第三百七十四話・サタン無双
魔王の玉座の間にて、サタンは玉座にふんぞり返りながら水晶を鷲掴みにし、退屈そうに眺めていた。
その様子をペルシアは傍でサタンの威圧感を感じながらビクビク見つめていた。
「傲慢のルシファーも敗北……これで六人の魔王がやられたな……奴等がここへやって来るのも時間の問題のようだ」
しかしサタンは驚きもせず、寧ろ想定していたかのように冷静になっていた。
「し、しかし……第四層にはデビッド様とヒルデビルドゥ様が……」
「フン、あの今更あの二人など……時間稼ぎにもならん……」
恐る恐る声をかけるペルシアの言葉をつまらなそうに聞き流す。
折角ヴェルゼルクの力で甦らせた大量の兵士達もほぼ全滅し、四天王、幹部の大半も無限の結束によって倒された。
六人の魔王もオーブを残して消滅し、最後の一人になってもなお、サタンは余裕の表情を崩さずにいた。
まるでまだ奥の手を隠し持っているかのようだった。
「そこまでだ、魔王サタン !」
巨大な扉がギギイーと重厚な音を響かせながら開き、エルサ達は遂に魔王サタンの君臨する魔王部屋・玉座の間へとたどり着いた。
「ようこそ、我が城へ」
サタンは高圧的な態度でゾロゾロと集まったエルサ達を眺め、ニヤリと笑みを浮かべながら歓迎の言葉を述べた。
最終的に魔王の玉座の間に集まったメンバーはリーダーのエルサを始め、マルク、ルーシー、ミライ、コロナ、クロス、グレンの七人のみだった。
だが皆魔王達を各地で撃破する程に強くなっていた。
「サタン様……ここは私が…… !」
「良い……下がっていろ」
警戒し、戦闘体勢に入ろうとするペルシアを諌め、サタンは玉座からヌッと立ち上がり、ゆっくりと階段を降りていった。
「それが貴様の本当の姿か……」
「この前会った時はデカイ骨のドラゴンだったからよ、随分とスマートに見えるぜ……」
黒いマントを羽織り、禍々しい漆黒の甲冑を着込んだ精悍な青年……。
ボスらしい風貌とは言え、人間となんら変わらないサタン本来の姿を目の当たりにし、エルサ達はそのギャップに驚いていた。
だがサタンは魔獣の骸を結集させたスケルトンキメラの時よりも遥かに魔力を増大させていた。
「俺達は何人もの魔王を倒したんだ! お前なんかに負けねえ !」
臆することなく、神器を向けながらグレンは威勢良く啖呵を切った。
「面白い……だがお前達ごときに敗れ去った魔王共と我を一緒にするとは愚かだな」
サタンは不快そうにしながら鞘から魔剣を抜いた。
「丁度退屈していた所だ、相手をしてやる……何人でも来るが良い」
サタンはマントを翻しながら高圧的な態度でエルサ達を挑発して見せた。
彼の放つ邪悪なオーラが周囲を包み込み、この場にいる全員は背筋が凍るような感覚に襲われた。
彼にとってはほんの余興に過ぎなかった。
「コロナ、気を抜くな……今までの奴等とは桁が違う」
「分かってる……」
コロナは震える身体を抑えるように杖をギュッと抱き締めた。
「さあ、かかってこい」
不敵な笑みを浮かべながら手招きをするサタン。
「行くぞ皆 !」
「「「「おおおおおおお !!!」」」」
ピリピリとした空気を打ち破るように全員は一斉にサタン目掛けて走り出した。
サタンは剣を構えたまま微動だにしなかった。
「先手必勝だぁ! 鬼火花 ! 」
素早い身のこなしでグレンは剣に電撃を纏わせ、サタンに向かって解き放ち、真っ先に先制攻撃を仕掛けた。
