第三百四十六話・反撃の囚人達
「おーい、元気かーい」
ここはうって変わって現実世界。
ベルフェゴールの力により、ルーシーや囚人達は眠りにつかされていた。
気持ち良さそうに眠るヴェロスとルーシーに近付きながらベルフェゴールは呼び掛けた。
すやすやと吐息だけが小さく聞こえる。
「はぁ……もう終わりだね、そろそろ城に入らせてもらうよ」
すっかり興醒めしたベルフェゴールは振り返り、城の方へと歩き出そうとした。
最早彼女に刃向かえる骨のある存在はここにはいない、そう確信した……。
ガシッ
ベルフェゴールの両足首がガシッと力強く掴まれた。
一瞬驚いて振り向くとヴェロスとルーシーが這いつくばりながらベルフェゴールの足首を掴んでいた。
「お……おはよう、まさかもう目覚めるなんてね」
ベルフェゴールは意外そうに驚いていたがまだまだ余裕を持っていた。
ヴェロスとルーシーはベルフェゴールの足首から手を離し、彼女の眼前でヌッと立ち上がった。
「お陰で目覚めが良いんだ、朝のウォーミングアップを手伝ってくれよ」
「全力でね」
ルーシーは鞘から剣を抜き、ベルフェゴールの目の前に刃を突き付けた。
ヴェロスは全身に力を込め、腕だけで無く、完全に獣人化し、三つの首を持つ獣・ケルベロスへと覚醒した。
「やれやれ、現代人は哀れだね、このままずっと眠っていれば良かったのに……それにたった二人で私に勝てるとでも ?」
ベルフェゴールはやれやれと呆れながら手振りをした。
「二人だけだと思う ?」
ルーシーが不敵な笑みを浮かべる。
その瞬間、彼女の背後にズラーっと目覚めた他の囚人達が立ち並んでいた。
「いやぁ良く寝たぞ、久々に良い夢を見れた」
「久しぶりにロウと会ったぜ、元気そうでなによりだ !」
オーバ、ゴードは上機嫌の様子だった。
「私は世界中の男共を手玉に取ってる夢を見てたわ、もう少し夢見てたかったけどね」
「我が故郷である雪国の銀世界……何もかも懐かしかったです……幼少の頃に戻った気分でした」
アイリ、サシャも名残惜しそうにしていた。
「俺は逆にウエンツに説教されちまったな……早く目を覚ませって」
「俺達も同じ夢を見たぜ」
「夢に浸ってる場合ではないですね」
魔術師達は夢の中の存在であるはずのウエンツに喝を入れられた。
亡き親友に背中を押され、寂しさを感じながらも前を向くコルト達。
ウエンツは死してなお彼らを見守っていてくれた。
「世界中の学者達を膝まづかせ、我が天才的な科学力を思い知らせる……素晴らしい夢だった……だが所詮はあの女が作った虚構、虚無 !」
グラッケンはフライの後ろに隠れながら、ベルフェゴールに指を差した。
「はぁ……どいつもこいつも哀れだね……辛い現実にわざわざ戻ってくるなんて……」
「勝手に辛いって決めつけないで !」
ベルフェゴールの言葉を遮り、ルーシーは吠えた。
「僕は今幸せだよ! 僕には仲間が沢山いる! どんな辛いことだって皆と乗り越えて見せる !」
「はぁ……熱苦しいのは嫌いだよ、こうなったらさっさと全員倒して仕事終わらせるか」
ベルフェゴールはあくびをしながら両腕を伸ばし、気だるそうに戦闘体勢に入った。
「お前ら、行くぞ !」
「「「おお !」」」
ヴェロスの掛け声と共にルーシー含む囚人達は一斉にベルフェゴールに攻撃を仕掛けた。
先陣を切ったのは闇ギルド三幹部のゴード、オーバ、ガギ。
身軽で素早いゴードは双剣を巧みに使いこなし、神速でベルフェゴールを切り刻んでゆく。
ガギとオーバはゴードに続き、巨大な大剣と棍棒を振り上げ、ベルフェゴールの頭上に勢い良く叩きつけた。
