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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
最終章・七大魔王降臨編
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第三百六十六話・ヴェルザードの決断



リリィの身体を張った説得により、真祖となって暴走していたヴェルザードは自我を取り戻した。

彼女の主を想う強い心がヴェルザードを闇の力から救い出せた。

力は無いが長年侍女として側に仕え、一番にヴェルザードを理解していた彼女だからこそ、出来たことだ。


「ここは……」


ヴェルザードは辺りを見渡し、己が引き起こした惨状を目の当たりにした。

傷付いた仲間達に辺り一面に転がる兵士達の亡骸……。

そんな中、幹部クラスであるペルシア親衛隊やトレイギア、ゴブラはまだ息があった。


「これ……俺がやったのか……」


改めて自分のしてしまったことの重大さを実感するヴェルザード。

自我を無くす程に暴れ、一瞬で多くの兵士を皆殺しにし、仲間にまで危害を加えた……

自分にはそれほどの事が出来てしまう恐るべき力が宿っている……そんな現実が重くのし掛かる。

リリィは恐怖に怯えるヴェルザードを包み込むように優しく抱き締めた。


「おーい! ヴェルザードォー !」


マルク達はヴェルザードが正気に戻ったことを確認すると一斉に駆け付けた。


「お前ら……」

「たく、心配かけさせやがって !」


マルクは笑いながらヴェルザードの背中を叩いた。


「だが、もう安心だな……」

「リリィが頑張ってくれたからヴェルザードは元に戻れたんだよ~」


仲間達も皆、ヴェルザードの無事を喜び、笑顔を浮かべていた。

ヴェルザードは仲間達をこの手にかけずに済んだことに安堵した。


「それにしてもよ、何だったんだ? ヴェルザードのあの暴走っぷりは」

「ああ……実はな……」


ヴェルザードは仲間達に事情を説明した。

傲慢の魔王ルシファーに友であるヒュウを殺されたこと、それがトリガーとなり、真祖の血が目覚めてしまったことを……。


「しかし驚いたぜ、ヴェルに真祖の力が眠ってたなんてな……」


一同は驚きを隠せなかった。


「私も長年ご主人様に仕えていましたが、そのような話聞いたことありませんでした」


リリィですらも真祖について知らなかったようだ。


「まあ半信半疑の伝説みてえなもんだったからな……魔王共は何か知ってたみたいだけど……」

「僕が教えてやろう」


突然、不気味な雰囲気を漂わせた青年が彼等の前に現れた。

エルサ達は青年の放つ底知れない魔力に戦慄し、咄嗟に身構える。

ヴェルザードは唯一敵の正体を知っていた。

親友を奪った憎き仇……。


「ルシファー……」


ヴェルザードは怒りに満ちた瞳でルシファーを睨み付けた。

親友を目の前で殺し、真祖へと目覚めさせられた元凶……。

冷静でいられるわけが無かった。


「真祖……それは最上位魔族である吸血鬼(ヴァンパイア)の中でも特に高い魔力を秘めたごく一握りの稀少な存在……穏やかで知的な精神と全てを焼き尽くす破壊的な激情……その相反する二つの感情が融け合い、吸血鬼(ヴァンパイア)の真の力が覚醒する……」


ルシファーは冷酷な表情を浮かべながら淡々と説明した。


「かつて僕も真祖と化した吸血鬼(ヴァンパイア)と対峙した事があった……その末裔がこの時代まで残っていたとはな……」


ヴェルザードは古代に真祖となった吸血鬼(ヴァンパイア)の一族の血を引いていた。

ヴェルゼルクすら知らない、歴史の闇に葬られた真実だった。


「しかし……折角真祖になれたというのに、つまらない女の涙で簡単に自我が戻ってしまった……本当につまらない」

「つまらないだと……」


ヴェルザードは怒りに身を震わせる。

殺されるかもしれない中、身体を張って自分を止めてくれた彼女を侮辱するその言葉が許せなかった。


「このまま仲間割れをして自滅するのを眺めるつもりだったが、そうもいかなくなった……この僕、傲慢の魔王ルシファーが貴様ら全員をあの世へと送ってやろう」


身も凍る程の殺気を放つルシファー。

エルサ達は思わずゾクッと身震いした。


「お前らはさっさと魔王城へ行け、こいつは俺が仕留める」

「けどお前一人じゃ……」

「心配するな、俺の中の真祖の力はまだ消えていない」


ヴェルザードは真祖の力が覚醒したままだった。

その証拠に紅に燃えるオーラを未だに纏っていた。

髪色も銀に戻ったが、腰辺りまで伸びたままだ。

理性を取り戻した影響で力が多少弱まったがそれでも充分過ぎるほど高い魔力を秘めていた。


「貴様だけは……許すわけにはいかねえ……俺の手で倒す……! 」

「決意は揺るがなそうだな……」


エルサ達は彼の意志を尊重し、この場をヴェルザードに任せることにした。


「私もここに残ります」

「リリィ ?」


リリィはヴェルザードの戦いを見届ける選択を取った。


「もうこれ以上ご主人様と離れたくありません、ご主人様の勇姿、しかとこの目に焼き付けます」

「分かった、その代わり安全な場所にいろよ」


魔界に来た以上、何処にも安全な場所など無い。

ヴェルザードはリリィの想いを汲み取り、許可した。


「気を付けろよヴェルザード! そいつは魔王の中でも特にやべえ !」

「必ず勝ってね~ !」


マルク達はヴェルザードにエールを送ると魔王城へと向かった。

死体が辺り一面転がる荒野には傲慢の魔王ルシファーとヴェルザード、リリィだけが残された。

睨み合う両者、恐ろしい程の静けさが辺りに漂う。

六人目の魔王・ルシファーと真祖ヴェルザード……。

二人の男が遂に激突しようとしていた。




その頃、暗闇に閉ざされた魔界の地下深くに一人の男が取り残されていた。

まともに立つことも困難なくらいに衰弱しており、呻き声を上げながら地面に這いつくばり、出口を必死に目指していた。


「ま……魔王……様……」


To Be Continued

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