だがサタンは迫り来る電撃を瞬きすらせずに素手で弾き返した。
剣を使うまでも無かったようだ。
「どうした小僧……ベルゼブブを倒せたのは紛れか ?」
「何だと !?」
嘲笑いながらグレンを煽るサタン。
グレンは悔しそうに地面を殴り付けた。
「今度は僕達だ !」
「うん !」
コロナは杖を掲げ、空中に太陽のように燃え上がる巨大な球体を呼び出した。
クロスは満月を描くように天井を高速で飛び回りった。
サタンの目の前に太陽と月を体現する二つの強大な魔力の塊が浮かび上がった。
「「太陽と月光の融合 !」」
チュドオオオオン
コロナとクロスの合体技が炸裂した。
太陽のような赤い球体と満月のように白く輝く球体は交わるように熱線と光線を放ち、サタンに向けて直撃させた。
二つのエネルギーがサタンを巻き込んで爆発し、下手な闘技場よりも広い魔王部屋全体は煙に包まれた。
だが煙が晴れると、そこには傷どころか埃すらついてないサタンの威風堂々たる姿があった。
「くだらん見かけ倒しだな」
見下した瞳でクロスとコロナを睨み付けながら威圧するかのようにマントを翻す。
あれだけの攻撃を浴びてもサタンにまともなダメージが入った様子は無かった。
「そんな……」
「やはり今までの魔王とは違いすぎる……」
即席で編み出した合体技が意味を成さず、コロナとクロスの顔から血の気が引いた。
サタンの防御力と耐久性は同じ命とは思えないくらいに次元が違っていた。
「私も行くよ~ !」
今度はミライの番だ。
意気揚々と翼を羽ばたかせ、空からの奇襲を仕掛ける。
「羽根豪雨~ !!!」
天井に舞うと翼を広げ、大量の羽根の弾丸を豪雨のように降り注がせる。
凄まじい速さと威力の羽根がサタンに集中砲火を浴びせた。
「この程度の力でよくマモンを倒せたものだ」
サタンは無表情のまま、素手のみで目に見えない速さで全ての羽根の弾丸を弾いていた。
端から見ると全身にバリアを覆っているようにしか見えず、頬にかすることすら無かった。
「鬱陶しい小鳥だ」
サタンは片手を構え、赤く燃え上がる熱を帯びたエネルギー弾を天井に向けて放ち、ミライを撃ち落とした。
「きゃあっ !」
エネルギー弾丸が胸を貫通し、床に叩きつけられるミライ。
口からは血を吐き、苦しそうに胸を抑える。
「ミライちゃーん! ……良くもミライちゃんを…… !」
「今度は俺達だぁぁぁぁ !」
遠距離からの攻撃はまるで効果が無い。
マルクは一か八か、接近戦を挑むことにした。
伝説の鎧・巨大魚幻獣の鎧を瞬時に装着し、両腕のブレードを構えながら加速し、サタンに突撃していった。
「レヴィアタンを下したその力……我にも見せてみよ」
両手を広げながら余裕の態度で挑発をするサタン。
マルクは鎧を着込んだとは思えないスピードで瞬く間にサタンとの距離を詰め、両腕のブレードを振るい、猛スピードで斬りつけていく。
「うおおおおおおおお !!!」
サタンは無我夢中で繰り出されるマルクの剣撃を受け流しながら紙一重でかわし続けた。
トップクラスのスピードを持つマルクすらサタンの動きに翻弄されてしまっていた。
「やはりあの小娘が未熟だっただけだな……」
期待外れでがっかりした様子でサタンはマルクの額にピタッと人差し指をくっつけた。
たったそれだけであれだけ剣を振るい続けたマルクの動きが石像のように止まった。
(な……なんて力だ……こいつ…… !)
