第三十六話・闇ギルドと交渉
皆さん、お久しぶりです。私のことを覚えていますか?
私はかつて安住若葉という小娘を異世界に連れてきた男……。上位種魔族の悪魔・ミーデです!
魔人に破れた後、私はあるお方に報告しました。
するとあるお方は圧倒的な力を持つ魔人に興味を持ち、何としてでも小娘の持つランプを奪えと私に命令を下しました。
それからは各地で魔獣を復活させ、密かに暗躍をしていました。魔獣が現れればあの小娘と魔人もやって来る。まずは彼らの能力を分析するのが最優先です。
彼等は強さだけではない、カリスマ性も備わっていました。いつの間にかどんどん仲間を増やしているのです。気に入りませんねぇ……。
そういえば、先日の森の一件ですが危なかったですよ。何処の馬の骨かも分からない盗賊団にランプと小娘を奪われそうになりましたからねぇ、私が魔獣をけしかけ、助け船を出して差し上げたのです。
人間などという下等種族ごときが魔人の力を手に入れようなど、おこがましいですからねぇ。
しかし目覚めさせた魔獣が温厚で女好きだったとは想定外でしたがねぇ…。
盗賊達はゴブリン達に捕らえさせました。彼等は奴隷として今後の人生を生きていくことになるでしょう…。哀れですねぇ。
因みに彼等はただのゴブリンの集団ではありません。ゴブリン達のリーダー・ホブゴブリンのゴードさんは、かの闇ギルドの幹部の一人なのです。
「ミーデさん、アンタのおかげで大量の奴隷が手に入ったぜ。ありがとよ」
「いえいえ、私達は協定関係にありますからねぇ、ギブアンドテイクです」
私はゴードさんに犯罪組織「憎悪の角」のアジトの案内をしてもらっていました。
「憎悪の角」とは、数多くの魔族達によって組織された闇ギルドです。その勢力は日に日に拡大をしており、人間共にとって脅威となっています。
私は彼らと手を組むことにしたのです。
「着いたぜ」
ゴードさんは幹部達の集まる大部屋まで案内してくれました。
中に入ると錚々たる面子が待ち構えていました。
猪の頭を持つ獣人・ハイオーク。巨大な体躯に二本の角が特徴的な鬼族のオーガ。
そして気弱で愛らしい幼い少女と彼女のそばに控えているカラス。杖を持っているので彼女は魔女のようですね。
「ほう、お前がかの国から派遣された使いの者か」
ハイオークの男が私に近づいてきました。
「はい、私はとあるお方の使いでこのギルドと協定を結ぶためやってきました、悪魔のミーデと申します」
私は深々と頭を下げました。
「こいつ……強い……のか……?」
オーガの男が静かに質問しました。
「ハッハッハ、この男は魔族の中でも上位にあたる悪魔だぞ?高い実力を持っているに決まっておろう !」
ハイオークの男は陽気に笑いました。
「はい、私は魔獣を目覚めさせる力も持っていますし、あなた方とも上手くやっていけると思いますよ」
「そうか! 気に入った! これからも宜しく頼むぞ !」
ハイオークは握手を求めました。私も快くそれに答えました。
「ワシは幹部の一人、ハイオークのオーバだ !」
オーバさんは兎に角元気でやかましいお方です。一緒に居ると疲れますねぇ。
「俺……オーガ……名前……ガギ……」
お喋りなオーバさんとは対照的にガギさんは無口で必要最低限のことしか話さないタイプのようです。こういう輩は戦闘になると豹変して戦闘狂と化すんですよきっと。
「あ、あの……コロナって……言います……宜しくお願いします……」
コロナさんとかいう少女は私の存在に怯えながらも挨拶をしてくれました。
場違いと言いますかなんと言いますか…何故強面な連中の中に幼女が混じっているのか不思議で仕方ありませんでした。
「このガキはな、新入りなんだぜ。何でも魔女狩り(ウィッチハンター)にあって母親を殺され、路頭に迷っていた所をリーダーに拾われ、うちに入ったんだ」
ゴードさんがコロナさんの経緯を語ってくれました。
そういう事情があったんですね。そして彼女を拾ったというリーダーというのは……。
「あっ……ロウさん !」
扉が開き、男が静かに入ってきました。
背が高く、筋骨隆々で男前な顔つき……。
そして牛のように巨大な二本の角を生やしていました。彼からは圧倒的な高い魔力を感じます。
コロナさんだけは男の姿を見て安堵の表情を浮かべていました。これは怪しいですねぇ……。
男の名はロウ、彼こそが闇ギルド「憎悪の角」のリーダーのようです。
「使いの者、俺達のギルドへようこそ」
「此方こそ宜しくお願いしますよ」
ロウさんはクールでカリスマに溢れた大物のようでした。
私は物怖じせずにロウさんに挨拶をしました。
「お前達と組むということは、こちらにもメリットがあるのだろうな」
ロウさんは威圧しながら私にたずねてきました。
いよいよ本題に入りますよ。
「単刀直入に言いますが、皆さんは炎の魔人をご存じですか?」
「魔人 ?」
ゴードさんはキョトンとしていました。
「あぁ、最近片っ端から魔獣を倒し続けている謎の魔族か。」
「魔人……聞いたこと……ある……とても……強い……」
「ああ、底知れない力を秘めているらしい。そして滅多に人前には姿を現さない、謎の存在だ」
「そんだけ強いとなると、ギルド総出でも勝てるかどうか……」
魔人の噂は闇ギルドでも広まっているようでした。
あれだけ暴れれば当然です。
「私は魔人と一戦交えたことがあります。」
「マジかよ !」
「よく無事だったなぁ !」
彼等も流石に驚いているようでした。
「ええ、圧倒的な力を前になす術はありませんでしたが、それでも弱点を見つけることが出来ました。彼はまだ肉体的に不安定な状態です。よって活動時間には限りがあります。時間稼ぎさえすればやつは消えてくれます」
「成る程……」
彼等は関心を示していました。
「魔人さえ封じてしまえばこちらのものです。後は召喚士の小娘を捕らえるだけ。彼女自身は無力ですから捕らえるのは簡単です」
「その女ってのは殺しちゃだめなのか ?」
ゴードさんが質問をしてきました。野蛮な考えですねぇ。
「いえいえ、魔人を解放できるのは彼女しか居ません。殺すより利用する方が得策ですよ」
「成る程……そうか……」
私は話を進めました。
「召喚士の小娘を捕らえ、洗脳し闇に引きずり込めば、これ以上ない最強最悪の戦力が手に入ります! いかがですか? 私と組んで見ませんか?私の知恵と経験とあなた方の力が合わされば不可能などありません!」
私の提案を聞き、ロウさんは口を開きました。
「面白い、魔人の力を我が物に出来れば、我等「憎悪の角」は更に勢力を拡大し、人間共の完全支配を可能に出来るぞ」
他のメンバーも同意見でした。まさに鶴の一声です。
「では、お互い頑張りましょうね」
「そうだな」
交渉成立です。
私とロウさんは改めて握手を交わしました。
私の交渉術は見事なものでしょう?
さあ、今に見ていなさい、魔人に安住若葉! あなた方から味わった屈辱を100万倍にして返して差し上げますよ !
身も心も私のものになるのです !
ハッハッハハッハッハ !!!
To Be Continued




