第三十七話・狙われた若葉
「えっと~鳥人のミライで~す、宜しくお願いしま~す」
エルサの家でミライの歓迎会が行われた。
ミライはゆるい感じの挨拶をした。
「あなたが噂の歌姫さんですね! とても可愛いじゃないですか~ !」
リリィははしゃいだ様子でミライの手を取った。一目で彼女を気に入ったようだ。
「ワカバのやつ、いつの間に鳥人をスカウトしてやがったのか……」
「俺あの娘好みかも」
マルクはボソッと呟いた。
「いやいや、お前には幼馴染がいるだろ」
「えー、だってあいつ口うるさいし」
ヴェルザードとマルクはまさに悪友同士って感じの会話をしていた。
「ミライ、私達の主な仕事は依頼を受けて魔獣と戦ったり人々を助けることだ。最初のうちは苦労すると思うが私達も全力でサポートするぞ」
エルサはミライの肩をポンッと叩いた。
「うん! ワカバちゃんが一緒なら頑張れる気がする~! ねぇ~」
ミライは私に視線を送った。私は優しく微笑んだ。
彼女もすぐにここに馴染めそうだ。
「さぁ、今日は歓迎パーティーだ! 朝まで飲もう! 乾杯 !」
「「「「カンパーイ !!!」」」」
私達はコップを掲げた。
いつの間にか私達のパーティーも大所帯になった。
人間に魔人、吸血鬼に使い魔、エルフ、半魚人、鳥人……。
個性豊かなメンバーの集まりだ。最初は一人だったのに何だか感慨深いなぁ……。
次の日、町はある事件で賑わっていた。
最近、町の人々の失踪事件が増えていた。
どうやらただの誘拐犯による仕業ではないらしい。
「憎悪の角?」
「あぁ……最近勢力を拡大しつつある闇ギルドのことだ」
どこの世界にも犯罪組織は存在するようだ。
「やつらは人間を拐い、奴隷として死ぬまで酷使する非情で凶悪な連中だ。やつらの仕業に違いない」
エルサは険しい表情を浮かべた。
この前の盗賊達とは対称的だった。
「憎悪の角は高い魔力を持つ魔族達が牛耳っている。私でもまともに相手になるかどうか……」
「エルフの騎士にしては随分と弱気だな」
ヴェルザードはエルサを見つめながら立ち上がった。
「どんな奴が相手だろうと、この俺がひねり潰してやる」
「大した自信だな」
「俺は最上位魔族の吸血鬼だからな」
ヴェルザードは自信満々にドヤ顔を決めた。
確かにヴェルザードなら心配はいらないだろう。
問題は私だ。多少鍛えているとは言え、リトの力を借りなければ無力な一般人レベル……。
「心配要りません、主は選ばれし者ですから、小物集団ごとき怖れるに足りませんよ」
「リト……」
リトの言葉は安心感があって時々甘えそうになる。
だけどそれに甘んじては駄目だ、私自身ももっと鍛えて、警戒心を強めなくてはいけない。
「よし、じゃあワカバはもっと強くなる必要があるな! 訓練所に行くぞ !」
「え……今からですか…… ?」
私は思わずため息が出た。
「ワカバのセンスは悪くない。鍛えればもっと高みを目指せるぞ、さあ !」
エルサは問答無用と言わんばかりに私の腕を引っ張り、外へと連れ出した。
「リト~助けて下さい~」
「主、頑張って下さい !」
「ワカバちゃん、行ってらっしゃ~い」
「薄情者~ !」
リリィ達は泣き言を言いながら連れていかれる私を微笑ましく見守りながら笑顔で私を見送った。
その後、私はエルサによってみっちりしごかれた。
「はぁ……動けない……」
「お疲れ、この前と比べるとだいぶキレが良くなったな」
「ありがとう……ございます……」
「やはり森での魔物狩りが功をなしたようだ」
森では散々な目に遭ったなぁ……。
正直思い出したくもない……。
だけどあの日の出来事があったからこそ、ミライと絆を深められたんだ……。
「盗賊団と出くわしたりもしましたしね……」
