第三十話・亜人を狙う盗賊団
私はエルサの家に戻ると広場で歌っていた鳥人の子の話をした。
「鳥人の歌姫か……私も聴いてみたかったなぁ」
「私もです」
エルサとリリィは羨ましそうにしていた。
「また今度来るって言ってましたよ」
「そうか、それは楽しみだな」
「綺麗に歌えるって凄いですよね、私なんてご主人様によく音痴だーって怒られますから」
「当たり前だろ、お前の歌は歌とはいえねえ代物だ」
「うう……」
酷い言われよう……と思ったけどリリィの場合は超音波になってしまうからなぁ……。
「そうだ、最近盗賊による亜人誘拐事件が増えているらしい。君達も充分注意するんだぞ」
エルサは全員に注意換気した。
盗賊か……怖いなぁ……。
「誘拐?んなもん返り討ちにしてやるよ」
「俺達なら心配要らねえな」
エルサ、ヴェルザードとマルクなら強いから大丈夫そうだ。寧ろ盗賊達が可哀想になるレベルだ。
「でも私、皆さんのように強くないし……」
リリィは心配そうな顔をした。
「お前の超音波なら簡単に撃退出来んだろ」
「ご主人様~、そこは「心配すんな、俺が守ってやるよ」って言ってくださいよ~ !」
リリィは可愛らしく拗ねた。
「主、例え盗賊や魔族がやってこようと、私がいる限り貴方に指一本触れさせませんよ」
「いや、ワカバもだいぶ強くなった。最低限の敵なら君一人でも充分追い払える」
「エルサさん……」
エルサは私の肩をポンと叩いた。
「だが油断はするなよ。君はまだまだ実践経験が足りない。本当に危なくなったらすぐに逃げるんだぞ」
「わかりました。エルサさん」
私はニコッと微笑んだ。
本当に良い師匠、いや良い友達に恵まれたな、私は。
「皆さん~ !晩御飯が出来ましたよ~」
リリィがみんなに呼び掛けた。私達は食卓についた。
数日後、エルサの指示で私はとある森で修行することになった。森に住む魔物を倒して経験値を稼ぐのだ。魔物は人々を襲うのでその退治も出来て一石二鳥ということらしい。
「はぁっ !」
私は現れた小さなスライムを剣で切り伏せた。
スライムは真っ二つに斬られ、消滅した。
「お見事です!主!」
「有り難うリト。」
最初は魔物から逃げ回った私でも最近では逆に倒せるようになった。エルサの指導のおかげだ。
「これは私の出る幕は無さそうですね」
「そんなことないですよ。私なんてまだまだです」
私はリトと雑談をしていた。
その時、女の子の悲鳴が聞こえた。
「この声…… !まさか、魔物に襲われて?」
「分かりません !しかし緊急事態なのは確かのようです !」
「とにかく行かなきゃ !」
私は悲鳴の聞こえた方へ駆け出した。
「な、何なんですか~貴方達は~」
「へっへっへ~良いじゃねえか~」
すぐさま駆けつけてみると、ミライが数人の柄の悪い男達に囲まれていた。
「ミライちゃん !!」
「あっ !ワカバちゃ~ん !」
ミライは私に気づき、助けを求めた。
「あ、貴方達、一人の女の子相手に何をしているんですか !」
私は数人の男達を前に緊張しながらも問いかけた。
「あぁん ?なんだてめえ、騎士かぁ ?」
「俺達はこの鳥人を捕まえて、その羽を売っぱらおうとしてるだけだぜ」
「鳥人の羽は文字通り飛ぶように売れるんだぜぇ?この娘も中々上玉みたいだし、翼もいだ後奴隷にしたら価値あんじゃねえの ?」
男達は下卑た笑い声を上げた。何て卑劣な……。
ミーデと同類だな。
「その子は私の友達です !手を出すなら許しません !」
私は震えながらも剣を抜いた。
男達は一瞬狼狽えた。
「おい、こいつマジで騎士だぜ ?大丈夫か ?」
「いやいや、よく見ろ。目が緊張してやがる。精々騎士見習いだろ。弱いに決まってる」
「何だ、驚かせやがって !……よく見たらお前も可愛い顔してやがんなぁ、この鳥人と比べると地味だけど」
男達は好き勝手言いながらそれぞれ武器を構え、ジリジリと私の方へ近づいてきた。
「へっへっへ、ついでにお前も捕まえて、あの鳥人共々楽しんでやる」
「お前達の絶望し苦痛に歪む表情……想像しただけで興奮してくるぜぇ !」
男達はニヤリと口角をつり上げた。私はゾワッと背筋が凍った。
「おのれぇ……このゲス共め……主を辱しめようとするなら、私が灰にして消し去って差し上げますよ !」
ランプの中のリトは怒りを露にしていた。
「リト、大丈夫ですよ……。それに実践経験を積む良い機会ですから」
「主……くれぐれもお気をつけて !」
エルサは危なくなったらすぐに逃げろと忠告していた。
それは忘れていない。だけど私は目の前の友達を助けるため、この男達と戦うんだ。
「やっちまえぇぇぇぇぇ !!!」
男達は一斉に襲い掛かった。
ん ?……動き遅くない ?
「はっ !」
私は最初に襲い掛かった男の攻撃を避けるとみぞおちに蹴りを入れた。
「あがっ…… !」
男はみぞおちを押さえながらゆっくりと崩れ落ちた。
「え……」
私は困惑していた。もしかしてこの人達、見た目に反して弱い?
「主、貴方は今までの魔獣との戦い、さらにエルサとの稽古を経て力をつけました。あのような雑魚など、簡単に蹴散らせます。自分に自信を持ってください」
「リト……わかりました !」
私はリトの言葉に頷くと男達に向かっていった。
「はぁぁぁぁ !」
あまり長い時間はかけられない。私は剣を大きく振り、その衝撃で男達を吹き飛ばし、瞬殺した。男達はそれぞれ樹木に叩きつけられた。
「こ、この女……化け物だぁ…… ?」
一人の男がそう言い残すと気を失った。
私はいつの間にか強くなっていたようだ。
「ミライちゃん !怪我はありませんか ?」
私はミライの元に駆け寄り、彼女の手を取った。
「ワカバちゃん……うわぁぁぁん !怖かったよぉぉぉぉ~ !」
ミライは私の顔を見ると急に大声で泣き出し、私に抱きついた。
「わっ !……よしよし」
私はミライの頭を優しく撫でた。
「流石主 !あのような屑共敵ではありませんでしたね !カッコ良かったです !主はまさにイケメンです !」
一応女の子なんだけどなぁ……。
でもこれで一安心。だけどいつまでもここに留まるのは危険だ。
「ミライちゃん、取り敢えず私達の家に来ます?」
「うん……」
私達がこの森から出ようとしたその時、突然、物凄い速さの鎖が私達を襲った
「鉄の抱擁 !!!」
「キャッ !!!」
鎖は蛇のように私達の身体中に絡み付いた。私達は抱き合っていた状態で縛り上げられ、身動きが取れなくなった。鎖はじわじわと締め付けてくる。
「んっ……!いたっ……!」「何なんですか~ !」
「主 !!!」
私は締め付けられる痛みで思わず顔を歪めた。ランプに手を伸ばそうとも、腕が動かない。
「ほう~、俺っちの部下をのしちゃうなんて、良い腕してんじゃ~ん ?」
そこへ、鎖を自在に操った謎の男が現れた。男は飄々としていた。
「二人共結構旨そうじゃ~ん ?」
男はそう言うとペロっと舌めずりをし、ニヤリと笑った。
To Be Continued




