第三百三十話・マモンが欲しいもの
強欲の魔王、マモンの力はあまりにも強大だった。
聖霊達はなす術無く圧倒され力尽き、無念にもマモンの足元に転がっていた。
「う……」
呻き声を上げながらボロボロの状態で地べたに這いつくばる三人。
聖霊達が三人束になってもマモンには傷一つつけられなかった。
「愚かだな……こんな森を守る為に命をかけるとは……」
興味を無くしたのか、マモンは倒れている三人を放って先へ進み始めた。
森の奥にはか弱き妖精達と森を治める長・聖霊女王がいる。
「行かせねえ……」
ジンは僅かな体力で必死に腕を伸ばすか、マモンには届かない。
マモンは振り返りもせずに更に奥へと進んでいった。
聖霊の森の奥地には聖霊女王を始め、無力な妖精達が匿われていた。
女王の力は日に日に弱っていた。
森を守る結界も魔物に簡単に侵入されるようになっていた。
「はぁ……はぁ……」
聖霊女王はすっかりやつれ、切り株に横たわりながら疲労困憊で苦しそうに息を切らしていた。
「聖霊女王様……大丈夫ですか…… ?」
手のひら程の大きさの妖精達が心配そうに女王に寄り添う。
女王はまるで病人のように弱り切っており、立っているのも辛い状況だった。
「すまんな……私は大丈夫だ……」
妖精達を心配させまいと無理矢理にでも笑顔を繕う女王。
だがそれもいつまで続くか分からなかった。
女王は数千年もの間、己の身を削りながら森全体を包み込む結界を維持し続けた。
だが長い時を経て遂に限界が訪れようとしていた。
「この森に危機が迫っている……最早私の力ではどうにもならない……」
女王は森に強大な魔力を持った侵入者が現れたことを察知した。
上級聖霊が束になっても勝てない相手だ。
そこで女王はかつて森を訪れたことのある信頼出来る友に念を送り、救援を要請した。
女王と絆を結んだ者だけが彼女の心の声を
聴くことが出来る。
「頼む……来てくれ……このままでは聖霊の森は滅んでしまう……」
全身が汗だくになりながら女王は祈った。
「久しぶりだな……聖霊女王……いや、ティア……」
「 !?」
突然男の声が森の最深部全体に響き渡った。
女王はギョッと驚愕し、後ろを振り向くと鳥の頭をした細身で半裸の青年がいつの間にかそこに立っていた。
強欲の魔王・マモンだ。
「聖霊女王様…… !」
妖精達はマモンから放たれる凶悪なオーラに怯え、一斉に樹木を盾にして隠れた。
「ま……マモン……」
女王の声は震えていた。
だがそれは恐怖などでは無く、どちらかと言うと喜びに近いものだった。
「会いたかった……やっと会えた……」
マモンは女王の顔を見つめながら微笑んだ。
女王もマモンの顔を見て安堵したのか穏やかな表情になった。
「ど、どういうことだ…… ?」
「聖霊女王様とあの男……何か知り合いみたいだぞ…… ?」
侵入者と女王が見つめ合い、仲良さそうな様子に妖精達は疑問を抱いていた。
「森に凶悪な魔力を持った者が侵入したと思ったら……お前だったのか……驚かすなよ」
「君こそ、私の気配すら気付けないくらい弱っていたなんて……」
マモンは哀れみの表情を浮かべながら女王の元へ近付いた。
「じ、女王様に近付くな !」
マモンの前に小さな妖精の一人が勇気を持って立ちはだかる。
だがマモンは蝿を追い払うように手を扇ぎ、妖精を吹き飛ばした。
「…………」
無防備に横たわって動けない女王に近付き、膝をつくマモン。
「ティア、いつまで森に縛られているつもりだ……このままだと君は森に命を吸われ、死んでしまうぞ」
マモンは優しく語りかける。
「でも……私が居なければ……この森は……滅んでしまう……私には……森を守る使命があるんだ」
弱々しく掠れ切った声で女王は反論した。
マモンは瞼を閉じ、首を横に振る。
「そんな状態で何が出来る……君はもう長くない……私が君を重荷から解放してやる」
マモンは女王を抱き抱えながら立ち上がった。
「君をこの森から連れ出す……私と共に何処か平穏な場所で暮らそう」
「馬鹿な……やめろ……」
女王はじたばたとマモンの腕から逃れようとするが、抵抗できるだけの力は残っていなかった。
「私がこの森からいなくなれば……結界は消滅し、木々は枯れ果ててしまう……頼む……降ろしてくれ…… !」
「君がいなくなるだけで滅ぶような森なんて、さっさと滅ぶべきなんだ……これ以上君が苦しむ姿を見たくはない」
女王は必死に訴えるもマモンの決意は変わらなかった。
「私は強欲の魔王……この世で最も美しく価値のある宝を奪う……」
マモンは女王を連れて森から去ろうとした。
妖精達は涙ながらに女王様を返せと叫ぶ。
だがマモンは振り向きもせずに足を急いだ。
シュンッ
次の瞬間、目視できない速さで何者かが接近し、風のようにマモンを通りすぎていった。
「何…… ?」
マモンは我に返ると抱き抱えていた女王の姿は無かった。
慌てて振り返ると女王を優しく抱き抱えるミライの姿があった。
「お待たせ~、遅れてごめんね~」
「ミライ……来てくれたか……」
女王の顔を見下ろしながらミライは優しく微笑んだ。
女王も安堵の表情を浮かべた。
「ハーピーか……このわたしから宝を奪うとは良い度胸だな」
マモンは苛ついた様子でミライを睨み付けた。
「気を付けろ……彼は強欲の魔王・マモンだ……」
「分かってるよ~、それに~戦うのは私一人じゃないよ~」
ミライは笑顔で告げると、後に続いてジン、リア、サラの三人が駆けつけた。
先程まで動けないくらい重傷を負っていたのが嘘のように回復していた。
ミライが歌を歌ったことにより、三人の傷を回復させたのだ。
「聖霊女王様、ご無事ですか !」
「お前達……」
聖霊達は気を引き締めるとマモンを取り囲んだ。
「ちょっと卑怯だけど~これで四対一だよ~」
「ふん、面白い……」
マモンはニヤリと笑みを浮かべると腰を低く落として膝を曲げ、戦闘体勢に入った。
聖霊女王をかけて、ミライ&上級聖霊vsマモンの戦いが始まろうとしていた。
To Be Continued




