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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
最終章・七大魔王降臨編
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第三百五十三話・起死回生の一撃



エルサの予想を遥かに越えた奮闘にアスモデウスは追い詰められた。

だがアスモデウスには奥の手が残されていた。

余裕を失い、アスモデウスは禁忌とも言える真の力を遂に解放した。


「な……何が起こると言うのだ…… ?」


エルサは脇腹を抑え、痛みに耐えながらジリジリと後退していった。

異様な雰囲気を肌で感じ、頬を汗がつたう。

アスモデウスの身体から滲み出る障気に当てられたのか、草木は枯れ、小さな獣や虫が朽ち果てていった。

アスモデウスの身体は闇の障気に包み込まれ、徐々に変異していった。

容姿端麗だった色男の面影は影も形も無くなり、牛、羊の頭が肩から生え、尻には長く伸びた毒蛇のような尻尾が生え、足はガチョウのように変化した。

まるで複数の獣が融合した、キメラのようなおぞましい異形の姿に、エルサは背筋を凍らせた。


「これが僕の本当の姿さ……醜いだろ? 吐きたくなるだろ? 僕もこの姿は大嫌いさ、だけどここまで追い詰められたらそうも言ってられない、君にこの醜悪な姿を見られたからには、もう生かしておくわけにはいかないね」


悲しげな表情を浮かべながら、アスモデウスはゆっくりとエルサに近付く。

アスモデウスは以前とは比べ物にならない邪悪で禍々しい強大な魔力を周囲に放っていた。


(まずいな……)


