第三百七十五話・四天王全滅
「はぁ……はぁ……」
魔王部屋でエルサ達がサタンと戦っている間、第四層ではヴェロス、フライと四天王・デビッド、ヒルデビルドゥとの戦いが続いていた。
元々連戦に次ぐ連戦で体力を消耗していたのに加え、魔王によって強化されたデビッド、ヒルデビルドゥの実力は想像以上で二人は苦戦を強いられていた。
「ファッファッファ、どうしたのじゃ、もう体力の限界か」
デビッドは高笑いをしながらヴェロスとフライを見下していた。
ヒルデビルドゥもニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている。
「くそ……やはり俺達の師匠だけあって手強いな……」
「全くだ……それにもう魔力が……」
息を切らしながら膝をつくヴェロスとフライ。
既に肉体に限界が近付いていた。
「今頃上に行った連中も魔王様になぶり殺しにされておるだろ、我らに逆らう者共は皆消えてなくなるが良い」
「そう簡単にくたばるはずがない……あいつらの力を見くびるなよ」
ヴェロスはデビッドの煽りに反論し、口についた血を拭いながらゆっくりと立ち上がった。
フライもまたハンマーを支えにし、よろめきながら立ち上がる。
「デビッドさん……さっさととどめを刺しましょう」
「そのようだな……魔王様お一人でも片付くとは思うが……念には念を入れんとな」
デビッドとヒルデビルドゥは邪悪な紫のオーラを周囲に解き放ち、最大限まで魔力を高めた。
凍り付くような重苦しい空気に支配されながら、唾をゴクンと飲み込みながら身構えるヴェロスとフライ。
睨み合う両陣営……。
緊張感が最高峰まで高まった瞬間……。
「はぁ……はぁ……ここが第四層ですか……」
「そのようね」
タイミング悪く私とホムラは階段を登って第四層に足を踏み入れた。
この場にいる全員は突然の乱入者達に気を取られ、一端戦闘体勢を解いた。
「貴様は……イフリート使いの小娘…… !」
「それにあの和服の獣耳の娘……何処かで見覚えが……」
デビッドとヒルデビルドゥの疑心に満ちた視線が向けられる。
私は気にせずヴェロス達の元へ駆け寄った。
ヴェロスは勇者の鎧を着た私をマジマジと見つめていた。
「その鎧……ルーシーから聞いている、修行とやらを終えたのだな」
「は……はい……」
私は恐る恐る答えた。
ヴェロスは私が勇者になったことを理解していた。
「この前戦った時とは比べ物にならないくらないに見違えたな……」
「あ……ありがとうございます……」
ヴェロスは素っ気ない態度ながらも私を褒めてくれた。
私は照れ臭そうに顔を赤らめ、目線を反らした。
「所で貴方達、苦戦してるようね……あの老人と若造は私達に譲ってくれないかしら、一刻も早く魔王の所に行きたいの」
「べ、別に構わんが……お前は誰だ ?」
フライは突然現れた謎の少女に困惑していた。
ホムラは気にも留めずに裾を捲り、懐に携えていた鞘から銀色に輝く刀を抜いた。
「私はホムラ……ちょっと人より長生きしただけの妖狐よ……」
腰を低く落とし、武士のように刀を構え、凛々しい表情でデビッド、ヒルデビルドゥを睨み付ける。
「ワカバ、貴女もボーッとしてないで剣を抜いて頂戴」
「わ、分かりました」
私は彼女に指示され、慌てて鞘から剣を抜くと両手で握りながら構えをとった。
ヴェロス、フライは後退し、二人の戦いを見守ることにした。
「選手交替か……では見せてもらおう、小娘共の力を……」
デビッドとヒルデビルドゥは全身に魔力を込め、紫色の禍々しいオーラを身に纏った。
「二人共気を付けろ……奴等は魔界四天王、しかも地獄から蘇り、魔王の力で更にパワーアップしているぞ……」
フライは心配そうに私達に忠告をした。
「心配は無用よ、だって彼女、四天王を一人倒しているから……」
「何だと !?」
ホムラの言葉にフライは耳を疑った。
フライだけでなく、デビッドやヒルデビルドゥも驚きを隠せなかった。
「そういえばガイと連絡がつかなくなったが……まさかお前が殺したのか……」
「は……はい……」
デビッドの問いかけに私は答えた。
