱に震えながら立ち上がろうとするが、後頭部を強く打ち付けたせいで朦朧としていた。
満身創痍のサタンに対し、間髪入れずに更なる追撃が迫る。
「まさかお前と手を組むことになるとはな……傲慢の魔王ルシファー !」
「僕はもう魔王では無い、天使族でも無い……ただの戦士だ !」
ヴェルザードとルシファーは銅像のように動く気配を見せないサタンを目指し、呼吸を荒げながら全速力で並走した。
ルシファーはオーブを奪われ、魔王の力を失いはしたが、鍛え上げた剣術や格闘センスまでは消えてはいなかった。
「「はぁぁぁぁぁぁぁ !!!」」
ヴェルザードとルシファーは大地を蹴り、サタンの頭上まで高く飛び上がり、目掛けてそれぞれ剣を振り上げる。
「堕天雷撃十字架 !」
ヴェルザードとルシファーは剣を振るい、
線を描くように凄まじい魔力の込められた斬撃を放つ。
紅蓮のエネルギーと黄金の電撃……二つの強大な斬撃が合わさり、巨大な十字の形となってサタンに直撃した。
サタンの身体に巨大な十字の傷が刻み込まれ、爆発が起こり、巨体を飲み込んだ。
「ぐおおおおおおおお !!!」
爆炎に包まれ、絶叫を上げながら苦しみ悶えるサタン。
辛うじて嫉妬の水の力を行使し、自らを焼き尽くす炎をかき消した。
「はぁ……はぁ……」
全身焼け焦がれ、痛々しい姿で立ち尽くすサタン。
胸には十字の傷が深く刻み込まれ、傷口から大量の血が滝のように流れていた。
「このサタンが……ここまでこけにされるとはな……甘く見ていたぞ……」
私は剣を抜き、深呼吸をしながら静かに巨人へと近づいていく。
「貴方には絶対に負けない……私には、私達には……仲間がいるから……」
「くだらん……仲間だと……そんなものは全てゴミ……用済みになれば簡単に捨て去れるただの駒だ !」
有象無象の兵士達も、幹部も四天王も、死の瞬間まで忠誠を尽くしたミーデも、同じ魔王すらも利用し、自分以外の全てを道具として使い捨て、独りになったサタン……。
己の力しか信じない彼には理解できなかった。
仲間との絆……想いががどれ程の力を秘めているのかを。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
私は腹の底から叫び、豪快に剣を振り上げた。
剣の切っ先に膨大なエネルギーが集中し、七色に輝き始めていた。
「勇者ァァァァァァァ !!!」
激昂したサタンは拳に強大な闇のオーラを纏い、足元の私目掛けて巨大な腕を振り下ろした。
私は飛び上がり、迫り来る巨大な腕をすり抜けながら全身にありったけの力を込め、疾風の如く剣を振るった。
「螺旋断罪剣 !!!」
全身に巻き貝のように鋭い風が渦巻き、ドリルよりも速く回転し、サタンの巨体を一撃の下に切り裂いた。
サタンの巨体は吹っ飛び、地表を削り、土砂を巻き起こしながら後退していった。
「馬鹿な……この我が…… !」
渾身の一撃をモロに喰らい、全身血まみれになりながら仰け反るサタン。
だがこの場にいる全員分の攻撃を全て受けながらも一向に倒れる気配は無かった。
「「「はぁ……はぁ……」」」
私達は今度こそ力を使い果たし、これ以上動くことは出来ず、立ち尽くすのみだった。
サタンはよろめきながらも立ち上がり、ゆっくりと足を振り上げる。
「全員纏めて捕虜にし、枯れ果てるまで魔力を抽出し、異界の門を永遠に開かせてやる !」
凶悪な面構えで私達を見下すサタン。
その時、赤い炎を纏った閃光がサタンに衝突した。
「ぐわっ !」
地鳴りを鳴り響かせながら大地へと倒れ込むサタン。
顔を見上げると灼熱の炎に身を包む赤い巨人・バーニングリトが威風堂々と目の前に立っていた。
「皆さん、よく頑張ってくれました……後は私が決めます」
バーニングリトは仏のように穏やかな笑みを一瞬浮かべるとサタンに向かって鋭い顔つきへと変わり、戦闘の構えを取った。
「イフリートォ…… !」
サタンは歯を食い縛り、怒りに満ちた表情でバーニングリトを睨み付けながらゆっくりと立ち上がった。
私達が固唾を飲んで見守る中、今度こそ二体の巨人の戦いに決着がつこうとしていた。
To Be Continued




