第三百八十七話・総力戦
炎の魔人イフリート、不死鳥、古代の魔獣……。
種族の異なる三体の召喚獣は召喚士である私の祈りと共鳴して一つに融合し、全く新しい生命体としてこの地に君臨した。
太陽のように眩しく、マグマよりも熱い肉体を誇る究極の炎の巨人・バーニングリト……。
「貴方の闇を照らして見せますよ」
バーニングリトはサタンに向かって指を差し、宣戦布告をした。
「ほざけ……たかが雑魚共が合体した所で、我に敵うはずが無い !」
激昂したサタンは地響きを鳴らしながらバーニングリトに襲いかかった。
バーニングリトは迎え撃ち、両者は激しくぶつかり、二体の巨人は渾身の力での取っ組み合いになった。
魔界の広大な大地は二体の巨人同士が激突する為の土俵となった。
「壮観だな……」
私達は呆然としながら、大地を揺るがし巨体同士がぶつかり合う光景を眺めていた。
虫けらのように小さい私達の付け入る隙など何処にも無いと思えた。
「はぁぁぁぁぁぁ !!!」
チュドオオオオオ
赤と蒼と黒が混ざり合い、色鮮やかに輝く炎を纏った巨大な拳がサタンの顔面を何度も殴打する。
重々しい爆発音が響き、衝撃でサタンの顔面が歪み、よろめいた。
「くう……舐めるなぁ! 傲慢の力ァ !」
サタンは拳に黄金に輝く電撃を纏わせ、バーニングリトに反撃を仕掛ける。
巨体から繰り出される重く速いパンチを何発か貰い、バーニングリトは怯み、後退りした。
一進一退の攻防戦が繰り広げられ、互いに一歩も譲らなかった。
「嫉妬の力ァ !」
サタンは巨大な手のひらから濁流のように凄まじい水流を浴びせた。
バーニングリトは炎属性……水属性の技に弱く、かなりのダメージを受け、呻きながら膝をついた。
ここに来て両者の均衡が崩れ、サタンが優勢になろうとしていた。
「今だ! リトを援護するぞ !」
「「「「おおおおおおお !!!」」」」
今まで傍観せざるを得なかったがエルサの一声で全員は臨戦体勢に入り、サタンに突撃していった。
「九つの属性光線 !」
先陣を切ったのは竜族のヒュウだ。
ヒュウは九つの首を持つ大蛇に変身し、炎、水、風、雷、毒、氷、光、闇、草といったフルパワーで九つの光線を一斉に発射し、サタンの巨体に浴びせた。
「ぐう……」
九つの属性攻撃がシャワーのように降り注ぐ。
サタンは怯み、ダメージを喰らいながら後退りをした。
「毒弾丸ですわ !」
「包帯鞭撃 !」
「単眼槌 !」
悪魔三銃士の三人は遠距離からサタンに精一杯の攻撃を浴びせた。
レヴィは強い毒性を持つ弾丸を乱れ撃ちにし、ライナーは伸縮自在の包帯でサタンの胴を叩きつけ、サイゴは巨大なハンマーを力強く振り下ろし、波打つような衝撃波を放った。
三人の力を合わせても威力は微々たるものだったが彼等は懸命に絶え間無く攻撃を繰り出し続けた。
その結果、サタンに明確なダメージこそ入らないものの、反撃の隙を与えずに怯ませ続けるには充分だった。
「ぬう……くだらん、裏切り者共め !」
止むことのない怒濤の攻撃をその身に受け続け、苛立ちが募るばかりのサタン。
だが更なる追撃がサタンを襲う。
「私達 憤怒の災厄の全力を全てぶつけますよ」
サタンの足元目掛けて四人の囚人が加速しながら向かって来るのが見えた。
サタンは片腕で全ての攻撃を振り払い、接近しつつある囚人達を見下ろし、狙いを定めた。
「我が可愛い部下達よ……人間共に捕らえられ、そんな小汚ない囚人服を着させられるとは哀れだな……我がその苦しみから解放させてやろう」
サタンは邪悪な笑みを浮かべ、背中を丸めながら囚人達に向かって巨大な手を伸ばし、彼等を纏めて握り潰そうとした。
「お断りします、白銀の永劫 !」
アイリは青白いオーラを纏うと迫り来る巨大な手に向かって全身から吹雪のような氷結光線を解き放った。
サタンの巨大な手が瞬く間に凍り付く。
「ぐおっ…… !」
想像を絶する冷たさと激痛に襲われ、サタンは反射的に手を離し、慌てて凍りついた片手に息を吹き掛けた。
「幻想の怪物 !」
アイリに続き、サーシャは得意の幻術を発動した。
サタンをも超える巨大な魔物が突如として襲来し、サタンの頭を押さえつけ、大地へと叩きつけた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
この世界の支配者と豪語するサタンは得体の知れない巨大な怪物に圧倒的な力に押さえつけられ、この上ない屈辱を味合わされた。
「怠惰の力……」
精神的にかなりのダメージを受けたサタンだったが、彼の中には精神系の能力の使い手・ベルフェゴールの力が宿っており、この自分を押さえつける巨大な怪物が虚無だと言うことを見抜いた。
「紛い物で我を止められぬぞ !」
サタンは全身から迸る強大な闇のオーラを燃え上がらせ、怪物の幻想を消し去った。
だがその代償にサタンはかなり精神を消耗させた。
「よくやったなアイリ、サーシャ、後は任せろ」
ヴェロスは獣の力を解放させ、フライは巨大なハンマーを振り上げながら一斉にサタンに向かって走り出した。
「くたばれぇぇぇぇぇ !!!」
サタンは何とか起き上がるとフライとヴェロスに標準を定め、電撃と猛毒、炎を帯びた強力な光線を浴びせた。
フライとヴェロスは広範囲に放たれる光線の中を掻い潜り、巨人の胴体目掛けて飛び込んだ。
「三日月の狼爪 !」
「大地の変動 !」
ズバァァァッ チュドオオオオオ
ヴェロスの岩石すら切り裂く強靭な爪と大地を砕くフライのハンマーの一撃が同時にサタンに炸裂した。
鎧のように硬い外皮は砕け、全身を激痛が駆け巡り、サタンの巨体は大きくよろめいた。
「馬鹿な……貴様らに……何処にそんな力が…… !」
サタンは虫けらと侮っていた彼等の意外な奮闘ぶりに驚きを隠せなかった。
ここにいる皆は長期戦で消耗し、魔力も底が尽きかけていた。
本来ならサタンにダメージを与える所か触れることすら不可能に近かった。
それでも彼等は限界を越え、希望を繋ぐ為に最後まで抗い続けた。
「くだらん……雑魚共めがぁぁぁぁ !!!」
血管が切れる程に怒り狂ったサタンは拳を
硬く握り、漆黒の闇のオーラを纏い、満身創痍のヴェロスとフライを殴り飛ばした。
空中に赤い液体が飛沫のように舞い上がる。
「後は頼んだぞ……無限の結束……」
「俺達の希望を……繋げ…… !」
ヴェロスとフライは力尽き、大地に叩き落とされた。
彼等のバトンを受け取り、無限の結束は走り出す。
私、エルサ、ヴェルザード、マルク、ミライ、コロナ、クロス、グレン、ルーシー……。
皆の体力は既に限界を越えていた。
だが体が悲鳴を上げようとも、決して歩みを止めようとはしなかった。
魔力が枯れ果て、持てる力を全て出しきるまで、皆は全速前進でサタンに突撃した。
「行くぞ皆!」
「「「はい !」」」
To BeContinued




