第三百八十五話・立ち上がる召喚獣達
「まずいよ~……こっちに近づいて来てるよ~」
七つのオーブを吸収して凄まじいパワーアップを遂げ、塔よりも巨大な闇の巨人と化したサタンは城に向かってゆっくりと接近していた。
巨体が大地を踏み締める度に地面は揺れ、雷鳴が轟いた。
迎撃しようにも、全員長期に渡る戦いによって消耗しており、戦うだけの力は殆ど残されていなかった。
エルサ達も魔力を吸収されており、これ以上戦えば命の危険さえあった。
「く……我々は何も出来ないのか…… !」
悔しそうに拳を震わせるエルサ達。
そうこうしているうちにも巨人は城へ一歩ずつ迫っていた。
「そう言えば貴方達、まだ戦う余裕あるんじゃないですか ?」
アイリが冷ややかな視線を送りながら悪魔三銃士に声をかけた。
「いやいやいや 冗談じゃありませんわ !?」
「僕らなんかが勝てるわけないじゃないですか !」
「即死するゾ !」
三人は大慌てで激しく首を横に振った。
確かに彼らは他と比べてもダメージも少なく魔力も充分過ぎるほど残っていたがあの巨人を相手にするのは実力差がありすぎた。
「そうだ……良い方法があります !」
私は突如閃き、懐からランプを取り出した。
「フレアとコダイの力を借ります……! あの巨人に対抗するには、それしかありません !」
「そうか……それだ !」
古代の魔獣コダイと不死鳥のフレア……。
共に戦ってきた二体の召喚獣が最後の希望だった。
今の私なら、二体同時召喚も不可能では無いはず…… !
「フレア、お願いできますか ?」
「フッ……いつ頼んでくるか待ちわびていた所だ……あのサタンとか言う男にお返しをしてやりたしな……」
フレアは竜の里近隣の森でサタンに脳天を撃ち抜かれ、一撃で倒されたことを根に持っていた。
「コダイの奴もやる気十分のようだぞ、鼻息を荒くしている」
「ありがとうございます !」
私は頭を下げるとランプを手前に突き出した。
「召喚・フレア、コダイ! 」
私は腹の底から叫ぶと、ランプの注ぎ口から巨大な光が二つ、勢い良く飛び出し、大地を揺るがしながら着地した。
着地した衝撃で砂煙が巻き起こる。
二足歩行の恐竜型で鱗に覆われた怪獣と全身を灼熱の炎で包んだ火の鳥が姿を現した。
古代の魔獣コダイ、不死鳥のフレアだ。
フレアは勇者となったことで私の魔力が上昇した為、本来の姿で実体化出来るようになっていた。
ギャオオオオオオオオオ
コダイは宣戦布告をするかのように天を仰ぎながら雷鳴のように雄叫びを上げた。
フレアも天空に舞い上がり、遠くからサタンを睨み付け、闘争心を露にしていた。
「さあ、リベンジといこうか……」
フレアは衝撃波を巻き起こしながら燃える翼を羽ばたかせ、コダイは大地を踏み鳴らしながらその巨体で走り、サタンへと向かっていった。
「ん……あれは古代の魔獣と不死鳥では無いか……まだ切り札を隠し持っていたとはな……面白い」
サタンはニヤリと笑みを浮かべると握りしめていたリトを手放し、地面へと放り投げた。
「うわぁぁぁぁぁぁ !」
リトは絶叫を上げながら落下しようとしていたが、地面に落ちるスレスレの所で浮遊
し、バランスを取った。
「いてて……死ぬかと思いましたよ……なんて馬鹿力なんですか……」
リトは身体中の筋肉を解しながら愚痴を溢した。
常人なら全身の骨が粉々に砕かれてもおかしくない程握りしめられていたが屈強な今のリトにとっては筋肉痛程度のダメージでしかなかった。
グギャオオオオオオオオ
そうこうしているうちにサタンとコダイ、フレアは対峙し、激闘が始まった。
大地を鳴動させながら巨体がぶつかり合う。
サタンの腕にコダイは巨大な顎で噛み付いた。
剣山の如く鋭く生え並んだ牙が頑丈な皮膚を貫き、血を流させた。
フレアは空から高威力の炎を吐き、援護射撃を繰り広げる。
「獣風情が…… !」
サタンはもう片方の腕でコダイの首根っこを掴み、引き離そうと力を込めた。
