第三百五十二話・追い詰められた色魔
アスモデウスの毒によって感度を最大限まで高められたエルサは執拗な責め苦に耐えかね、はしたなく悲鳴を上げていた。
「ああああああっ !」
肌にそっと触れられる度、ビクビクと激しい痙攣を起こした。
体温は高熱でも出たかのように上昇し、全身汗でびっしょり濡れていた。
「うっ……」
特殊な毒が全身に回ったのか、足に力が入らず、その場でうつ伏せに倒れ込むエルサ。
口元から涎がみっともなく垂れ、ピクピクと全身が痙攣していた。
「誇り高き騎士様が無様なものだねえ」
アスモデウスは爽やかに微笑みながら倒れるエルサを見下ろした。
「まだ……だ……」
火照る身体で震えながらもエルサは落ちた剣を拾おうと手を伸ばすが、力が入らない。
「これ以上苦しむ必要はないよ、黙って快楽に身を委ねれば良い……」
アスモデウスは無情にも彼女の目の前で剣を拾い上げた。
「剣を失った剣士はただの人……最早抗う力は残っていない……勝負あったね」
アスモデウスは手を伸ばし、彼女に触れようとした。
だがその時、エルサの手がアスモデウスを弾いた。
「うん ?」
「見くびってもらっては……困るな……私はまだ……負けてない……ぞ……」
エルサは全身が火照り、痙攣しながらゆっくりと立ち上がった。
「すごいね、こんなに耐えてる女性は君が初めてだよ」
思わず興奮するアスモデウス。
だがエルサは全身震え、立っているのがやっとの状態だ。
「でもそんな様でまともに僕と戦えるの? 君の身体は僕の毒が蝕んでるんだよ ?」
「すぐに治すさ、気合いでな……」
そう言うとエルサは手を振り上げ、剣の形を作ると脇腹に勢い良く突き刺した。
「うっ…… !」
激痛が走り、顔を歪ませるエルサ。
刺された箇所から生々しく赤い液体が滴る。
口からも血が垂れていた。
「な……何をしてるんだい、自分の身体はもっと大切にしないと !」
アスモデウスは大慌てで彼女の体を労った。
「これで良いんだ、お陰でスッキリした……」
エルサは先程までの醜態が嘘のように凛々しい顔つきになり、胸を堂々と張りながら戦闘の構えを取った。
並外れた精神力に加え、強烈な痛みを与えることで身体の支配を快楽から激痛へと塗り替えた。
「はぁ……はぁ……」
「何て事だ、無理矢理痛みで快楽を忘れさせるなんて……やっぱり君は強い……」
アスモデウスはエルサから奪った剣をこれみよがしに見せつける。
「だが剣が無ければ君は少女と変わらない、僕と戦う事も出来ないよ」
「……ふん、いつまでそれを握っていられるか ?」
エルサは意味深な笑みを浮かべた。
その瞬間、アスモデウスの持っていた剣な黄金の輝きを放った。
「うわっ…… !」
眩しさに耐えかね、思わず剣を落としてしまうアスモデウス。
エルサはその隙を逃さず、滑り込むように即座に地面に落ちた剣を拾い上げた。
「この剣は聖なる獣・ユニコーンの角で造られている、君のような邪な心を持つ者は本来触れることすら出来ない !」
エルサは間髪入れずに攻撃に移り、取り戻した剣を振るい、怒濤の勢いでアスモデウスを攻め立てる。
アスモデウスは不意を突かれたことで反応が僅かに遅れ、風よりも速いエルサの剣撃
を防ぐので精一杯だった。
「くっ…… !」
「遅い! 神月疾風 !」
エルサは更に加速し、突風を巻き起こしながら舞を踊るように剣を振るい、アスモデウスを容赦なくズタズタに切り刻んだ。
血飛沫が飛び散り、アスモデウスは大の字に倒れ込んだ。
「はぁ……はぁ……うっ…… !」
エルサはダウンしているアスモデウスに追撃を加えようと剣を構えたが、自分で刺した脇腹がズキンッと痛み、思わず足を止め、その場で脇腹を抑えながら膝をついた。
それだけでは無い、痛みで誤魔化していたものの、身体にはまだ快楽が残っていた。
「無理しない方が良いよ、君の身体は万全じゃない、その状態で魔王である僕と戦えるはずがない」
「こんなもの、大した痛みじゃない……気合いでどうとでもなる !」
エルサは痛みを堪え、強靭な精神力で耐え、ふらつきながら立ち上がった。
「はぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
エルサは空気がビリビリする程の唸り声を上げながら全身に力を込めた。
手に持っている剣は黄金の光を放ちながら竜巻を纏い始めた。
「超過する一太刀 !」
エルサは凄まじい気迫で剣を縦に振り下ろし、アスモデウスを一刀両断しようとした。
アスモデウスは彼女の放つ一撃を防ごうと身構え、剣で受け止めようとしたが、エルサの勢いは止められず、打ち破られてしまった。
「ぐわぁぁぁぁぁ !!!」
エルサの剣はアスモデウスの身体に強烈な一太刀を浴びせた。
溢れんばかりの鮮血を撒き散らしながらアスモデウスは重傷を負い、大の字になりながら地面に叩きつけられた。
「う……馬鹿な……僕が……」
息を切らしながらアスモデウスは傷口に触れ、血のついた手のひらを眺めた。
「まずい……このままじゃ死ぬ……まだハーレムを作ってないのに……こうなったら……あの姿に……いやでも……」
真っ赤な血で大地が染まっていく中、アスモデウスは葛藤していた。
死への恐怖、未練、傷つけられたプライド……アスモデウスから余裕が消えたのが分かった。
「はぁ……はぁ……ここまでだ、アスモデウス」
とどめを刺そうとエルサは倒れるアスモデウスに近付き、剣を振り上げる。
「ふふ、背に腹は替えられない……もうやけだ !」
アスモデウスは覚悟を決め、不気味に両眼を開眼させた。
その瞬間、アスモデウスの身体が紫色の禍々しい障気に包み込まれた。
エルサは異変を察知し、口を覆いながらアスモデウスから離れた。
形勢逆転と思われたが、追い詰められたアスモデウスは更なる奥の手を隠し持っていた。
To Be Continued




