第三百三十一話・強欲のマモン
魔王城の大部屋にて、魔王達は引き続き水晶を眺め、マモンの様子を監視していた。
サタンはマモンの目的を知り、ニヤリとほくそ笑んでいた。
「あの鳥め……まさか聖霊女王を連れ去ろうとしていたとはな……」
「でもロマンチックじゃない? 魔王と聖霊の恋なんてさ」
レヴィアタンはうっとりとした様子で想いを馳せていた。
「でも……サタンは昔聖霊の森を襲って……マモンが怒った……」
ベルフェゴールはボソッと呟いた。
「アンタもしかして、マモンが聖霊女王のこと好きなの知ってて森を襲ったの ?」
レヴィアタンはじと目でサタンを問い詰めるが上手くはぐらかされた。
「まさか……だがこれは好都合だな……女王は聖霊の森と強い力で繋がっている……謂わば核のような存在だ……その繋がりを断ち切れば、たちまちのうちに森は力を失い、朽ち果てる……」
「つまり、マモンが女王を森から奪えば、聖霊の森の聖霊達も皆滅ぶ……ということか」
ルシファーは静かなトーンで言った。
「そうだ……奴等は何度襲ってもしぶとく生き延び、森を再生させてきた……聖霊の存在は目障りだ、さっさと消えてもらおう」
ニタリと邪悪な笑みを浮かべながら水晶を間近で見つめるサタン。
レヴィアタンは軽く引いていた。
「はあ……私もそろそろ出掛けるね」
「アタシも」
唐突にベルフェゴールとベルゼブブは玉座から立ち上がり、部屋を出ようとした。
「お前達、一応聞いておくが、何処に行くつもりだ」
ルシファーは厳しげな表情で二人に問いかけた。
「何かマモンの戦い見てたらアタシ達も戦いたくなってきたのよね」
「適度な運動は……良い睡眠になる……」
「そうか……」
ベルフェゴールとベルゼブブはマモンに触発され、じっとしていられなくなっていた。
二人は退室し、サタンとレヴィアタンとルシファーとアスモデウスだけが残った。
「では我々だけでマモンの顛末を見守るとしよう……」
聖霊の森最深部を舞台にマモンとの激戦が行われていた。
マモンの目的は聖霊女王そのもの、彼女が森から消えれば森は生命力を失い、滅んでしまう。
何としてでもマモンを止めなければならなかった。
だが強欲の魔王と呼ばれるだけあってその実力は三人の上級聖霊を手玉に取れるレベル。
ミライが助太刀に加わったが勝てる保証は無かった。
「たたたた~ !」
ミライは飛び上がりながらマモンに接近し、樹木をも抉る脚の鈎爪で引っ掻きながら何度も蹴り技を繰り出した。
マモンは両腕をクロスさせ、ミライの連続攻撃を防ぎ続けた。
「うう~固いよ~ !」
マモンの腕は石のように頑丈で引っ掻いていた爪の方が欠けるくらいだった。
「所詮はハーピー……弱小種族が我々の戦いに土足で踏み込んで来るな !」
マモンはミライの脚を掴むと力任せに振り回し、近くにあった樹木に叩きつけた。
「きゃっ !」
「野郎 !」
ジンは全身に竜巻を纏い、加速しながらマモンに突撃し、攻撃を仕掛けた。
だがマモンはジンを遥かに上回るスピードで怒濤の攻撃をかわした。
「くそぉ! 当たらねえ !」
「何度挑んでも無駄だ」
マモンは神速の如くパンチを繰り出し、ジンの顔面を直撃させ、たった一撃で長距離まで吹っ飛ばした。
次はリアとサラが立ち向かう。
「植物狩人 !」
リアが叫ぶと地面から巨大な樹木が突き破りながら無数に生え、生きてるかのようにマモン目掛けて一斉に襲いかかり、殴打しようとした。
「ほう……」
無数の樹木は蛇のようにしならせながらペチペチとマモンを袋叩きにした。
衝撃で土埃が嵐のように巻き起こり、土砂が四方八方に飛び散った。
だがマモンは直撃を喰らいながらもピンピンしており、樹木を突き破りながら空へと高くジャンプした。
「水球体 !」
