第三百五十八話・ガルグイユ無双
空全体を覆っていた漆黒の暗雲が嘘のように消え、散々降り続いた雨も静かに止んだ。
英雄から受け継いだ鎧の力を借り、マルクは嫉妬の魔王・レヴィアタンを見事打ち倒した。
だがその代償は決して安くは無かった。
伝説の鎧を纏いながら戦ったことで魔力を大量に消耗し、立っていられない程に疲弊してしまった。
「はぁ……はぁ……」
マルクは足を引き摺らせながら倒れていた少女の側により、優しく抱き寄せた。
彼女は数千年前、傷を負ったレヴィアタンに目をつけられ、身体を乗っ取られていた。
意識は無いものの、まだ微かに息があった。
マルクは少女の頭に手を置き、僅かな魔力を彼女に注ぎ込んだ。
少女の表情が安らかになっていく。
「何とか助かったみてえだな……」
少女の無事を確認し、安堵の表情を浮かべるマルク。
レヴィアタンに長い間人生を狂わされた悲劇の少女……この先自分の知らない時代を生きることになるが、それでも幸せに生きて欲しい……マルクはそう願った。
「やっぱり……英雄には勝てないのね……」
呻き声を上げながら、静かに横たわるレヴィアタンは呟いた。
「勝てたのは運だ、それに俺一人の力じゃねえ」
マルクはボソッと返答した。
彼が勝てたのはあくまで鎧の力あってのもの。
鎧が無ければ魔王相手に生き残ることすら難しかった。
「ふん……負けは負けよ……でも……悔しいわ……こんな所で終わるなんて……」
レヴィアタンは震える声で悔しそうに呻いた。
「まだまだ心残りとか色々あったんだけどね……エレイン……部下達はどうしてるのか……」
「そいつらなら元気にしてるぞ」
マルクは素っ気なく答えた。
「え……本当に…… ?」
「ああ、古代亀の島でそいつらと戦ったからな、あいつらは今も海賊船にのって海を旅してるよ」
嘘偽り無く正直に答えるマルク。
レヴィアタンは安堵し、穏やかな表情を浮かべた。
「そう……安心したわ……」
満足そうに言い残すとレヴィアタンの巨体が粒子となり、桃色に輝くオーブのみを残しながら空へと消えていった。
「はぁ……はぁ……」
マルクは少女を抱き締めたまま、オーブを拾い上げる。
だが、勝利の余韻に浸っている場合では無かった。
辺りを見回すと、先程まで見物に徹していた兵士達がいつの間にか接近し、マルクを取り囲んでいた。
「てめえら……」
「半魚人……貴様は危険な存在だ……今のうちに消耗した貴様を排除する」
トレイギアが指示を煽ると大勢の兵士達は一斉に武器を構えた。
「クソッタレが…… !」
疲労で息を荒げながらも身構えるマルク。
万全の状態ならまだしも、レヴィアタンとの死闘によってダメージを受け、魔力を消耗してしまっている。
おまけにか弱い少女を守りながら戦わなければならない。
まさに四面楚歌だった。
「やれ」
トレイギアの一声に呼応し、兵士達は一斉にマルクに襲い掛かった。
逃げ場は何処にも無く、まさに雲の巣に捕らわれた蝶……。
万事休すかと思われたその時……。
チュドドドド
突然七色に輝く色鮮やかな光弾が空から降り注ぎ、兵士達に集中砲火を浴びせた。
「お前ら !」
驚いたマルクが振り返ると、各地で魔王を撃破した仲間達の姿が見えた。
「間に合ったようだな……」
エルサ、ルーシー、ミライ、グレン、コロナ、クロス……それにヴェロス率いる数人の囚人達まで駆け付けてくれた。
「全くだぜ……」
緊張が解け、思わず頬が緩むマルク。
グレンが真っ先に駆け寄り、彼の肩を支える。
「ちっ……仲間が増えたか……」
「だが何人来ようと同じだ……数では我々が勝っている」
敵側の味方の増援に怖じ気つく兵士達を鼓舞するトレイギアとゴブラ。
「いくら数を揃えようと、俺達の前だと虫けらの集まりでしかない」
「全員纏めて蹴散らしてくれるわ」
ヴェロスとフライは威圧しながら構えを取る。
「さ、一気に城に攻め込むぞ !」
空に向かって剣を掲げ、エルサは先陣を切って走り出した。
ルーシー達も彼女に続き、怒号を上げながら、数百を越える軍勢に立ち向かっていく。
魔王城周辺の戦場は更に混沌を極めていった。
一方 都市ボルタニアでは爬虫の騎士団が思わぬ苦戦を強いられていた。
かつて四天王だった古代の竜人・ガルグイユのガイの力は凄まじく、数人がかりでも歯が立たなかった。
メリッサ、ザルド、ララ……次々と仲間が倒れていく。
残されたのは元四天王であるゴルゴとリーダーのラゴンの二人だけだった。
「温い……温すぎるぞ! 現代の竜人共は揃いも揃って腰抜けのようだな !」
ガイは半壊した建物の上に君臨し、勝ち誇った様子で高笑いした。
「あれだけ修行したってのに、まるで赤子扱いだぜ……」
「奴は魔界四天王屈指の凶暴さと強さを兼ね備えていた……勇者に真っ先に倒されなければ今頃魔王軍が覇権を握っていただろう……」
一滴の汗がゴルゴの頬を伝う。
ガイの強さはラゴン達の想像を遥かに越えていた。
「もう飽きた、貴様ら纏めて消し去ってやるわ」
ガイは巨大な翼を広げて威嚇体勢に入り、大口を開き、破壊光線を放つ準備を始めた。
強大な破壊のエネルギーが喉の奥から込み上げてくる。
「くっ……やはり模造品である俺では勝てないのか…… !」
悔しさに拳を握り締めるゴルゴ。
ガイの破壊光線が全てを焼き払おうとしていたその時、突如として一筋の閃光が一直線に突き抜け、ガイの左胸に突き刺さった。
「ぐはっ !?」
技の発動を阻害され、バランスを崩して倒れ込むガイ。
「誰だ !?」
ラゴンとゴルゴは思わず振り返る。
するとそこにいたのは二人の少女だった。
「あ、あの……皆さん……久し振りです……」
少女の一人は可愛い顔に似合わないゴツい鎧を身に纏いながら恥ずかしそうに微笑んでいた。
手には金色に染められ、豪華に装飾された剣が握られていた。
To Be Continued