対するエルサは体力を消耗しており、とても万全とは言えなかった。

おまけに身体には僅かだが快楽の毒が残っていた。


「やるしか無い…… !」


エルサは己を鼓舞し、剣を構えると異形の姿へと化したアスモデウスに果敢に向かって走り出した。


「遅い !」


ドゴォッ


アスモデウスは風よりも速くガチョウのようにしなやかに細くなった脚でエルサの腹筋を蹴りつけた。

たった一撃でボコッと腹筋が凹み、エルサは苦痛に顔を歪ませながら血を吐き散らした。


「あぐっ…… !」

「そんな弱り切った身体で、何が出来る !」


怯むエルサに対し、アスモデウスは容赦無く、追撃を浴びせてきた。

スマートな戦い方ではなく、獣のように荒々しく、確実に重い一撃を打ち込み、エルサを追い詰めていった。


「はぁ……はぁ……」

「動きが鈍い !」


エルサの足腰が限界で隙が大きくなった所を、右肩を前に突き出し、牛の角で貫いた。

生々しく赤い血液が宙を舞う。


「うっ…… !」


全身が血だらけになり、心身共にボロボロで立つのもやっとの状態のエルサ。

先程の大技で決められなかったのが痛かった。

最早気力だけで意識を保つのがやっとだった。

だが無情にもアスモデウスは更に彼女をいたぶっていく。


シャァァァァァァ


毒蛇の姿をした長い尻尾がエルサを拘束し、首に巻き付いてきた。

疲労困憊の彼女には避ける事も防ぐ事も出来なかった。


「うっ……んん…… !」


必死に残された力で引き剥がそうと健気に抵抗するエルサ。

だが尻尾による拘束は更に強まり、彼女の首を締め付けていった。


ガブッ


尻尾の先端にある蛇の口が大きく開き、エルサの腕に噛み付いた。

その瞬間、エルサの全身に電流が走り、脱力感に襲われた。


「んあっ……ち……力が……抜けて……」


毒蛇は鋭く長い牙を皮膚に差し込み、彼女から魔力を吸い取っていた。

元々少ない魔力にも関わらず、アスモデウスは彼女から更に魔力を奪おうとした。

これ以上吸われれば、彼女の命は尽きてしまう。

だがもがけばもがく程、抵抗する力は失われ、ビクンと仰け反りながら痙攣するしか出来なかった。


「あ……はぁ……」

「君の魔力……一滴残らず吸い尽くすよ、君は僕のものにはならなかったけど、君は僕の一部になるんだ」


狂気に満ちた薄ら笑いを浮かべながら彼女の耳元で囁くアスモデウス。

彼の吐息がエルサの敏感な耳にかかり、全身を震わせる。

エルサは魔力を吸い尽くされ、薄れゆく意識の中、力無く空を見上げた。


「すまん……皆……ここまでの……よう……だ……」


アスモデウスは彼女が力尽きたと確信し、巻き付いていた尻尾をほどいた。

膝をつき、うつ伏せに崩れ落ちるエルサ。

瞳からは光が失われ、虚ろな表情でピクピクと痙攣しており、意識は既に無かった。


「僕の勝ちだ……ヒャッハッハッハ !」


下卑た高笑いを上げ、勝ち誇るアスモデウス。

無敵だったエルサはこのままアスモデウスの前に敗れてしまうのだろうか……。


「……私は……十分戦った……もう……休ませてくれ……」


声になら無い呻き声で弱音を吐くエルサ。

地べたに這いつくばる彼女の側で声が聞こえた。


「何弱気になってるの、僕の自慢お姉ちゃんが、こんな所で終わるわけ無いでしょ」


エルサが顔を上げると、目の前にルーシーらしき少女が立っていた。

いや、彼女だけではない、ヴェルザードにマルク、ミライ、コロナ……共に戦い抜いた、かけがけのない仲間達の姿が勢揃いしていた。


「み……皆……」


大勢の仲間達の間を割って入るように、一人の少女がエルサの前に近付いてきた。


「ワカバ……」

「エルサさん……お願いします……もう一度、立ち上がって下さい……」


ワカバと思われる少女は女神のように微笑みながらエルサに手を差し伸べた。


「……そうだな……諦めるにはまだ早い……」


エルサはフッと微笑むとワカバの手を掴み、豪快に立ち上がった。

そしてもう一度目を開けると彼等の姿は忽然と消えてしまっていた。

どうやら死の淵をさ迷っていた彼女が垣間見た幻のようだった。


「幻か……だが関係ない……仲間達の存在が私を奮い立たせてくれたことに変わりは無い !」


もし自分がここで倒れれば、大切な仲間がアスモデウスによって失われるかもしれない……。

そう思ったエルサは何が何でも負けられないと己を奮い立たせ、決意を新たにした。

身体は悲鳴を上げ、既に限界を越えている。

魔力もほぼ空だ。

勝算は0。それでもここで諦めるわけにはいかなかった。


「まだ立てるのかい……エルフの体力は底知れないねぇ」


アスモデウスはうんざりした様子でエルサを睨み付けた。

全身が震え、息も上がり、指で押されただけで倒れてしまいそうに見えた。

それでもエルサの闘志は熱く燃え上がりっていた。


「もう……私に残された力は少ない……だから……この一撃に全てを賭ける…… !」


震える両手で剣を握りしめ、アスモデウスをしっかりと睨みつける。


「君の事は忘れないよ……最後まで色欲に抗った女傑として、この胸に刻んでおく……」


アスモデウスは深く息を吸うと鋭い脚の鉤爪で大地を抉りながらエルサに襲い掛かった。


「うおおおおおおおおおおおお !!!」


ズバシャッ


エルサは一か八か、獣のような凄まじい怒声を上げながら大地を踏み締め、迫り来るアスモデウスの無防備な脇腹を狙い、風をぶった斬るように力一杯剣を振るい、渾身の一撃を叩き込んだ。


「がはっ !」


運が味方したのか、エルサの放った剣撃はアスモデウスの急所を深く斬り込んだ。

致命傷を負い、紅葉のように真っ赤な血を噴水のように溢れさせながらアスモデウスは崩れ落ちていった。

それと同時にエルサも最後の力を使いきり、その場に滑り込むように倒れた。


To Be Continued

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