第三百六十七話・ヴェルザードvsルシファー
「うおおおおお !!!」
「はぁぁぁぁぁ !!!」
魔王の中でも二番目に強いと言われる傲慢の男・ルシファーと真祖へと覚醒し、完全にその力を制御したヴェルザードは遂に激突した。
振り上げられた二人の拳がぶつかり、雷が落ちたかのような轟音が鳴り響き、余波で大地が震動し、兵士の死体が風圧で飛ばされていった。
「な……なんて力なんですか…… ! 二人とも…… !」
リリィもこの場で立っているのがやっとの状態だった。
だがこの壮絶なぶつかり合いも彼らにとってはただの挨拶でしか無かった。
「真祖よ……素晴らしい力だ…… だが僕がかつて戦った真祖の力は……こんなものでは無かったぞ」
「見くびるんじゃねえよ、これはまだほんの小手調べだ !」
ルシファーの挑発に敢えて乗るヴェルザード。
素早く手刀を振り下ろし、ルシファーの首を直撃した。
「ぐっ…… !」
互いの力が拮抗していたが、ルシファーが僅かに均衡を崩し始めた。
その隙を狙い、ヴェルザードは更に畳み掛ける。
バババババッ
目にも止まらぬ速さでルシファーにパンチの連打を浴びせる。
呻き声を上げ、一方的に殴られ続けるルシファー。
ヴェルザードは反撃の余地を与えず、執拗に攻撃を加えていく。
「はっ !」
一通り殴り終えたヴェルザードは長い脚を蹴り上げ、ルシファーを空中へと蹴り飛ばした。
「こんなものか……やはり理性が足枷となっているな……」
上空まで飛ばされながらルシファーはつまらなそうに口についた血を拭い、体勢を立て直した。
地上で待機するヴェルザードを見下ろしながら僅かならがらに口角をつり上げた。
「貴様に教えてやろう、僕が他の魔王共とは格が違うということを……」
そう言うとルシファーは背中から穢れの無い真っ白な翼を片方だけ生やした。
「その翼は…… !」
「驚いたか……今まで倒された魔王……マモン、ベルゼフブ、ベルフェゴール、アスモデウス、レヴィアタン……彼等は所謂最上位魔族の突然変異……だが僕は違う……地上を生きる種族共を凌駕する高貴なる種族……天使族なのだからな !」
ルシファーは翼を大きく広げながら惜しみ無く己の正体を明かした。
彼の正体を知り、驚きを隠せないヴェルザード。
天使族とは地上から遥か上空に存在しているとされる世界……天界と呼ばれる神々や天使達が住んでる世界の種族である。
地上に生きる多種族達を遥かに凌ぐ高い魔力を持っていた。
ルシファーはそんな高貴で神聖とされる天使族の1人だった。
「まだこの世界が一つだった頃、僕は天使達を束ねる長として天界に君臨していた……だがある時僕は罪を着せられ、天界を追放された ! 命よりも大切な誇りである翼も片方失った !」
ルシファーは怒りにうち震え、天界への怨みを込めながら己の身の上話を続けた。
彼の天界への怨みは計り知れなかった。
「そして地上へと堕天した僕は天界に復讐する為に闇の力に手を伸ばし、天使であることを捨て、魔王となった……この地上で数え切れない数の雑兵を増やして手駒とし、僕が地上の支配者になるつもりだった……まあ、サタンという目の上のたんこぶのせいでその計画も失敗に終わったが……」
ルシファーは目を瞑り、自嘲気味に話した。
彼は元々は光側の者だったが、嫉妬や復讐心が醜く肥大化し、心も身体も闇に染まってしまっていた。
「まあ、話が長くなってしまったが、これで分かっただろう……お前達が今まで倒したのは単なる魔族の突然変異……僕こそが神に等しい力を持つ最強の魔王……僕を相手にするということは神を相手にするも同じ……」
「そうか……つまりてめえを倒せば、俺は神殺しにでもなれるってことか……」
ヴェルザードは臆すること無く、余裕の態度で薄ら笑いを浮かべた。
「傲慢だな……貴様の一族は僕が天使長だった時に倒している……あの時は僕が正義で奴が悪だったが今は逆だ……貴様の温い正義ごと、粉々に打ち砕いてくれる !」
ルシファーは魔剣ルシファーを鞘から抜き、天へと掲げた。
魔剣ルシファーは金塊で造られたかのように黄金に染められ、邪悪な紫のオーラを帯びていた。
やがて暗雲が立ち込め、空は漆黒の雲に覆われた。
「傲慢なる裁き !」
獣の咆哮のような雷鳴が轟き、空を切り裂くように青白い雷が鳴り響いた。
ヴェルザードは降り注ぐ落雷を必死に避け続けた。
だがまるで落雷は生きているかのように執拗にヴェルザードを狙い、何度も落ちてきた。
「くっ ! ぐわぁぁぁ !!!」
僅かに足を滑らせてしまい、雷がヴェルザードを直撃する。
肌が焼け焦げるような激痛に襲われるが、何とか耐え抜いた。
真祖で無ければたった一撃で昇天していたかも知れない。
「今のはほんの序の口……貴様の身体にたっぷりと味合わせてやろう、神の力を」
ルシファーはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら切っ先をヴェルザードへと向けた。
「上等だ……こっちだってなぁ、飛べる手段はあるんだ !」
ヴェルザードは背中から竜のように黒い鱗に覆われた禍々しく巨大な翼を生やし、ルシファーへと飛んでいった。
最早地上だけでは飽き足らず、二人の戦いのステージは大空へと移行した。
再び空中で激突する両者。
リリィはただ主の勝利と無事を信じ、固唾を飲んで見守るしか無かった。
To Be Continued




