第三百八十四話・漆黒の巨人
サタンとリトが城の外で戦っているうちに私達は城に残された人達を全員連れて魔王城から脱出し、外に避難した。
私を含めた無限の結束のメンバー、負傷した数十人の兵士達、悪魔三銃士の三人、吸血鬼の科学者、そしてヴェロス、フライらの無事が確認された。
更に元々外で待機していたアイリとサシャも合流し、ヴェルザード、リリィを除くほぼ全員が集まった。
ついでに玉座の間にて壁際で気絶していたペルシアも放っておくことが出来ず、一緒に連れ出した。
敵とは言え、一度は友情を育んだ仲、見捨てることは出来なかった。
「こ……これは……」
城の外へ出た私が最初に目にしたのは、遥か上空を覆い尽くす巨大な時空の裂け目だった。
エルサ達とのリンクが切れ、魔力の吸収が途絶えた為、裂け目は僅かだがゆっくりと縮小し、閉じようとしているように見えた。
暫く経てば異界の門は完全に閉じて消えるだろう……。
「異界の門が不完全だったのが幸いだったな……もしお前らの魔力を限界まで吸い上げてしまっていたら、あの穴は永遠に閉じなくなっていたぞ」
ヴェロスは眉間に皺を寄せ、空を見上げながら呟いた。
彼の言う通り、もし皆の救助が間に合わなかったら、異界の門は完全となり、サタンは永遠に閉じることの無い門を自由に行き来出来るようになってこの世界に留まらず、複数の平行世界も支配されていたかもしれない。
そう考えると私はゾッとした。
「あれを見て~ !」
突然ミライは遠くを指差した。
霧の向こうで漆黒の黒い巨人が地響きを鳴らしながら城の方へと近づいているのが見えた。
巨人の周辺を小さな青い球体が蠅のように飛び回って攻撃しているのが見えた。
「な、何ですのあの巨人は !?」
「まさかとは思いますけど、魔王サタン様なんじゃ……」
レヴィ、ライナー、サイゴは恐るべき凶悪な巨人の姿を目の当たりにし、腰を抜かした。
彼らの言う通り、あの巨人は恐らくサタンが変身した姿に違いない……。
傲慢の魔王ルシファーからのオーブを奪い、力を解放したのだろう。
「リトが戦っている…… 」
私は遠目からあの火の玉のような青い球体がリトだと分かった。
虫と象程はある体格差……健気にリトはたった一人でサタンの侵攻を食い止めようとしていた
私達はサタンが城へ接近して来るのを黙って見てることしか出来なかった。
七つのオーブを取り込み、巨大化し異形の化け物と化したサタンは自らの城を目指してゆっくりと前進していた。
それを阻止すべく、リトはサタンの周囲を飛び回りながら攻撃を続けていた。
「指撃熱線 !」
チュドォンッ
リトは人差し指を突き出し、指先から強力な高圧力の熱線を放った。
熱線はサタンの肩に命中し、小規模の爆発を起こした。
だが鎧のように硬い巨人の皮膚は熱線をいとも簡単に弾き返した。
「何という防御力なんでしょう……私の熱線が全く通用しません……」
リトの中に余裕が消え、焦りが見え始めた。
サタンは虫を振り払うように手で仰ぎ、周辺を飛び回るリトに巨大な風を浴びせた。
「うわぁぁぁぁぁぁ !」
巨大な風圧に巻き込まれ、リトはあっけなく飛ばされながら地面へと叩き落とされた。
「今何かしたか ?」
サタンは気にも留めず、進行を続けた。
最早リトの攻撃では痛覚すら感じなくなっていた。
巨人が歩く度に落雷のような足音が鳴り響き、激しく波打つように大地は震動した。
「あの人は何処へ向かってるのでしょう……」
リリィ、ヴェルザード、ルシファーの三人は互いに支え合いながらサタンの後を追っていた。
城に向かっているのは分かっている、だが今更何故城を目指すのかまでは分からなかった。
「恐らくサタンは城の真上に出来た異次元の穴を二度と閉じないようにするつもりだ……」
ルシファーが闇に覆われた空を見上げながら呟く。
城にはまだ大勢の人達が残っている。
サタンは彼等の魔力を使って異次元の穴にエネルギーを送り、永遠に閉じない巨大なゲートを創り出そうとしていた。
「そんなことさせるかよ…… !」
ヴェルザードは歯を食い縛り、サタンの巨大な後ろ姿を睨み付けるように見上げていた。
「くっ……調子に乗らないで下さいよ !」
地面に叩きつけられていたリトは何とか起き上がると再び地を蹴り上げ、サタンに向かって飛びかかった。
「蒼炎拳 !」
ドガッ
透き通るように青い炎を纏い、勢い良く加速しながらリトは渾身のパンチをサタンの後頭部に叩き込んだ。
ズシンと殴打する鈍い音が響く。
だがパンチを繰り出したはずのリトの方がダメージを喰らい、骨が砕けるような激痛に襲われ、拳を押さえた。
サタンの鎧のような皮膚は想像以上に頑丈でどんな物理的攻撃も寄せ付けなかった。
「いい加減止まりなさい! 蒼燃焼熱線 !」
リトは人差し指を突き出してサタンへと標準を合わせ、指先から極太の強力な熱線を発射した。
一直線に放たれた熱線は風を突き破りながらサタンの背中を直撃した。
大爆発を起こし、辺りは熱気に包まれた。
だが全身が燃え上がりながらもサタンはまるで意に介さず、悠々と歩き続けた。
「はぁ……はぁ……私の攻撃が悉く通じないとは……」
七つのオーブを取り込んだ魔王サタンの力は凄まじく、リトですら歯が立たなかった。
それでもリトは諦めず、少しでもサタンの進行を止めようと必死に食らい付く。
だがサタンの巨大な手がリトの全身を鷲掴みにした。
「うわぁぁぁぁぁぁ !!!」
サタンは握った手に力を込める。
全身を圧迫され、絶叫するリト。
「ククク、鬱陶しい奴だ、このまま握り潰してやろうか」
サタンは邪悪な笑みを浮かべ、リトを握り締めたまま、移動を再開した。
遠目から巨大な城の姿がうっすらと見えてきた。
闇の巨人の魔の手はワカバ達の方へ迫りつつあった。
To Be Continued