デビッドは先程までの余裕の態度が一変、突然警戒心を強め始めた。
「イフリートの小娘め……まさかガイを倒す程に成長していたとは……これは遊んでいる場合ではないぞ…… !」
「ええ、その通りですね !」
デビッドとヒルデビルドゥの表情が変わる。
恐怖心を押し殺すように真剣な表情で私達を睨み付ける。
「「うおおおおおおおおお !!!」」
雄叫びを上げ、地を蹴ってデビッドとヒルデビルドゥは猛然と飛び掛かった。
「来るわよ、ワカバ」
「はい !」
私とホムラは武器を構え、呼吸をするよりも早く加速し、風を切り裂きながらデビッドとヒルデビルドゥに急接近した。
「「何 !?」」
自分達を遥かに上回るスピードで間合いを詰められ、驚いてバランスを崩し、転倒しそうになった二人の四天王。
「神月熱風 !」
岩をも溶かす熱を帯びた竜巻を全身に纏いながら私は剣を一振りし、デビッドを一撃の元に斬り伏せた。
「朧火斬 !」
ホムラは灼熱の炎を刀を包み込み、ヒルデビルドゥの急所を的確に見抜き、神速の突きで貫いた。
「「そんな……馬鹿なぁぁぁぁ !!!」」
デビッドとヒルデビルドゥは恨み言を吐きながら全身が泥々に溶け、断末魔を残して消えていった。
たった一撃で二人の四天王はあっさりと消滅した。
ヴェロスとフライはその信じられない光景を目の当たりにし、開いた口が塞がらなかった。
「あいつ……ここまで強くなってたのか……イフリートいらないな、これは……」
「あの狐の姉ちゃんも底知れない……一切の隙のない動き……俺でも見えなかったぞ……」
呆然と口をあんぐり開けて固まっているヴェロス達をよそに私とホムラは魔王の待つ玉座の間へと急いだ。
私とホムラは最後の階段を登り、遂に魔王サタンの待ち構える玉座の間へとたどり着いた。
闘技場と同等の広さを誇り、暗闇に閉ざされ、僅かな光すら拒んでいた。
見覚えのある光景に私は背筋を凍らせた。
忌まわしい記憶が嫌が応にも甦ってくる
「ここが魔王の待つ玉座の間ですね……」
「私は第四層までしか知らなかったけど……中はこうなっていたのね……」
ホムラは緊張で全身を硬直させながら辺りを見回していた。
「エルサさーん! マルクさーん! ミライちゃーん!ルーシーちゃーん! グレンくーん! コロナちゃーん! クロスくーん !」
私は暗闇の中を進みながら皆の名前を呼び続けた。
ヴェロスの話によるとエルサ達は一足先に魔王サタンと交戦していたらしい。
だけど不気味なまでに静寂に包まれ、人の気配を感じなかった。
最悪の可能性が私の脳を過り、身震いした。
「まさか……皆……」
「大丈夫よ、貴女の大切な仲間なんでしょ、信じてあげなさい」
不安に押し潰されそうな私をホムラは励ましてくれた。
「ありがとう……ホムラさん……」
少しだけ気が楽になったのも束の間、突然威厳のある声が城全体に響き渡った。
「ようこそ、我が未来の妻よ、そして、伝説の勇者の継承者よ」
私とホムラは即座に互いに背中を預けながら剣を構え、辺りを目を凝らしながら見回した。
「そう身構えるな、話の続きが出来んでは無いか」
「皆は何処なの !?」
サタンの言葉を遮るように私は切羽詰まった様子で叫んだ。
「そう慌てるな、奴等はまだ殺しておらんよ」
暗闇の中でサタンの宥めるような猫なで声だけが聞こえる。
私は怒りを堪え、歯を食い縛りながら剣を強く握った。
「仲間に会いたいか……では望み通り見せてやろう」
サタンの指をパチンと鳴らす音が響いた。
次の瞬間、天井に吊るされたシャンデリラが紫色に光り、部屋全体を照らした。
「…… !?」
目の前のあまりの光景に私は絶句し、言葉を無くした。
私の目に映ったのは、仲間達の変わり果てた姿だった。
エルサも、マルクも、ミライもルーシーも、コロナ、グレン、クロスも……全員巨大な十字架に磔にされ、血まみれでぐったりとうなだれていた。
「あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!!」
To Be Continued




