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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
最終章・七大魔王降臨編
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第三百二十三話・勇者の剣



私達は道中襲い来る魔物達をひたすら倒しながらホムラの故郷を目指し、険しい道のりを歩き続けた。

最初は倒すのに精一杯で数分かかっていたが戦っていくうちに慣れてきて一体数十秒で倒せるようになってきた。

どれくらい歩いただろうか……。

里を出て皆と別れてから一週間は経ったと思う。


「貴女、この短時間でやるじゃない、やっぱり見込みあるようね」


珍しくホムラは私を誉めてくれた。

少し照れるな……。


「魔物達を倒し続け、貴女は自分でも気が付かないくらい実力が上がってるのよ」

「そ、そうなんですか…… ?」


私は自分の手のひらをまじまじと見つめた。

自分が強くなったという実感が湧かなかった。


「主、貴様から感じる魔力は以前より遥かに高まっている……少しは誇っても良いんじゃないか ?」


ランプの中からフレアの素っ気ない声が聞こえた。


「ありがとうフレア……所で、いつになったらホムラさんの故郷に着くんですか……」

「もう着いたわ」


ホムラが指を差すと、眼前には時代劇のように和風に彩られた村が広がっていた。

色鮮やかな着物を羽織り、狐や猫のような獣の耳を生やした人達で賑わっており、腰に刀をぶら下げた侍のような人達も威風堂々な佇まいで町を歩いていた。

ここはかつて私が住んでいた日本に位置するようだが何処か違っていた。

中世ヨーロッパ風の風景にすっかり慣れていた私は新鮮な気持ちになった。


「ここが私の故郷よ」


この村は普段は人間が入り込めないように特殊な結界が村全域に張られており、普通の人間には認識出来ないようになっていた。

ここにはホムラと同じように特別な魔力を持った「妖」と呼ばれる人達が暮らしている。

彼等は長命で老いることなく数千年もこの場所で生きていた。


「何だか……アウェイと言うか……何というか……」


私は少しだけ不安になって来た。

ホムラに許可されているとは言え、人間の私がこの妖達が住む村に来るなんて場違い何じゃないかと思えてきた。


「ワカバ、私の家に行くわよ」


ホムラは私の腕を引っ張りながら彼女の家へと向かった。




私は彼女に案内され、ホムラの家にたどり着いた。

家には誰も居らず、長い間留守にしていたようだ。

茶道部が使っている部室のような和室となっており、部屋の奥には大きな仏壇があった。

ホムラが押し入れで何かを探している間、私は居間で正座をしながら待機していた。


「やっと一息つけますね……」

「そうだな……今はゆっくり体を癒すといい」


ランプの中でフレアは私に労いの言葉をかけた。


「待たせたわね」


間もなくしてホムラは大事そうに何かを抱えながら居間に入ってきた。

彼女が持っていたのは、赤く錆びれた一本の剣だった。


「何ですかそれは……」


ホムラは私の真正面に座ると錆びた剣を畳の上にそっと置いた。


「これは……かつてジャスミンが使っていた剣よ、長い年月の中で、すっかり錆びてしまったけれど……」


ホムラは複雑な表情を浮かべながら剣を見つめた。


「ジャスミンとイフリートは魔王を倒した後、忽然とこの世界から姿を消した……私が駆け付けた時にはもう遅く、彼女の剣だけが地面に突き刺さっていた……私はいつかジャスミンが戻ってくる日を信じて剣を持ち続けたわ……でも数千年経っても戻って来なかった……剣もすっかり錆びて使い物にならなくなったわ……」


ホムラは切ない表情を浮かべながら力なく笑った。

どれ程の思いでジャスミンを待ち続けたのか、痛い程伝わってきた。


「ワカバ……この剣を貴女に託すわ、勇者の適性を持つ貴女なら、この剣を使いこなせるはずよ」

「え、でも、もう錆びて使い物にならないんじゃ……」

「この剣は普通の剣とは違うわ……戦う度に剣の使い手の魔力を吸収し力を得るの……今は魔力の供給が途絶えているせいで枯渇してこんな姿になっているけど、貴女が魔力を与え続ければ、剣は復活するわ」


そう言うとホムラは錆びれた剣を私に差し出した。


「ワカバ、貴女の魔力をこの剣に注いで頂戴」

「私の魔力を……」


私は言われるがまま、錆びれた剣の柄を握った。


ビリリリリリ


「うっ…… !」


突然全身を電流が走るような感覚が襲った。

剣を握った方の手が痙攣を起こしている。

身体中の魔力が吸収されていくのを感じた。


「やはり……普通の人が触れても何も起きなかった……私ですらも……この剣は貴女に反応してる……そのまま握ってて…… !」


剣はまるで生きてるかのように物凄い勢いで私から魔力を根こそぎ吸い上げようとしていた。

私は全身に脱力感を覚えた。


「う……くくっ…… !」


何とか意識を保とうと歯を食い縛り、剣を握りしめる。

そうしていくうちに剣に変化が訪れた。

パキパキと音を鳴らしながら錆びた鉄屑が剥がれ落ちていった。

やがてまるで新品のように綺麗な艶めいた銀色の刃が剥き出しになり、金色の眩い閃光を放った。


「はぁ……はぁ……」


私は限界を迎え、手から柄を離し、脱力感からその場で崩れ落ちた。


「おお…… !」


ホムラは目を輝かせながら足元の剣を見つめた。

最早錆び付いたボロボロの剣の面影は微塵も無かった。

伝説の宝剣と呼ぶに相応しい豪華な装飾が至るところに施された、紛れもない勇者の剣だった。


「おめでとうワカバ、貴女のお陰で勇者の剣は本来の輝きを取り戻したわ」


ホムラは勇者の剣を拾い上げると私に差し出した。


「そ……そうなんですか……それは良かったです……」


私は息を切らしながら剣を受け取った。

相等の魔力を剣に吸われ、全力疾走したような状態になっていた。


「これが……ジャスミンの使っていた剣……」


私は真剣な表情で剣を見つめた。

数千年前、伝説の勇者と謳われたジャスミンはこの剣を片手に広大な世界を冒険し、魔王軍と戦い抜いた……。

そして今、私は勇者の剣を託された。

彼女の宿命を背負う重みをひしひしと感じた。


「貴女は勇者の剣に選ばれたわ……だけどまだ剣を手にしたばかり……次のステージに行くわよ」


ホムラはすくっと立ち上がった。


「5分休憩したら庭に行くわ、この剣を自在に使いこなせるようになるまで徹底的に修行するわ」


ホムラの瞳は真剣だった。

その気迫に私は気圧された。


「はい……分かりました……」


勇者の剣は普段私が使っているものよりも重く、使いこなすことは容易では無かった。

だけど逆に言えば勇者の剣を使いこなせるようになれば魔王とも渡り合えるようになるということだ。


「リト……私、勇者になって、絶対に強くなるから……」


私は剣を握りしめながら改めて心に誓った。

真の勇者への道は果てしなく遠い……。


To Be Continued

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