第三百四十八話・ガイ襲来
ルーシーと囚人達の奮闘により、怠惰の魔王・ベルフェゴールは遂に倒れ、ガメロット城の防衛に成功した。
ルーシー一人の力だけでは決して勝つことは出来なかった。
誘惑に負けない屈強な心、そしてヴェロスを始めとする囚人達との連携により、勝利を掴み取れたのだ。
ベルフェゴールが倒れたことで、七人の魔王のうち、三人が倒された。
残る魔王は後四人だ。
囚人達はベルフェゴールとの死闘で心身共に疲弊しきっており、城の前でバテていた。
連戦に次ぐ連戦でこれ以上戦えるだけの魔力は残っていなかった。
ゴードやオーバ、ガギ、魔術師達もベルフェゴールのいちげきで重傷を負っていた。
「はぁ……はぁ……まあ魔王軍を撤退させたんだ、働きとしては充分だろ」
ヴェロスはドッと疲れが押し寄せてきたのか、その場で勢い良く座り込んだ。
「良くやったな、ルーシー、お手柄だったぜ」
ヴェロスは穏やかな表情で微笑みながらルーシーを見上げた。
以前のような冷酷さは鳴りを潜め、弟達と暮らしていた時の優しさに満ちていた。
ルーシーは照れ臭くなり、頬を赤く染めながらそっぽを向いた。
「それにしても、久し振りですねルーシー」
「ちゃんと元気にやれてる ?」
アイリとサシャがルーシーに近付き、気さくに話し掛けてきた。
「うん、何とかやっていけてるよ」
ルーシーは複雑な思いを抱きながらも笑みを浮かべた。
多くの仲間が捕まる中、自分一人だけが自由の身であることに少し罪悪感を抱いていたからだ。
「なら安心したわ」
「ルーシーなら何処に行っても大丈夫そうですね」
サシャとアイリはルーシーを見つめながら微笑んだ。
「しかし……魔王一人倒すだけでこれほどまで力を消費するとは……」
「寧ろ良く勝てたぜ……相手が一人だったから良かったものの……こんな化け物が七人もいるとか、どうなってんだ魔界は……」
ゴード達は疲れきった様子で愚痴を溢した。
城の防衛に成功し、魔王軍を撤退させたものの、まだまだ脅威が終わったわけでは無い。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん達が各地で他の魔王軍と戦ってる……それに都市部であるガメロットを守り抜けたのは大きいよ」
ルーシーは全員にそう話した。
彼女の言う通り、ガメロットが魔王軍の手に堕ちたら最悪の事態になっていたかも知れない。
囚人達は表ものの活躍を果たしてくれた。
「それじゃ、一旦、城に上がらせてもらうか、体力を回復させてえしな」
「またいつ魔王軍がやってくるか分からんしな」
囚人達は重い腰を上げ、フラフラになりながらガメロット城の中へと向かっていった。
「ルーシー、お前も来るか」
「……いや、お姉ちゃんが心配だから、助太刀に行くよ」
ルーシーはヴェロスの誘いを断った。
本音はもう少し一緒に居たかったが、姉のことが気がかりで仕方がなかった。
「そうか……気をつけろよ」
ヴェロスは優しく囁くように言うと囚人達を引き連れ、城に入っていった。
「よし、行くか! まだ僕は戦える !」
ルーシーは足元に転がっていた緑色のオーブを拾うと口笛を吹き、中型の移動用のドラゴンを呼び出した。
ドラゴンの背中に跨がり、、急いで姉の元へと飛び立っていった。
こうして、王都ガメロットを舞台とした、怠惰の魔王ベルフェゴールとの戦いは幕を下ろした。
グレンやルーシー達と別れた後、エルサ、マルク、爬虫の騎士団はそれぞれ各地で魔王軍と交戦し、侵攻を食い止めていた。
王都ガメロットに軍の大半が集中していたとは言え、各地に分散した軍勢はキリが無く、途方も無い消耗戦が続いた。
「はぁ……はぁ……いつまで続くんだこれは…… ?」
ラゴンを始めとする爬虫の騎士団のメンバーは王都ガメロットからだいぶ離れた都市ボルタニアにて魔王軍の兵士達一掃していた。