「こんなもんか……」
だが直撃したにも関わらず、ベルフェゴールは無傷だった。
退屈そうに三人を睨み、回し蹴りを素早く繰り出し、一掃した。
「次は俺達だぜ !ぬおおおお !」
コルトは全員を鼓舞しながら全身を頑丈な金属の鎧で覆い、硬く拳を握りながら彼女の顔面に盛大にパンチを打ち込んだ。
鈍い金属音が響き、ベルフェゴールの頬が
クレーターのように歪む。
多少なりともダメージは入っているようだ。
「動きを止めたぞ! 今だ !」
「おう !」
魔術師達は呪文を唱え、一斉に魔法を発動した。
蛇のように無数の樹木を操り、ベルフェゴールを叩きつけ、更に有象無象の虫達を使役し、彼女を襲わせる。
絶え間なく攻撃が打ち込まれ、流石の彼女も万事休す……かに思われたが。
「魔術師なんて所詮魔女の血が薄まった劣化でしかないんだよ」
ベルフェゴールは巨大なバリアーを膨張させ、触手と虫達を払いのけた。
「じゃあ怠け者のてめえに俺の動きが読めるか ?」
ゾーラは体を透明化させながら彼女の周辺を動き回り、翻弄する作戦に出た。
彼女の目の前で消えたり現れたりを繰り返す。
だがそんな小細工はベルフェゴールにはお見通しだった。
「邪魔」
ゴンッ
高速でパンチが伸び、ゾーラの顔面を突き刺す。
ゾーラは泡を吹きながら大の字に倒れた。
「俺達じゃ力不足だぜ……」
「全く、魔術師共が揃いも揃って呆れたものだな」
コルト達を貶しながらグラッケンが前に出た。
「んだよコソコソ隠れてるだけのおっさん」
「黙れガキ! この私が真の科学の力というものを見せてやろう、いでよスライ分身体 !」
グラッケンは大声を張り上げ、三人のスライムを召喚した。
オリジナルであるスライのコピーで、姿こそ本物と酷似しているものの、性能は明らかに劣化している。
「スライさえいてくれれば敵なしだったが、まあ良いだろう……お前達、あの小娘を葬ってしまえ !」
尊大な態度で命令するグラッケン。
スライ分身体達は機械的ながらも命令に従い、ベルフェゴールに向かった。
「命に対する冒涜だね……」
「ほざけ、科学の力は時に神をも凌駕するのだ !」
分身体達は蛙のようにジャンプし、ベルフェゴールに飛びかかった。
「気持ち悪いな、消してやるよ」
ベルフェゴールは手のひらからエネルギー弾を放ち、分身体達の体に穴を開けた。
だが痛覚など微塵も感じない彼らには通じなかった。
「合体しろ !」
グラッケンは薄気味悪いくらい不敵な笑みを浮かべた。
三人いた分身達は互いに融合してくっつき、モゴモゴと空中で蠢き、やがて巨大な水色の塊となった。
「覆い被され !」
巨大な塊と化した分身達はベルフェゴールを頭から飲み込むようにのしかかった。
体内が水中のような構造になっており、体内に閉じ込められたベルフェゴールは窒息しないよう息を止めた。
「いつまでその余裕が続くかな? さあ、今だ魔族共! 」
意気揚々と追撃を促すグラッケン。
他の囚人達はじと目で彼を見つめていた。
「仕方ありません、あのような小物に命令されるのは癪ですが、好都合です !」
アイリは氷の魔法を発動させた。
あっという間にベルフェゴールをスライ分身体ごとカチカチに氷漬けにしてしまった。
「ふふ、良い様ですよベルフェゴールさん」
アイリは袖で口元を隠しながら微笑んだ。
「よし、動けなくなった今がチャンスだ !」
「うん !」
フライ、ヴェロス、ルーシーの三人は武器を構え、一斉に身動きの取れないベルフェゴールに突撃していった。
To Be Continued




