第三十五話・鳥人の娘
動きを止めた魔獣にとどめを刺そうとするリト。
だが、ミライが止めに入った。
「どういうつもりですか、どきなさい !」
「焼いちゃうのはちょっと可哀想だよ~……。逃がすだけでいいでしょ ?」
リトは魔獣を庇うミライに呆れた様子だった。
「何を甘いことを言ってるんですか、こいつは貴方達を襲おうとしたんですよ ?」
「でもどっちかというと私達を助けてくれてたよ~……」
言われてみれば、魔獣は盗賊を追い払ってくれてたような……。
いや、私たちのことも追いかけていた……。
ミライは縮こまっている魔獣に近づいた。
「ちょっと貴方、不意に近づくと危ないですよ !」
「平気だよ~見てて~」
するとミライは深呼吸をすると歌い出した。
魔獣はミライの歌声を気持ち良さそうに聴いていた。
そして彼女の目の前にゆっくりと頭を差し出した。
「よしよし」
ミライは魔獣の頭を優しく撫でた。魔獣は嬉しそうな様子だった。
「魔獣があっさり鳥人に心を許すなんて……」
リトはかなり驚愕していた。
「ワカバちゃんもこっちおいでよ~」
私はミライに呼ばれ、恐る恐る魔獣に近づいた。
そして魔獣の頭に優しく触れた。
魔獣は喜んでくれたのか、私の顔を舐めた。
「えへへ~魔獣さん可愛い~」
ミライは満面の笑みを浮かべた。
リトは腕を組みながら考え込んでいた。
「どうやら……合点が行きました。この魔獣は女の子好きです !」
「え !?」
衝撃の事実!
「証拠に私も撫でて見せましょう」
そう言うとリトルは魔獣に触れようとした。魔獣は嫌がり、プイっと横を向いた。
「ほら見なさい。お二人に撫でられるのは良くてもこの私には撫でられたくないようです」
リトは拒絶されたせいか何処か不満そうだった。
つまり私達を追いかけたのは悪意とかではなくて純粋に私達を気に入ったからということか……。魔獣にも色々あるんだな……。
「おーい !ワカバー !無事かー !!」
そこへ、エルサが息を切らしながら駆けつけた。
「エルサさん !?」
「中々帰ってこないから探したぞ……君にもしものことがあったらと思うと私は……」
「心配かけてごめんなさい……」
私はエルサに頭を下げた。
「いや、君が無事なら良いんだ……って魔獣 !?」
エルサは魔獣の存在に気付き剣を構えた。
「わっ……待ってください !この魔獣は……」
私はエルサに事情を説明した。
「成る程……女の子が大好きな魔獣か……」
「ねえ、貴方も撫でてみる~?」
ミライはエルサに話しかけた。
「君は……鳥人 ?」
「ミライちゃんって言うんです。前に言ってた広場の歌姫です」
エルサは恐る恐る魔獣の頭を撫でると魔獣は頬をスリスリしてきた。
「おお……!柔らかくて気持ちが良いぞ…… !」
「でしょでしょ~」
私達は暫くの間、魔獣のモフモフを堪能していた。
約一名、不満そうにしていたが……。
「べ、別に羨ましくなんかありませんよ」
やがて魔獣は巣へと帰っていった。
リトは焼いて食べてみたかったらしく、少しガッカリしながら消えていった。
「魔獣にも善悪の概念があるものだな」
「人間にも良い人と悪い人が居ますからね」
「それもそうだな」
私とエルサはその理屈で納得をした。
魔獣だからと言って必ず皆悪いとは限らない。
思えば一番最初に出会った魔獣もそうだったな……。
「さて、そろそろ帰るか」
「そうですね。そうだ !ミライちゃん」
「何~ ?」
「ミライちゃんも私達のパーティーに入りませんか?」
私は思いきってミライを誘ってみた。
ミライと仲良くなって、もっとミライと話がしたいと思ったからだ。
「パーティー~ ?」
「あぁ。名前は「無限の結束」だ。皆生まれも育ちも種族もバラバラだが、固い絆で結ばれているんだ」
エルサもミライを誘いたいと考えていた。
ミライは少しの間考え込んだ。
「パーティーに入れば、ワカバちゃんとずっと一緒に居られる~ ?」
「はい、そうですけど……」
「じゃあ入る~」
「よし、決定だな!」
ミライの加入があっさり決まった。
「これから末永く宜しくお願いしま~す」
「はい、宜しくお願いします !」
鳥人のミライ……。おっとりしていて天然でマイペースな女の子だけどいざという時はとてつもない実力を発揮する。まだまだ未知数だ。
私達三人は雑談をしながら家に向かった。
一方、魔獣に吹っ飛ばされたローヴは森の奥で気絶をしていた。
「いてて~ ?あれ、俺は一体……」
ローヴは目を覚ますと辺りを見回した。
「そうか~あの小娘達にコケにされた挙げ句魔獣に吹っ飛ばされて……」
ローヴは悪い予感がしたのか懐をまさぐった。
「なっ…… !ランプがねぇ~ !くっそぉぉぉ最悪だぜ~ !こうなったら絶対あいつらに復讐してやるぜ~ !盗賊団の頭をなめんじゃねえぞ~ !!」
ローヴは怒りを燃やし、拳を強く握りしめた。
「へぇ、アンタ、盗賊の頭なんだぁ」
背後に男の声が聞こえた。ローヴは思わず振り返った。
「何だお前は~ ?ゴブリン~ ?いや、ホブゴブリンかぁ~ ?」
ローヴの後ろには、濃い緑色の肌をした、長身で細身な男が立っていた。彼はゴブリン族の上位種・ホブゴブリンだ。
「俺達は人間を集めてんだ、アンタも来てもらうぜ」
ホブゴブリンの男は背負っていた双剣を取り出した。双剣の刃先は禍々しく光っていた。
「ゴブリン風情が~……俺に勝てると思うなよ~ !鉄の抱擁 !」
ローヴは鉄の鎖を繰り出し、ホブゴブリンを縛り上げようとした。
しかし、ホブゴブリンの双剣による剣さばきによって鎖はあっさりと粉々に砕かれた。
「そんな…… !お、お前らぁ !ゴブリンをやっちまえぇぇぇ !」
ローヴは狼狽えながらも手下を呼ぼうと声を張り上げた。しかし反応はなかった。
「あー、お前が呼びたかったのってこいつらのことか ?」
ホブゴブリンは親指を後ろに指した。
すると無数のゴブリン達がゾロゾロ現れた。ゴブリン達は多くの盗賊達を縄で捕らえていた。
「なっ…… !お前たち…… !」
「こいつらは全員俺達の奴隷になるんだ。そしてお前もその一人に加わる」
「そんな……この俺が、奴隷だと…… !?」
ローヴは絶望し、全身を震わせていた。
「お前も魔物や亜人達に似たようなことしてきたんだろ ?因果応報ってやつだよ」
ホブゴブリンはニタニタほくそ笑んだ。
ローヴはジリジリと大量のゴブリン達に囲まれた。
完全に心が折れたのか、その場で膝をついた。
「観念しな ♪」
ホブゴブリンの合図とともにゴブリン達が一斉にローヴに襲いかかった。
「ギャアァァァァァァァァ !!!」
ローヴの断末魔は森全体に響き渡った。
To Be Continued