どれだけ抵抗しようも全身に力が入らなかった。
サタンはため息をつくとマルクの額に軽く凸ピンをし、弾丸のように勢い良く壁際まで吹っ飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
風圧を抜けられず、壁際に思い切り叩きつけられるマルク。
英雄に受け継がれた伝説の鎧の力ですらもサタンには及ばなかった。
「ルーシー、姉妹の力を合わせるぞ !」
「うん、お姉ちゃん !」
エルサとルーシーは互いに頷き合うと剣を構え、床を蹴りながらサタンに向かっていった。
「裏切り者よ……貴様に罰を与えてやろう」
サタンはようやくここで魔剣を鞘から抜き出した。
この剣によってリトは葬られた……忌まわしき邪悪な剣だった。
「少し本気を出してやろう……一方的な戦いではつまらんからな」
サタンは挨拶代わりに剣を一振りした。
その時に発生した風圧をエルサ、ルーシーは咄嗟に避けた。
風圧だけで床を切り裂き、壁に深い亀裂を作った。
「あれを喰らったら……ひとたまりもないな、気を付けろよルーシー」
「分かってるって……僕は十何年も間、魔王に仕えていたからね」
ルーシーは黒いオーラを纏い、残像を残しながらサタンの周りを竜巻のように凄まじい速度でグルグルと回った。
「小賢しい真似を……」
サタンは剣を振り下ろし、残像を次々と消し去る。
「他の幹部共とベルフェゴールを撃破したのは知っているが……一人ではこんなものか」
サタンはほくそ笑みながら手を伸ばし、ウサギの耳を掴むようにルーシーのポニーテールを掴み、捕らえた。
「はう…… !」
「その身体に刻み込んでやろう……我に逆らったらどうなるかをな……」
サタンはルーシーを羽交い締めにし、刃を眼前に向けた。
「へへ……刻まれるのはアンタの方だよ……」
「何…… ? ゴフッ !」
突然サタンは口から滝のように血を吐き出した。
エルサが背後に回り、背中を剣で貫いたのだ。
「き……貴様ァ…… !」
不意討ちとは言え、ようやくサタンにダメージを与えることが出来た。
痛みに悶えている隙にルーシーは拘束から脱した。
「大丈夫かルーシー……」
「ありがとうお姉ちゃん……」
呻き声を上げながら腹部を抑え込むサタン。
エルサとルーシーはサタンに刃を向けた。
「一気に決めるぞ !」
「うん !」
エルサの剣が眩い閃光を放ちながら竜巻を纏い始める。
ルーシーの握る剣も漆黒の影がとぐろを巻きながらオーラを放つ。
全身に魔力を沸き立たせながら二人は同時に剣を振りかぶる。
「「双風滅刃(ツイントルネードブレイド !」」
ズバァァァァンッ
巨大な二つの竜巻を巻き起こし、エルサとルーシーの剣は同時に空間を切り裂きながら振り下ろされ、サタンを一刀両断した。
……かに思えたが……。
「アスモデウスが惚れただけのことはある……中々の手応え……しかし相手が悪かったな……」
なんとサタンは勢い良く振り下ろされた二人の剣を片手の魔剣のみで防いだのだった。
どれほど力を加えようとも腕がピクリとも動かなかった。
サタンの放つ威圧感により、竜巻もかき消された。
「なん……だと…… !」
「なんて……力…… !」
「姉妹の力……? 実に滑稽だったぞ……フンッ !」
サタンは吐き捨てるように腕に力を入れて剣で振り払い、エルサとルーシーを一蹴した。
宙を舞いながら地面に叩きつけられる二人。
七人が束になろうともサタンという強大な存在の前には蟻の群れも同然だった。
「さて……もう少し楽しませてもらうぞ……ワンサイドゲームだがな……」
サタンは魔剣の切っ先を舐め回し、邪悪な笑みを浮かべながらエルサ達に襲い掛かった。
「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」」」」
そこからは地獄のような一方的な蹂躙が続いた……。
魔王部屋の玉座の間全体に複数の断末魔が響き渡った。
誰も、サタンを止める事は出来なかった……。
To Be Continued




