第三百四十二話・再会する義兄妹
軍勢を物ともせずに無双し続けた囚人達は怠惰の魔王・ベルフェゴールの力によって無力化させられた。
ゴードにオーバ……フライにアイリ……ほぼ全員がその場に倒れ、夢の世界に浸っていた。
唯一難を逃れたのはヴェロスただ一人。
単身でベルフェゴールに挑みかかる。
「はぁぁぁぁ !」
ヴェロスは両腕を狼の腕へと変化させ、獣のような荒々しい野生的な戦闘スタイルで俊敏に動き回り、ベルフェゴールに攻撃を仕掛ける。
「後は君一人を倒せばこのガメロット城は完全攻略だね、最初から兵士達なんて必要無かったみたい」
「簡単にはやられんぞ、俺は」
ヴェロスは鋼鉄をも砕く鋭い爪を振り上げ、ベルフェゴールを切り裂く。
元々ヴェロスは人狼で素早さの高い獣人だった。
魔導師デビッドによって強化改造され、かつての魔王軍幹部の中でもトップクラスのスピードを誇っていた。
だがベルフェゴールはそんな彼を嘲笑うかのように素早い身のこなしで全ての攻撃を悉くかわし続けた。
どれだけ爪を振り下ろしてもベルフェゴールには掠りもしなかった。
「ちっ……やはり幹部クラスと魔王では壁が大きすぎたか……」
ヴェロスは一旦距離を離れようと攻撃を中止し、後退を試みた。
だが今度はベルフェゴールがヴェロスの腕を掴む。
「君にも見せてあげる……永遠の楽園を」
ベルフェゴールはねっとりと両手でヴェロスの頭を挟み、顔を近付け、あどけなさの残る笑みを浮かべた。
彼女の魔法がヴェロスの思考を支配する……その時……。
ブオオオオオオ
突如暴風が巻き起こり、ベルフェゴールを狙うように直撃してきた。
ベルフェゴールとヴェロスは寸での所で回避し、距離を取った。
「この暴風……まさか……」
ヴェロスが振り返ると、そこにはかつて同じ魔王軍の幹部として働いていた同志……ダークエルフのルーシーの姿があった。
「はぁ……はぁ……お兄ちゃん……」
「……ルーシー……」
ヴェロスは驚いた様子でルーシーの顔を見つめた。
ルーシーもまた信じられないような顔をしていた。
「お兄ちゃん……なんでここにいるの? もう出られないんじゃ……」
「色々あってな……奉仕活動中だ……お前も暫く見ないうちに随分と逞しくなったな」
ヴェロスはルーシーの顔を見つめながら微笑みかけた。
「馬鹿……もう会えないって思ってたじゃん」
ルーシーは涙を浮かべながらヴェロスの胸を叩いた。
「すまなかったな……ルーシー……」
ヴェロスは泣きじゃくるルーシーを抱き締めようと腕を伸ばしたが寸での所で思い留まった。
今の自分に彼女に触れる資格は無い、そう思ったからだ。
「俺だけじゃない、他の囚人達も人間共に命令され、魔王軍討伐に駆り出された」
ヴェロスは揃いも揃って大地に横たわっている囚人達に目をやった。
「フライにアイリ、サシャもいる……! てゾーラもいるんだ……」
ルーシーは倒れていたゾーラに気付き、苦々しい表情で彼の寝顔を眺めた。
以前敵対した時にゾーラによってボコボコにやられ、重傷を負わされた苦い思い出があった。
「侵略して来た魔王軍兵士共を殆ど壊滅させたのは良いが、厄介な事に魔王が現れてな……」
ヴェロスは人差し指でベルフェゴールを差した。
「彼女は怠惰の魔王ベルフェゴール、皆あいつの能力によって夢を見させられている」
「精神干渉系の敵なんだね」
ルーシーはベルフェゴールを睨みながら剣を抜いた。
鋭い眼光を放ち、ベルフェゴールを威圧する。
「ダークエルフが今更援軍に来た所で結果は変わらないよ、丁度良い、君達にも夢を見せてあげる」
ベルフェゴールはルーシーの威圧を物ともせずに余裕の態度を崩さなかった。
「今俺達が倒れたら、ガメロット城は魔王共の手に堕ちる……分かってるな」
「うん……僕は絶対に負けられない !」
ルーシーとヴェロスは戦闘体制に入った。
かつて魔王軍幹部だった二人が再び共闘する。
ルーシーは兄と慕っていた男と再会出来て内心嬉しかった。
「悪いけど、そろそろ終わりにするよ」
ベルフェゴールは手のひらにエネルギーを集めて始めた。
エメラルドのような緑色の輝きを放っている。
「おやすみ」
ベルフェゴールは一瞬で二人の目の前まで距離を詰めた。
二人は咄嗟に攻撃に移ろうとしたが遅かった。
ベルフェゴールは瞬きすら許さぬ速さでヴェロスとルーシーの顔面に手のひらを被せた。
その瞬間、二人の目の前は真っ暗な暗闇に覆われた。
To Be Continued
 




