第三百二十六話・囚人軍団、出陣
魔王軍に対抗する為、国は牢獄に収監されていた悪党達の中から実力者を選別し、外へ解放した。
闇ギルドや天才科学者、魔術師に元魔王軍幹部など多種多様だ。
「ヴェロス !」
囚人達の前に遅れてヴェロスがやって来た。
冒険者達を殺し尽くした大罪から他の幹部達より罪が重く、最下層にて幽閉されていた。
フライ達より更に過酷な環境で過ごしていた為、髪は腰まで伸び、目の下にはくっきりと深く隈が出来、変わり果てた姿になっていた。
「会いたかったぞ親友 !」
フライは感激しながらヴェロスと抱擁を交わした。
「……まさか、あれだけの大罪を犯した俺が再び日の光を浴びれる日が来ようとはな……」
「何言ってんだ、刑はまだ実行中だ、俺達はこれから魔王軍と戦わされるんだからな」
笑いながらフライはヴェロスの肩を叩いた。
「ヴェロスー !」
涙と鼻水を流しながらサシャは嬉しさのあまりヴェロスに飛び付いた。
サシャはずっと前からヴェロスのことが好きだった。
だが捕まってからは離れ離れになってしまい、ずっと寂しい思いをしていた。
「おい……」
苦い表情を浮かべながらも黙って受け入れるヴェロス。
「所でフライ、この前お前ルーシーに会ったんだろ、どうだった ?」
ヴェロスはずっと気になっていたことをフライに尋ねた。
孤児院の前では後味の悪い別れになってしまっていたからだ。
「ルーシーは元気そうにしてたぞ、今でもお前のことを気にかけている」
「そうか……」
ヴェロスは安心したのか、微かな笑みを溢した。
「あれが数多くの冒険者を殺した魔王軍幹部最強の男……憤怒の災厄のヴェロスか…… !」
「オーラで分かるぜ、ただもんじゃねえ……」
「俺達……より……遥かに……強い……」
一方でオーバ達はヴェロスの姿を目の当たりにし、茫然としていた。
ケルベロスのヴェロスの悪名は闇ギルドの間にも広まっていた。
「今回は味方で本当に助かったぜ」
「ああ、もし敵に回れば三人まとめて瞬殺だろ」
オーバ達は唾を飲みながら震え上がり、冷や汗を流した。
「お前達、よく来てくれたな」
囚人達が全員集まった所で引率役として堅固な山猫が駆け付けた。
国王の密命を受け、多くの騎士団が壊滅する中、魔王軍の目を掻い潜りながら囚人達を迎えに来た。
「で、俺達はこれから何処へ向かえば良いんだ」
ヴェロスは不機嫌そうな目でイリスを睨み付けながら尋ねた。
人間達の都合で戦わされることにあまりいい気はしていない。
一部例外とは言え、他の囚人達も似たような気持ちだった。
首輪がなければ早々に逃げ出しているだろう。
「これから王国ガメロットに向かう、現在城は魔王軍によって包囲され、籠城戦を余儀なくされている、我々はその救援に行くのだ」
イリスは懇切丁寧に説明をした。
囚人達は黙って話を聞いていた。
「まあ良いか……久し振りのシャバだ、準備運動には持ってこいだな」
ヴェロスは肩を鳴らしながら答えた。
「では早速向かうぞ、我々の後に続け」
イリスの指示を受け、囚人達は監獄を後にし、王国ガメロットを目指して歩き出した。
一時的に解き放たれた名のある悪党達の存在が吉と出るか凶と出るか……。
それは誰にも分からない。
魔王城の奥にある魔王専用の大部屋で七人の魔王が玉座に座り、待機していた。
そこへ、一人の兵士が報告にやって来た。
「報告を聞こう」
「はい、人間界にて各国の制圧はほぼ完了しました、オーガ族や半魚人族、竜族や聖霊族は未だ抵抗中ですが……王国ガメロットの制圧も時間の問題です……ただ……」
兵士は気まずそうに口を紡いだ。
「どうしたのだ、申してみよ」
「はい……人間共は我々に対抗すべく、牢獄に囚われた凶悪な犯罪者集団を解放しました……」
「ほう……」
報告を聞き、サタンの口元がニヤケた。
「昔から人間共は力は弱いが我々の想像もつかない奇策を思い付くからな、油断ならない」
ルシファーは興味ありげな雰囲気で言った。
「それにしても勝てないからって囚人達を戦場に駆り出すなんて、品がないねえ」
アスモデウスは呆れた様子で嘲笑しながら言った。
「面白いではないか……何の苦労もなく征服が完了してはつまらんからな、少しくらい抵抗してくれた方がゲームも盛り上がると言うもの」
気持ちが高ぶり、高笑いをするサタン。
他の魔王達もニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「でも良いの? 囚人達の中には魔王軍幹部だった者達も居るって聞いたけど」
「構わんさ、奴等に未練は無い、兵などいくらでもおるからな」
サタンにとって憤怒の災厄は捨て駒に過ぎなかった。
「なあサタン、そろそろ私達も動いて良いか ?」
突然マモンは玉座から立ち上がりながら口を開いた。
「どうしたの? マモン」
「魔力もだいぶ回復した……私も戦いに行きたいんだ」
首を回し、軽い運動をしながらマモンは言った。
「例の囚人達と戦いたくなったの ?」
「いや、そうではない……」
マモンは無愛想に首を振った。
「貴様、何やら目的があるようだな」
意味深な表情を浮かべながらサタンはマモンの顔を見つめた。
「何処へ行くつもりだ」
「聖霊の森だ」
そう答えるとマモンは急ぎ足で扉へ向かい、部屋を退室していった。
「マモンの奴、この話の流れで聖霊の森に行くなんて、何考えてるのかしら」
「……聖霊の森に大事な用があるんじゃない……とっても大切な用が……」
マモンのことが気になるレヴィアタンに対してベルフェゴールは本を読みながら答えた。
「用事って何よ、まさかあの森にお宝でもあるわけ ?」
マモン……強欲の魔王と呼ばれた彼はその昔、ありとあらゆる財宝を求めて世界中を駆け巡った。
泉のように沸き上がる強欲は絶えるは無く、財宝の為に数多くの大罪を犯したとされる。
「さあ……少なくとも彼にとってはかけがえのない宝物がその森に隠されてるのかもね……」
ベルフェゴールは静かに読書の続きを再開した。
「マモンが単独行動に出たが、どうする」
「暫く泳がせておけば良い……そのうち我々も戦いの場に出向く……それまでゆっくりと魔力回復に勤しむぞ」
「それもそうだな……」
サタンに言われ、マモン以外の魔王達は城内で待機することにした。
魔王軍vs人類の戦いはまだ始まったばかり。
強欲の魔王マモンは聖霊の森に単身で侵入を開始しようとしていた。
果たして、彼の目的とは……。
To Be Continued