「リトから聞いたぞ。盗賊の手下達からミライを助けたんだったな」
「あの後リーダーの男に捕まったんですけどね……爪が甘かったです……」
エルサは私の背中を強く叩いた。
「盗賊と渡り合えてる時点で大したものだ。君は自分で思ってる以上に強くなってる、それにこれからも伸びるさ。自分を信じろ」
「エルサさん……」
私は荷物を持って帰ろうとした。
「あれ、エルサさんは帰らないんですか ?」
「あぁ、私はもう少しここで稽古をしてる。先に帰ってていいぞ」
「まだ続けるんですか…相変わらず化け物じみた体力ですね……」
私はエルサの底知れなさに驚愕しながらも先に帰ることにした。
私は帰り道、とある光景を目にした。
複数のゴブリンやオークに襲われてる幼い少女の姿を。少女はフードを深く被っていた。
やがて体力の限界が来たのか、小石につまずき、転んでしまった。
震える少女相手にジリジリと追い詰める、邪悪な魔族達……。
「大変だ。助けないと !」
「主、加勢しますか ?」
「いや、あれくらいなら私でも !」
稽古の疲れもあったが、そんなことを言ってる場合じゃなかった。
それにこういう時こそ修行の成果を見せるチャンスなんだ。
私は急いで襲われてる少女の方へ走った。
「待ちなさい、こんな幼い子を襲うなんて、最低です !」
私は少女の前に立つと魔族達の前で啖呵を切った。
「何だてめえは!」
「俺達は人間なら老若男女問わず奴隷にするだけだ! 少女だろうが関係ないね !」
「何ならお前も奴隷にしてやろうかぁ !」
魔族達はドスの効いた声で威嚇し、私に詰め寄った。
この人達が、エルサの言ってた人間を拐う闇ギルド……?
「お姉ちゃん……助けて…… !」
少女は怯えた目をしながら私にしがみついた。
「大丈夫だよ、お姉ちゃんが守ってあげるからね」
私は少女の頭を優しく撫でた。
「へっへっへ、小娘が、俺達魔族に勝てると思うなぁ !」
魔族達は武器を構え、私に襲いかかった。
「エルサさんより動きが遅く見える…… !」
私は剣を構えると魔族達の攻撃をかわすと魔族達の腹部に次々ときつい一撃をお見舞いした。彼らを守っていた防具は氷のようにあっさりと砕かれた。
「ぐわっ !」「ごふっ !」
魔族達は顔を歪めながら吐血した。
この程度の相手なら私一人でも問題は無かった。
「はぁっ !!!」
私は一振りで空を切る程の風を起こし、魔族達をぶっ飛ばした。
「流石です主、また一段と腕を上げましたな !」
ランプの中でリトは興奮していた。
カタカタとランプが揺れてるのが分かる。
「はぁ……はぁ……でもっ……流石に疲れましたね……」
私は怯えて泣いてる少女の元に駆け寄り、優しく抱き締めた。
「お嬢ちゃん、もう大丈夫だからね……」
「お姉ちゃん……ありがとう……」
少女は掠れた声でお礼を言った。
だが次の瞬間、この時を待っていたかのようにニヤリと笑った。
「え…… ?」
突然私の足元から水の渦が湧き出た。
「主ィ!!!」
リトが叫ぶも既に遅く、渦は瞬く間に私を縛り上げた。
やられた……! 私は全身を拘束され、全く身動きが取れなくなった。
「うっ……! 何これっ…… !」
「ごめんね……でも…仕事なの……」
少女は小声で呟いた。
「やるなぁ、新人! 大した演技力だぜぇ !」
「おかげで楽に手に入りそうだ !」
「他愛……ない……もっと……遊びたかった……」
私が捕らえられるのを待ちわびていたかのように三人の魔族が現れた。
しかもさっきの魔族とは偉く雰囲気が違っていた。
私はゾクッと背筋を凍らせた。
「コロナちゃん、ご苦労様、後は俺達に任せな ♪」
魔族の男達は動けない私を舐め回すように見つめ、ニヤリと笑った。
To Be Continued