ラゴン達は里での厳しい修行を経て、かなりのパワーアップを遂げていた為、次から次へと泉のように湧いてくる兵士達を相手に無双していったが、長時間戦っていくうちに精神的に参っていた。
ラゴンを除いては。
「おいおい、しっかりしてくれよ、まだまだこんなにいるんだぜ ?」
倒れていった兵士達の積み重なった山に腰掛けながらラゴンは余裕そうに仲間達を鼓舞した。
「お前は相変わらずの化け物だな」
「呆れるくらい体力馬鹿ね」
メリッサ達はラゴンの底の知れなさに思わず苦笑をした。
彼にとっては戦闘は食事と同等だった。
体を動かさなければ死ぬと思われるくらいだ。
「流石竜族……」
「小人数でこの強さ……どうやって倒せって言うんだよ…… !」
生き残った兵士達は武器を構えながらラゴン達を囲むものの、戦意を失いつつあった。
ラゴン達の放つ圧倒的な威圧感に気圧され、腰が引けていた。
「悪いことは言わん、さっさと魔界へ消えろ、これ以上の戦いは不毛だ」
ゴルゴは落ち着いた口調で諭すように兵士達に告げた。
元々彼は魔王軍の四天王だった。
今はもう敵対しているとは言え、これ以上かつての部下達を傷付けるのは気が引けた。
「うう……ゴルゴ様…… !」
「我々を裏切るなんて……何故…… !」
歯を食い縛りながらも身を引こうとする兵士達。
だがその時、空から巨大な竜が風圧を巻き起こしながら襲来した。
残された兵士達は風圧に巻き込まれ、悲鳴を上げながら四方八方に吹き飛ばされていった。
「何よ急に…… !」
ララは大地に降り立った巨大な四足歩行の竜を間近で見て戦慄した。
禍々しく全てを喰らい尽くす強大な魔力を肌で感じた。
「貴様は…… !」
ゴルゴは驚いた様子で竜を見つめた。
どうやらこの竜の事を知っているようだった。
竜の青い瞳は知性を感じさせ、ただ暴れるだけのモンスターで無いことが分かった。
「久し振りだなゴルゴ……我が後釜よ……」
竜は響くようなバリトンボイスで話を始めた。
「おいおい、結構強そうな奴が来たじゃねえか! 誰なんだよ !」
ラゴンは謎の竜に興味を抱き、兵士達の山から降りるとゴルゴに尋ねた。
「あいつはガルグイユのガイ……かつて魔界四天王の一人と呼ばれた男だ……俺が生まれる前のな……」
ゴルゴは神妙な面持ちで説明をした。
「よく見たらアンタの竜人形態によく似てるわね」
メリッサとララはガイとゴルゴを見比べながら言った。
「それもそのはずだ……ガイの姿を模して俺が造られたんだからな」
ゴルゴは自嘲気味に話した。
ガーゴイルであるゴルゴのオリジンがガイなのだ。
かつて勇者に倒されたはずのガイが現代に蘇り、同じ竜族である爬虫の騎士団達と運命の邂逅を果たしてしまった。
そしてゴルゴは先代であるガイとの再会に複雑な思いを抱いた。
「魔王様の命令でこの外界に来てやったぞ、城に籠ってばかりで退屈だったからな、存分に暴れてやる !」
ガイは既に竜の姿へ変身しており、最初からフルパワーだった。
ガイは昔から暴れん坊で魔王サタンも手を焼く程だった。
四天王きっての問題児である。
「竜族か…… 準備運動には丁度良い、それにゴルゴ、裏切り者の貴様をこの手で粛清してやる !」
ガイはゴルゴに殺意を向けながら言い放った。
彼の咆哮だけで風圧が巻き起こり、大気がピリピリした。
「こんな強い奴と戦えるなんてワクワクが止まらねえぜ! 四天王とやり合うのは初めてじゃねえんだ、今回も楽しませてもらうぜ !」
四天王を前にしてもラゴンは怖じ気づくこと無く、寧ろ気持ちを昂らせていた。
戦闘体勢に入るラゴンに続いてメリッサ、ザルド、ララ、ゴルゴもそれぞれ構えを取った。
竜族対元魔界四天王ガイ……。
ラゴン達はゴルゴのオリジンと言える古代の竜を相手にどう戦うのか……。
To Be Continued
 