妨害しようとフレアが上空から急降下して飛び掛かり、剣よりも鋭い鈎爪でサタンを切り裂く。
「鬱陶しいわ !」
サタンは鍛え上げられた強靭な腕を振り上げ、凄まじいパワーでフレアの巨体を殴り飛ばす。
「ぐわっ !?」
サタンはコダイの首を捉え、その巨体を驚異的な力で持ち上げ、大剣を振り下ろすように背負い投げをし、大地へと叩き落とした。
ズシィィィン
巨体が叩きつけられた衝撃で地面は波打ちながら揺れ、砕けた大地が土砂となって雪のように辺り一面に降り注いだ。
「そんな……あの二体でもダメなんて……」
「それだけ七人分の魔王の力を凝縮させたサタンが規格外ってことだ……」
コダイとフレアの猛攻を物ともしないサタンの強さに一同は心が折れかかっていた。
「ぐう……」
「全く情けないですねえ、それでも不死鳥なのですか ?」
地面に横たわるフレアを上空で見下ろしながらリトは煽った。
「黙れリト! 貴様もやられていたでは無いか !」
「ちょっと油断していただけですよ、まだまだ私は戦えます」
余裕の態度を見せ、胸を叩くリト。
しかし疲労と魔力の消耗により、蒼いオーラは消え、髪の色も元に戻ってしまっていた。
「ふん、やせ我慢だな……ランプに引きこもって大人しく見物していろ」
「何ですって ?」
フレアとリトは睨み合いながら互いを挑発し、火花を散らす。
一方コダイは痛みを堪えながら立ち上がり、再びサタンにその巨体で突進した。
だがサタンはまるでコダイを子供のように扱い、翻弄していた。
「こんな時に何やってるんだ……」
「全くだ……」
険悪なムードを醸し出しているリトとフレアを見てエルサ達は呆れていた。
「絶対に負けませんからね !」
「私もだ! 不死鳥の意地を見せてやる !」
リトとフレアはコダイと交戦しているサタンの背中を見据え、一斉に飛び上がった。
「はぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
リトは残された魔力を振り絞り、全身に力を込めながら巨大なサタンの胴に強烈な蹴りをかました。
フレアは空から奇襲し、ドリルのように鋭い嘴でサタンの顔面を何度もつついた。
「ぐおっ……小賢しい鳥めが !」
どれ程恐ろしい強者であろうと、無防備な目の玉を攻撃されては堪ったものではない。
サタンはフレアの嘴攻撃に怯み、必死に抵抗した。
その隙を突き、コダイは長い尻尾をサタンの腰に巻き付かせた。
「ぬううううう !」
コダイは強靭な尻尾に力を入れ、サタンを搾り取るように強く締め付けた。
ちぎれそうな痛みに呻くサタン。
コダイはそのままありったけのパワーでサタンを持ち上げ、お返しと言わんばかりに地面に叩きつけた。
チュドオオオオオ
爆発音に似た重々しい打撃音が鳴り響き、土砂が四方八方に飛び散る。
地面に叩き落とされたサタンはよろめきながら立ち上がった。
「今の我は最強……誰にも超えることの出来ぬ究極の闇の支配者なのだ……貴様らごとき下等生物どもに負けるものくわぁぁぁあ !!!」
鬼のような凄まじい形相を浮かべ、サタンは禍々しいオーラを解放し、四方八方に複数のエネルギー波を放った。
ルシファーの電撃、レヴィアタンの水流、アスモデウスの猛毒、ベルフェゴールの催涙ガス等がリト達に襲いかかる。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」」
広範囲に渡って絶え間無く繰り出される強烈な攻撃の嵐に耐え切れず、リト、フレア、コダイは絶叫しながら瓦礫と共に吹っ飛ばされた。
リト達が束になってもサタンを止めることは叶わなかった。
「フハハハハ、ガッハハハハ !!!」
瞬く間に周囲が火の海に包まれて地獄絵図と化す中、サタンの高笑いだけが響き渡った。
私を含む、この場にいる全員は絶望し、呆然と見てることしか出来ず、ただ目の前の巨悪によって蹂躙されるのを待っているだけだった。
To Be Continued




