第三百六十八話・堕天使ルシファー
「「うおおおおおおおおお !!!」」
漆黒の闇に空全域が覆い尽くされ、落雷が発生している悪天候の中、ヴェルザードとルシファーの一騎討ちは更に激しさを増していった。
「はぁぁぁぁぁぁぁ !」
「でりゃぁぁぁぁぁぁ !」
キィン キィン キンキィン
雷鳴にも負けずに剣同士が激しくぶつかり合う音が響き渡る。
縦横無尽に空を飛び回りながらヴェルザードは己の血で造り上げた剣を、ルシファーは魔剣ルシファーを、それぞれ一心不乱に振るい続ける。
どちらも先程より全力を上げているのが伝わってくる。
「雷電神斬 !」
ルシファーは魔剣に青白いスパークを纏わせ、加速しながら素早く斬撃を浴びせた。
流石に避け切れず、両腕に斬撃が掠り、焼かれたような痛みが襲った。
「くっ…… !」
ヴェルザードは負けじと赤く燃え上がる血の剣を懸命に振るう。
だがルシファーは魔剣に力を込め、ヴェルザードの剣を切り裂き、粉々に破壊した。
血で造られた剣は赤く綺麗な粉となって空中に散らばる。
「偽りの剣など……所詮はこんなものだ……簡単に砕ける」
元天使族であるルシファーは今まで戦ってきた相手とは次元が違う。
真祖になっているとは言え、正面から行っても競り負けてしまう。
「そうかよ……だったらこっちは肉弾戦だ !」
ヴェルザードは拳に魔力を集中させ、力を高めた。
全身を赤と銀の混じり合った禍々しいオーラが包み込み、大気が震えた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ !」
ヴェルザードは加速しながら漆黒の暗雲の中へ一直線に突入し、身を隠した。
「逃がさんぞ」
ルシファーは迷わず彼の後を追い、雷鳴轟く雲の中へと入っていった。
「何処だ……何処に隠れている……」
翼を広げ、雲の中を泳ぐように探し回るルシファー。
だがヴェルザードの姿は何処にも無い。
ドゴッ
「ぐっ !」
突然背後からの激痛に襲われた。
ルシファーは咄嗟に振り返るが、誰もいなかった。
血眼で辺りを見回すが、人の気配すらも感じなかった。
だがここにいるのは間違いなくヴェルザードと自分だけだった。
ゴッ ドガッ
目を凝らして注意深く辺りを警戒する。
だが再びヴェルザードの見えない攻撃が彼を襲う。
何も無い場所で一方的に攻撃を喰らい続けるルシファー。
だが被弾する一瞬、僅かながらルシファーは見えない敵の正体を捉えた。
攻撃を仕掛ける一瞬だけ霧からヴェルザードの姿が現れていたのだ。
「成る程……自らの身体を霧と化し、雲に紛れ、死角から攻撃を仕掛けていたのか……小賢しい奴め……」
ルシファーはニヤリと笑うと魔剣を一振りし、空全体を覆っていた雲をあっさりと払った。
「くそっ……思ったより早くバレたか」
消滅した雲の中からヴェルザードの姿が露になる。
雲に紛れながら相手の不意を突く作戦は上出来だったが、数キロ先の砂粒すらも見分ける観察眼を持つルシファーの前ではそのような小細工は長くは持たなかった。
「力では負けるからと搦め手に頼るとは……吸血鬼も大したことは無いな」
「うるせえ、 これも立派な能力の一つだ、ケチつけるんじゃねえ」
ルシファーの侮蔑にムキになり、思わず感情を荒げるヴェルザード。
「まあ良い……だがこれで実力差ははっきりした……ここで貴様を葬り、憎き天使族の長打倒の為の予行練習としてやろう」
「俺を単なる練習相手だと思ってると後悔することになるぜ」
ヴェルザードは不敵な笑みを浮かべ、加速しながらルシファーに突撃していった。
剣を振り上げ、迎え撃つルシファー。
再び両者は空中で激突した。
二人のぶつかり合いにより、雷鳴すらもかき消す爆発音が鳴り響く。
「「はぁぁぁぁぁぁぁ !!!」」
ズバッ ズバババッ ズバシャッ
風を切り裂くように両者は怒濤の勢いで剣を振るい、壮絶な斬り合いが展開される。
「ぐっ……! ぐわっ !」
だが地力の差で僅かにヴェルザードが押され始めていた。
ルシファーは攻撃の手を一切緩めること無く、光の速さで繰り出される神速の剣撃により、ヴェルザードの全身に赤く生々しい切り傷が秒で刻まれていく。
「どうした……さっきまでの威勢は……所詮は地上人……神の力を持つ僕に挑むことこそが愚かな行為だったのだ !」
ルシファーはヴェルザードを一刀両断しようと剣を豪快に振りかぶった。
空を裂く勢いでヴェルザードの頭上へと振り下ろされる魔剣。
だがその直前、ヴェルザードはニヤリと笑った。
ガシッ
「なっ…… !?」
ヴェルザードはほんの一瞬だけ霧になり、ルシファーの背後に回り込み、羽交い締めにした。
「また小細工をするつもりか !」
「悪いな、俺は生憎正義の味方じゃねえ、格上に勝つためには手段を選ばねえんだ」
拘束を逃れようと凄まじい力で暴れるルシファー。
だがヴェルザードは手刀を素早く振り下ろし、彼の翼を切り落とした。
「き……貴様ぁぁぁぁ !!!」
「天使族だが何だか知らねえが、てめえの翼をもぎ取って、地上人にすりゃいいだけの話だ」
再び翼をもがれた堕天使……。
ヴェルザードとルシファーは取っ組み合ったまま、隕石が落ちるのと同等のスピードで地上へと一直線に落下していった。
To Be Continued




