第三百二十八話・少し早い出発
魔王軍vs人類の戦いが激化する中、竜の里ではエルサ達の修行が続いていた。
来るべき魔王達との戦いに備え、今まで以上に厳しく過酷な修行に耐え、彼女達の身体能力や魔力は今までと比較にならない程鍛え上げられ、高められていた。
エルサ達は巨大な岩に腰掛けて休憩を取っていた。
そこへ、ラゴラスが手紙を持ちながら慌てて走り込んできた。
「ラゴラス村長」
「親父」
ラゴラスは皆の元に駆け寄ると息を切らしながら膝に手を置いた。
「はぁ……はぁ……これを読んでくれ……」
ラゴラスから手紙を受け取るとその場にいる全員は黙って読み始めた。
送り主はヒュウ。
村長達の反対を押し切り、ヴェルザードを助ける為に単身で魔王軍の根城に乗り込んでいった。
そんな彼からの連絡だった。
「何々…… ?魔王軍が全軍率いて人間界に侵攻を開始し、既に各国が植民地にされた…… ?」
「恐れていた事態が現実になっちまったようだな」
この場にいた全員は言葉を失い、頭を抱えた。
自分達が修行している間、外ではとんでもない事態が巻き起こっていた。
「このままじゃ皆が……! 今すぐ向かわなきゃ…… !」
「待て、修行はまだ終わってねえぞ !」
本来ならもう少し長く修行を続け、確実に強さを身に付ける予定だった。
だが想定していたよりも早く魔王軍の侵攻は進んでいた。
このまま戦場に出向いても奴等に敵う保証はない。
「だけどよ……もう修行なんかしてる時間ねえぞ !?」
マルクは焦りを見せながら訴えかけた。
「王国騎士団もとっくに壊滅してしまった……状況は絶望的……じゃが幸いヴェロス率いる囚人達が参戦し、軍に対抗しているようじゃ」
「お兄ちゃんが !?」
ルーシーの目の色が変わった。
彼女はヴェロスに最後の別れの挨拶を言えず、それがずっと心残りになっていた。
「あいつら、良く魔王軍と戦う気になったな」
クロスは感心した様子でコロナに語りかけた。
「でも……囚人達じゃ持ち堪えられないよ……」
「じゃな、数もそんなに多くないらしい……」
腕を組ながら眉間にシワを寄せ、村長は悩ましげな表情を浮かべた。
「やはり我々も加勢しに行くべきです」
「だな、今度こそ奴等と戦いてえ !」
エルサとラゴンは好戦的でやる気満々に闘志を燃やしていた。
「……うむ……分かった……ここでじっとしてても被害が大きくなるばかりじゃ……少し早いが、お前達に戦いに行ってもらおう」
神妙な面持ちで頭を下げるラゴラス。
「親父……」
「任せてください、必ず魔王軍を止めて見せます」
エルサはリーダーとして責任を持ち、命を懸けて魔王軍と戦い抜くことを村長達の前で誓った。
かくして外界の情勢を知った無限の(ユナイト)と爬虫の騎士団は里を出て魔王軍との戦に向かうこととなった。
リリィとエクレア、ラゴラスは例の如く留守番である。
リコも里一番の強さを持っていた為、一緒に魔王軍討伐に向かいたかったが、里の守りが薄くなる為、渋々残ることにした。
「皆さん、お気をつけて下さい、私が作り上げた最高級のポーションです、全員にお配りします」
薬剤師でもあるエクレアは戦いに出る者達全員に特製のポーションを配った。
四肢がもがれる程の重傷を負ったとしても即時に全快出来るという優れものである。
「本当にピンチになった時に飲んでください」
「ありがとうございます、エクレアさん」
エルサは感謝の気持ちを込め、頭を深々と下げた。
「お母さん、ありがとう……私頑張るね」
コロナは気恥ずかしそうにしながら小声で母に話しかけた。
「コロナ……何があっても、必ず生きて帰ってくるのよ」
エクレアは涙を浮かべながら優しくコロナを抱き締めた。
「あの……皆さん」
リリィは笑顔を取り繕いながらエルサに大量の弁当の入った籠を渡した。
「長旅になるでしょうから腕によりをかけて作っておきました」
「ありがとうリリィ」
「今すぐ食べたいくらいだよ~」
エルサは快く彼女から弁当を受け取った。
「……エルサさん、皆さん……お願いです……ご主人様を……助けてください……」
リリィは泣きたくなるのを堪えながら全員に頭を下げた。
「ああ、必ず助けるさ」
「あいつが居ねえとどうも調子が狂うからな、さっさと連れ戻してやるぜ」
心強い仲間達の言葉を信じ、リリィは涙を拭うと満面の笑顔を浮かべた。
「はい !」
「さ、皆行くぞ !」
エルサは指で口笛を吹き、魔方陣を作り出すと首の無い馬=シュヴァルを召喚し、颯爽と跨がった。
他の人達はライド用のドラゴンをラゴラスから借りた。
これで全員移動が楽になった。
「では行ってきます !」
「リコ、里のこと頼んだぜ !」
別れの挨拶を済ませるとエルサ達は颯爽と里を後にし、猛スピードで王都へと向かった。
一方強欲の魔王マモンは脅威的なスピードで遥か遠方にある聖霊の森にたどり着いた。
青々と生い茂る樹海の迷路を我が物顔で闊歩する。
彼から感じる邪悪な闇の魔力を察知し、小動物達は皆怯え、草むらに隠れて震えていた。
「変わらないな……ここも……」
マモンは機嫌の良くない顔で辺りを見回していた。
「そこの鳥頭野郎 !」
マモンを呼び止める声が聞こえた。
立ち止まって振り返ると民族衣装に身を包んだ青年が樹木に背をつけながら立っていた。
「小動物達が異変に怯えてると聞いて来てみれば、お前か……どうやって結界を破って侵入して来た」
鬼のような剣幕でマモンを問い詰める青年。
彼の名はジン。
リトの古くからの親友にして風の聖霊。
この神聖なる森の守護者である。
「聖霊か……何千年もこの森を守り続けて、ご苦労なことだ」
マモンは冷ややかな目をジンに向けた。
「貴様……何の用だ……貴様から感じる魔力……邪悪な魔族のものだな !」
警戒心を強めるジン。
マモンは余裕綽々な態度でジンを見下した。
「私は七大罪魔王が一人、強欲の魔王マモン……この森に隠された、財宝を奪いにやって来た」
マモンはニヤリと口角をつり上げた。
ジンは相手の正体が魔王だと知り、稲妻に撃たれたような衝撃が走り、背筋が凍った。
「お前には用は無い、痛い目に遭いたくなければさっさと消えろ」
「上等だ……魔王だろうが何だろうが、今の俺なら負けねえ !」
ジンは覚悟を決め、歯を食い縛りながら勇敢にもマモンに向かっていった。
To Be Continued
 