サラは天を見上げながら小さな水の球体を無数に放った。
水の球体は自由自在に空中をスイスイ泳ぐようにマモンに向かっていった。
「ふんっ !」
マモンは鋭く手刀を振り下ろし、水の球体を弾いた。
だが水の球体は触れた瞬間にシャボン玉のように破裂し、巨大な波となってマモンに降りかかった。
「何…… ! 小賢しい技を…… !」
全身ずぶ濡れになり、マモンは空中でバランスを崩し、地面へと落下した。
落下した衝撃で多少なりともダメージが入ったが、マモンはすぐさま立ち上がった。
しかし四人がかりでこれだけ攻撃しても決定打には繋がらなかった。
マモンは特に厄介な特殊能力を使っているわけではなく、シンプルに高い身体能力を持っていた。
この男は七人の魔王の一人、簡単に倒せる程甘い相手ではない。
「やっぱり私達じゃ勝てないよ……」
「諦めるな……あいつを倒さねえと、この森は守れねえ !」
ジン達は再び拳を握り、戦闘の構えを取る。
森全体に息が詰まるほどの緊迫した空気が張り詰められた。
「最後に勝つのは欲の強い者……私の彼女への愛はお前達の森を守りたいという思いよりも遥かに上だ……」
マモンは水が滴りながら静かに語った。
「そうかな~、私達の思いも負けてないと思うよ~」
樹木に背中を打ち付けた痛みに耐えながらミライはフラフラと立ち上がった。
「皆~、行くよ~ !」
「「「うおおおおおおおお !!!」」」
ミライの掛け声と共に四人は雄叫びを上げながら一斉にマモンに飛びかかった。
四人はマモンとの間合いを詰め、一子乱れぬ攻撃を絶え間なく繰り出す。
「くだらん……」
マモンは鼻で笑い、眼力だけで巨大な風圧を巻き起こし、四人を一掃した。
吹き飛ばされ、全身泥に汚れながら大地を転がるリアとサラ。
ジンは着地して体勢を立て直し、ミライも風圧に巻き込まれながらも空へと避難した。
「はぁ……はぁ……やっぱ強いな……」
ジンは魔王サタンに敗れてから数千年、敗北の悔しさを糧に必死に修行し、森を守れるだけの強さを身に付けた。
だがそれでもマモンは次元が違った。
どれだけ足掻いても越えられない壁がそびえ立つ……。
「私は強欲の魔王……欲しいものはどんな手を使っても手に入れて来た……それほどまでの執念がお前達には足りない…… !」
マモンは深呼吸をすると空気を突き破るような勢いで走り、ジンに急接近した。
「くっ !」
「無駄だ」
咄嗟に身構えるジンだが僅かに反応が遅れた。
マモンは素早く回し蹴りを繰り出しジンの守りを崩壊させる。
「ジンさ~ん !」
体勢を崩したジンにマモンは更に追撃を仕掛ける。
重く鋭いパンチを高速で放ち、無防備なジンを一方的に殴り続けた。
「がはっ !」
全身に重く速い殴打を浴び、血を吐きながらジンは膝をつき、崩れ落ちた。
「く……くそったれ……防御も……速さも……攻撃も……何もかもが馬鹿みてえに高すぎる……欲張りやがって……」
地べたの泥を握りながら負け惜しみをぶちまけるジン。
「当然だ……私は強欲の魔王だからな」
マモンはジンにとどめを刺そうと手を振り上げた。
片手に魔力が集まっていく。
「銀の翼 !」
ミライは翼を銀色の金属のように硬化させながらマモン目掛けて空中から急降下した。
マモンはすぐに気付き、その場から素早い身のこなしで離れた。
「だ、大丈夫~ ?」
「ああ……何とかな……」
ミライの差し出した手を掴みながらジンは立ち上がった。
「でも……あいつは強すぎる……俺達の力じゃどう頑張っても……」
諦めかけているジンに対してミライは首を横に振った。
「私見つけちゃった~、マモンの攻略法~」
ミライな緊迫した状況とは思えない満面の笑顔を浮かべた。
To Be Continued




